第83話 忍者が恋なんてするわけない②

 どうしよう、ハレオが男を連れてきた。

 しかも結構イケメンだ。

 信じない、私は信じない。

 これは、これで……。


 スミレ、トウカ、ボタン、ユウはそれぞれの思いを胸に、セバスチャンを連れて帰宅したハレオを迎え入れた。


 「お邪魔致す」

 「ハレちゃん、こちらの方は?」

 息が荒くなっているのことを悟られない様に、大人の対応を見せるユウ。


 「えっと、こちらは忍者のセバスチャンさんです」

 「おい、ふざけるな、私の名はデセンデント・ブラッドライン・オービディエス・バトラーニンジャ・セバスチャンだ」

 「かっカッコいい……」

 「えっと、どこの国の方ですか?」

 目を輝かせるトウカと冷静に聞き返すスミレ。


 「伊賀の出だ」

 「伊賀キターーーー」

 「やっぱり忍者じゃん」

 「違う、私は執事だ」

 「うーん、色々盛り過ぎね、顔は良いけど無理があるわ、出直してきて」

 「女、貴様、私を愚弄する気か」

 キレ気味のセバスチャンはユウの顔を舐め回す様に見ると、その切れ長の目をさらに細めた。

 ユウは、そのイケメンっぷりに顔を赤らめる。


 「ユウさん、そうやって初対面の人に試練与える癖をなんとかしないと、そのうち大怪我しますよ」

 ハレオは、ユウとセバスチャンを引き離すと、自宅に招いた理由を説明した。


 「えーと、破産して、誘拐されて、執事が追い出されて、お嬢様の独り暮らしが大変だから、ここの家に住まわせたいけど、お嬢様に反対されたから、ここの家をお嬢様好みに改造する為に忍者を連れてきた、と?」

 「忍者では無い」

 「うーん、まぁ破産はしてないらしいんだけど、だいたいそんな感じ」

 ハレオは苦笑いを浮かべながら頭をポリポリと掻いた。


 「セバスさん、ちょっとハレちゃん借りるわね」

 「セバスではない、セバスチャンだ」

 「“さん”も、“ちゃん”も一緒でしょ」

 「むむむ、無礼な女め」

 ユウは不機嫌なセバスチャンをリビングに残し、その他のメンバーをキッチンに集めた。


 「ハレちゃん、なんなのあの変人は」

 「そうですよ、お兄ちゃん、変な人連れて来ないで下さい」

 「ハレオくん、心配したんだからね」

 「ハレオってさ、やっぱりゲ……」

 ゲイと発言しようとしたスミレの口をユウが塞ぎ「ダメよスミレちゃん、直球は逆効果だから」と耳打ちする。


 「ゲ?」

 「うううん、なんでもない」

 「?そうか、まぁいいや、これも何かの縁だからさ、セバスチャンの相談に乗ってあげようよ」

 「そりゃ、ここはハレオの家だから、私たちに拒否権は無いけども」

 「けどお兄ちゃん、なんか新手の詐欺に引っ掛かってたりしてないよね?」

 「あのバカっぽさは詐欺師なんかじゃないと思うけど」

 「気を付けてユウさん、セバスチャンは読唇術を使えるから」

 「やっば、ホンモノの忍者じゃん、カッコいい」

 トウカは、目を輝かせてリビングを振り返ると、ニヤリと笑みを浮かべるセバスチャンと目が合った。


 「まぁ女の子が増えるのは楽しそうだけど、変人忍者のあの男の人は、ちょっとね~」

 「いや、セバスチャンは、おん……」

 ハレオがボタンの言葉を訂正しようとした瞬間、セバスチャンはハレオの後ろに立ち、その首にナイフを押し当てる。


 「ハレオ殿、人の素性をペラペラと喋るのは感心しないな」

 「うっ、分かったよ、悪かった」

 「分かれば良い、皆の者も、よくよく考えを改めよ。お嬢様の事が最優先、故に貴様らに拒否権は無い。逆らえば粛清するからな」

 セバスチャンはナイフをヒラヒラとチラつかせて皆を威嚇した。


 「「「……」」」

 ユウは、スミレ、ボタン、トウカを連れてキッチンの奥に進み、口をセバスチャンに見られない様に背を向けた。


 「どうやらあの男とハレオは、そういう関係では無いみたいだな」

 「ええ、ただの変人っぽいですね」

 「良かった、本当に良かった」

 「でも、想像以上にめんどくさそうですけど」

 「無視してりゃ勝手に帰るだろ」

 「そうですかね」

 「最悪、通報する」

 「そうですね」

 4人は、そう言って解散し、ユウはハレオの肩を叩くと「好きにやってくれ」とだけ言い残し自室に戻った。


 「皆、観念したようだな」

 「観念したというかなんというか……まぁとりあえずセバスチャンの作戦通りにやってみようか、1人で待ってるモッカの事も気になるし」

 「では、早速始めようか」

 「そうだ、家の改造って具体的にどうするのさ」

 

 「ふふふ、名付けて忍者屋敷化計画」

 「……」

 呆れるハレオ。

 「やっぱり忍者じゃん」

 リビングで聞き耳を立てていたトウカは目を輝かせる。

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