第76話 誘拐犯になんて恋しない⑦

 ハレオ宅。


 「初めてってどういうことですかユウさんっ」

 「な、なによ、24にもなって未経験が悪い事?」

 「いや悪い事じゃないですけど、ヤったとかヤってないとか、ハレオくんのはス・ゴ・イ、わよ、とか散々私のこと揶揄っておいて、自分もヤってないじゃないですか~」

 「ボタンちゃん、演技よ演技、声優は演技力が命だから、私はどんな役だって完璧に熟してみせるわ」

 「開き直りましたね、演技だとしても言って良いことと悪いことがありますよ、私も結構傷付きましたからね」

 「トウカちゃんのお母さんとは友達だから、あれはちょっと本音も入ってるのよ、井本さん、最近寂しがっていたから……」

 「お母さんが……」

 「でも、大丈夫、私が元気だって伝えたから、それに私も一緒に暮らすことになって安心してるって」

 「そ、そうなんですか」

 「たまには会いに行ってあげなさいよ」

 「……ありがとうございます」

 「じゃあ、私はどうなんですか?ほんとに声優向いてないですか?」

 「スミレちゃん、まだ居たの?ハレちゃん探しに出たと思ってたのに」

 「なんか、みんな楽しそうにしてたから……」

 「まぁいいわ、じゃあ正直に言うわよスミレちゃん」

 「はい」

 「声優になるには、演技力、記憶力、感受性、表現力、国語力、コミュニケーション能力……」

 「そんなに……」

 「全部必要無いわ」

 「え?」

 「必要なのは強い意志だけ、ヤるかヤらないか、それだけよ。その他の能力は後から付いてくるから」

 「コネは?」

 「良い所を突くわねボタンちゃん、でもコネクションのことは心配御無用。W高メンターとして全力でサポートするから、私に付いてきなさい」

 「ユウ様ぁ」

 「じゃあハレちゃんをよろしくね」

 「ハイッ、行ってきますっ」

 「スミレさん……飼い慣らされてる」

 「さぁ残った我々は、お風呂に入るわよ」

 「ちょっと待って下さい」

 「なに、まだ何かあるのトウカちゃん」

 「大有りです。ユウさんが経験者だから、お兄ちゃんの為に一肌脱ごうと思ってたのですが、このままでは不安しかありません。それに、やっぱり寄って集って無理矢理なんて、下手したらお兄ちゃんに新たなトラウマを植え付けてしまう恐れもあります」

 「そうですよ、ハレオくんは純粋なんです。愛すべき人は1人なはず。ここはやはり私が、私だけが一肌脱ぎます」

 「ボタンちゃん、確かにあなたの体は私に引けを取らないわ、けど熟れていないの、まだよ、今じゃない。だから私が脱ぎます」

 「ユウさん、そういう卑猥な問題では無いと思うのですけど?」

 「じゃあどうするのよ、このままだとハレちゃんは男友達を好きなままじゃないの、無理矢理にでも女を知ってもらった方が手っ取り早いでしょ」

 「ナリヤスくんの事が好きかどうかも分からないのに先走り過ぎですよ」

 「そうですよ、お兄ちゃん言ってましたよ、ユウさんのことが好きなのかもしれないって」

 「えっ……ハレちゃん、そんな事言ってたの?」

 「どうしたんですかユウさん、顔が赤いですよ」

 「えっ、いや、なんか意識したら恥ずかしくなってきちゃった」

 「でも、まだ“好きなのかもしれない”ですからね、かもしれないです。まだ皆にもチャンスはあるはずです」

 「やはり、ここはお兄ちゃんと面と向かって話をして真相を聞き出しましょう。正直に言わないかもしれませんが、それはそれでまた別の作戦を考えるまでです」

 「……そうね、確かに、こういうのには凄く繊細なハレちゃんだから、また引き籠ってしまうかもしれないしね」

 「そうですよ、慎重に行きましょう、慎重に。男友達が好きかもしれないってことは、他の女の人に惚れる可能性が無いってことなので、焦る必要はありませんよ」

 「流石トウカちゃん、的を得てるわ、私もハレオくんを信じる」

 「トウカちゃんとボタンちゃんの言う通りね、男ならまだしも、私達みたいな美少女が居るのに、他の女に目移りするハズがないものね」

 「「美少女……」」

 「いいでしょっ、24歳はギリ美少女よ」

 「にしてもハレちゃん、遅いわね」

 「美少女とデートしてたりしてね」

 「「「あははは……」」」

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