第18話 一夫多妻制なんてありえない①

 金田はハレオとの会話後に動いた。

 ハレオと同学年の生徒へ近付き、情報を集めて回った。

 父親、ハーレム、1人暮らし、妹、WEB上に落ちている、ハレオのあらゆる情報を精査した。

 恋敵の弱みを握り、屈服させるために。


 そして金田は、その日の最後の授業を使い、ハレオを追い込む。


 「今日のグループディスカッションのテーマは【一夫多妻制の是非について】です」

 金田は、そう言い放った。


 生徒達は騒めく。

 「何だよソレ、高校生が議論するテーマじゃないでしょ」

 一人の生徒が口火を切った。


 「高校生だからだよ、俺達は世界を変えられる、未来がある、ここに居る全員が日本を、世界を動かせる可能性があるんだ。昨今の少子化問題にも繋がるかもしれない大事なテーマだと思わないか?」

 金田は、この展開を望んでいた。もしかしたら仕込みの生徒だったのかもしれない、だが、不穏な空気は一変し、生徒達は、議論の余地があるテーマだと認識し始める。


 「あー、今日初登校の晴間くんは、流れが分からないと思うので、観覧に回って下さい」

 そう言うと金田は、イス1脚を自分の隣に持ってきて、ハレオに座る様に促した。

 ハレオは、見守るメンターの1人に付き添われて、その椅子に座った。

 

 (グループディスカッション?一夫多妻制?議論?なんなんだこの状況は)

 ハレオは、ハーレム状態と言われた今朝の登校時の状況を一日中考えていた、どうすれば、その汚名を払拭できるか、どうすればボタンとスミレを自分から遠ざけられるか。答えは出ず、上の空のまま、最後の授業に参加していたのだ。

 

 そして、一夫多妻制がテーマとなった議論の場で、生徒全員の視線が集まるファシリテーターの隣に置かれた。


 まるでそれは、一夫多妻制、あるいはハーレムを断罪される罪人の様に。


 「はい、それでは、一夫多妻制について賛成派と反対派に分かれて下さい。まずはあまり深く考えず、第一印象で動くように、どちらに付けばいいか分からない場合は、少ない意見の方に回ってください、できるだけ人数が均等になる様にお願いします」

 3年生の経験値からくる余裕から、金田は慣れた手付きで指揮を執る。


 まずは女子生徒達が一斉に反対意見に回り、それに対峙するかのように、いかにもインテリ系なメガネ男子数人が賛成意見側の席に着く、あぶれた男子達もそれに続いた。


 「若干、反対派が多いですが、まぁいいでしょう、では、意見がある方」

 「はい」

 進行する金田、それに真っ先に反応したのはスミレだった。


 「一夫多妻制なんて絶対にいけないことです。議論の余地なんてありません」

 堂々と言い切ったスミレだが、周りからクスクスと失笑が漏れた。


 「1年生のスミレさんは、議論の場に慣れていないようですね、テーマの否定は厳禁です。なぜいけないことかを述べて下さい」

 「だって、それって不倫じゃないですか、今の世の中、不倫した人がどんな酷い晒しにあうかなんて、芸能人やスポーツ選手を見ればわかりますよね」

 「違うね、それは論点のすり替えだ」

 スミレにインテリメガネが噛み付く。


 「貧困に喘ぐ途上国では、一夫多妻制度は容認されている。これは、経済力の無い女性を貧困から守るために、遥か昔からある愛情表現のひとつだ」

 「そんな発展途上国の話を持って来れられてもねぇ」

 インテリメガネの饒舌に、女子生徒達はいかにも高校生らしい返しをした。


 「途上国だけの問題でもないさ、この議論は一夫多妻制が有りか無しかだ、そういう制度を必要としている国や人々がいる限り、賛成意見は無くならない」

 「それってでも、貧困に喘ぐ国があることが根本問題だよね?それこそ論点のすり替えじゃないの?」

 「分かりました、では、生物学的観点から見てみましょう。何故、一夫多妻制は有るのに一妻多夫制は無いのだと思いますか?」

 「……知らないわよ」

 「繁殖能力の有無ですよ、一夫多妻制は優秀な雄が複数の雌に種を付け、雌の数だけ子孫を増やせる。逆に多夫一妻制は、どんなに優秀な雄が多くても、産めるのは一人だけ。つまり人類の大いなる使命である子孫繁栄に沿った立派な行為なんですよ」

 「はぁ?うちらはケダモノじゃないっての、感情を持っているし、愛情を知っている、理性があるからダメだって言ってるの」

 「ふぅ幼稚で話にならない」


 女子生徒達の反対意見がハレオの心に突き刺さりながら、その後も熱い議論は続けられた。

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