第47話 アイドル声優は気付いてる③

 終わった。

 親父のハーレムから解放されて、静かな生活を手に入れたのに、全てが音を立てて崩れて行く。

 トウカは宝くじの当選金のことを知ってはいるけど、自身も金持ちだから気には留めない。妹という真実も相まって、一緒に居ても苦にならない、むしろ楽しい。

 だが、スミレとボタンは気付いていない、引っ越し前のアパートで妙なアプローチをしてきたからバレたと思っていたが、杞憂だった。だからこそ、以前の様に皆で楽しく過ごせていた。

 だがどうだろう、もしもユウさんが俺の当選金のことを2人に話してしまったら……。

 

 きっと2人は変わってしまうだろう、金を欲し欲に溺れ堕ちて行くだろう。


 嫌だ、そんなスミレとボタンは見たくない。


 ハレオの頭の中は絶望が渦巻いていた。

 

 「諦めなさいハレちゃん、私からは逃げられないわ」

 ユウは、そんなハレオの肩に手をのせて、耳元で囁く。

 そして靴を脱ぎ捨てて、部屋中を物色し始めた。


 「お兄ちゃん大丈夫?顔色悪いよ。とりあえず私はユウさんにお茶でも出すから、部屋で休んできなよ」

 そう言ってトウカは、サインペンと謎のキャラクターが印刷されたTシャツを準備しに行った。もちろんユウからサインを貰う為だ。印刷されたキャラはユウが声優を務めていた。


 「ちょっと、あまりにも失礼じゃないですか?ここはハレオくんの家です。ズケズケと入って来ないでください、ハレオくんも嫌がっています」

 ボタンは、部屋を品定めする様に見回るユウの腕を掴んだ。


 「痛いわね、あなた名前は?ハレちゃんの何?」

 「ボタンです、ハレオくんとは、その、なんというか……」

 「ふ~ん、ハレちゃんとはヤったの?」

 「は、はぁぁ?な、なにを急に……」

 ボタンは振り向き、玄関に居るハレオを確認し、胸を撫で下ろす。ハレオは落ち込んだまま微動だにしない、こちらの声も届いていない様だ。

 スミレもトウカにくっ付いて行動していて見当たらない。


 「なぁんだ、ヤってもいないのに、ここで何してるわけ?まさか友達ごっことか言わないでよね」

 「ヤったとかヤらないとか、なんなんですか一体、出て行って下さい」

 「こんなに良いモノ持っているのに、勿体ないわね」

 「あっ……」

 ユウに胸を鷲掴みにされたボタンは、思わず声が出てしまう。


 「うふふ、感度も抜群じゃないの、頑張って猛アタックすればハレちゃんなんてイチコロよ」

 「ふざけないでください、私、あなたのことが嫌いですっ」

 「あらあら、別に私はあなたに好かれようとは思わないのだけれど、これだけは言っておくわね、ハレちゃんのは、ス・ゴ・イ、わよ」

 ユウはボタンの耳元で淫らに囁いた。


 それを聞いたボタンの目には涙が浮かんでいた。


 言いようのない敗北感、この女は一体ハレオの何を知っているというのだ。

 もしかして、ハレオは、もう……。

 頭が真っ白になったボタンは、ユウの手を離し、その場にへたり込んでしまう。


 それを見たユウは、ハッとした表情を見せ、腰を下ろしてボタンの頭に手を乗せた。

 「冗談よ、泣かないでボタンちゃん、これから仲良くしましょうね」


 ハレオ同様に、ボタンもその場から動けず、打ち拉がれるしかなかった。

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