第17話
「あ、雨狩君……」
那内が恐怖がよみがえったのか、小刻みに震えている。
「どうしました那内さん?」
「お、おトイレ行っても良い? 一人じゃ家ならまだ安心だけど、外だと悪魔が出そうで怖くて行けないんだ」
「……出石眞さん。彼女を護衛しつつ、ここの近くにゲームセンターあるのは知ってますか?」
「そこの奥にある女子トイレね、わかったわ。騒がしい場所だけど、この前の公園は警察の捜査で厳重になっているでしょうしね。公園の近くにあるトイレじゃ入れないしね。決まりね」
「ありがとう出石眞さん、雨狩君」
出石眞は那内にウインクして、人差し指を顔よりやや下に立てた。
「ああ、そうだ。なんなら私も一緒に那内さんと一緒に入って守ってあげようかしら?」
「そこまであなたを信用できません。少なくとも僕と同行の形で護衛をしてください」
雨狩は刺々しく冷たく言う。
出石眞は立てた人差し指を戻して、腰に手を当てる。
「はぁ、嫌な高校生ね。早く行きましょ。駐車場なんだから交通の邪魔でしょ?」
雨狩達は早退中の制服の姿の那内に、若い成人女性の格好をした出石眞。
制服を袋に入れたブカブカのポロシャツとデニムズボンの三人組で、周りから見れば何か怪しさを感じる三人組。
そんな奇異な視線を周囲から感じながら、埼玉のゲームセンターに向かった。
「あなたゲームセンターとか行くのね、秀才お坊ちゃんに見えるのに意外ね」
「初めてですよ、スマートフォンで調べて、服の買い物の時に遠くから見かけたこともありますけどね」
「あ、雨狩君。怖いから、手まだ握っていいかな?」
「いや、その、出来ればこういう形で手を握る関係になりたくはなかったのですが、事態が事態ですしね。照れますけど……」
※
「御託は……要らねぇ!!」
ゲームセンター内部の格闘ゲームの筐体画面から男の声が聞こえる。
声を出した出石眞と同じ炎を使う男のキャラクターが、ピンクの髪の刀を持った眼帯を付けた女サムライを倒す。
(こうして現実に炎を使う能力者が隣にいると、架空のゲームでの炎を使うキャラクターが動いているのが当たり前のように思えて感覚が麻痺してきそうだ。気分があまり良くないな)
格闘ゲームの台を見つめながら、雨狩は那内のトイレ中に安否を気遣う。
雨狩は出石眞とトイレの前の自販機の付近にいた。
「あら? 私が那内さんを守っているのに、貴方はやらないの? せっかくのゲームセンターなのに勿体ないわよ?」
「変に気を使わなくて良いです。悪魔を早めに倒すために他の支部から応援などは来ないのですか?」
「応援って言うのはああいう事態になってからじゃないと来ないわよ」
そう言って出石眞は顎をクイッと動かして、雨狩にその示した方向を見せる。
「さっきから乱入してばかりでよ。お前壁ハメばっかしたろ? おい!」
「一人用がやりたきゃそっちの筐体行くか家庭用で遊んでれば? 主役キャラ使ってるからって主人公気取りか?」
「あ? ノーゲージでガーキャン出来ることしか取り柄のない玄人気取りの弾無しキャラ使われがほざくなよ?」
「は? お前、自分の立場分かってる? リアルでもお前はカカッと負けんだよ。負け犬クソザコナメクジ野郎っ……」
「じゃ、オラァ! オラァ! 来いよ! オラァ! ああっ!?」
「痛ってぇな! 殺されたいか? ちょっと、永眠ねむってろお前!」
若い二人の男性が殴り合いを初めて、周りが止めに入っていく姿を見る。
雨狩は那内の安否を優先して、その光景を傍観する。
「ああいう風に派手に事が起きなきゃ、応援なんて来ないのよ。あの悪魔を追ってきた私のようにね」
「……酷いものですね」
「悪魔も人間も同じとは私は思いたくないけどね。ましてやこんなこと日常茶飯事にしたくないわね」
マウントを取って殴っている男を別の男が羽交い絞めにして、起き上がった男はナイフを取り出そうとして別の男に首を横に振り手を止められている。
店員が来て二人は羽交い絞めにした男を振りほどく。
男はナイフをしまって、外に逃げるように走っていった。
「ごめ~ん。落ち着いて、トイレ済ませたよ~。守ってくれてありがとう~。あれ? 二人ともどうかしたの?」
那内がトイレから戻ってきたが、あの光景を見せるには雨狩は説明し難かった。
「いえ、なんで悪魔を、目撃した僕らだけをここまでしてくれるのか聞くところでしたから」
「え? そうなの? 出石眞さん、もしかして他にもあいつを見ている人とかいたの? 早くやっつけてほしいよ~」
「……異形の悪魔を目撃したのが、貴方達だけだからよ。あいつらは普段は迷彩を張って、中々人前に現れないのよ。今回たまたま貴方達に何故か姿を現した。適正が原因なのかも……」
「適正~?」
那内が興味ありそうに、ウサギのようにピョコピョコした女子特有の仕草で可愛らしく動く。
どうやら三人がいれば安全だと思い、慣れたのだろう。
雨狩はポロシャツの、洗濯していない服から出る痒みに肌を少し掻く。
着替えたいのを我慢して、出石眞の言葉を待つ。
「異形の悪魔は、稀に能力者の適用の素質の高い者によりつくところがあるの。能力のない物だけを襲うのも狡猾なあいつらの特徴よ」
「適応が高いとどうなるの~?」
「恐らく悪魔側が脅威となる能力者の目をその能力を借りるという前に、積んでおきたいのでしょうね。生態系として考えれば成長する前に捕食しなければ、数で逆転され脅威になりますし」
「大した想像力ね。雨狩君。その通りよ。あいつらは適性のある能力になれる未来の存在を恐れている。だからまだ数が足りない現状で、能力者を増やさずに殺していかに勢力を上げるか会議を開かずに独自に行動しているのよ」
「こ、殺すって! そんな、怖いよ! 警察に……出来ないよね……ううっ、ぐすっ」
那内が震えながら肩をすくめる。
現実を受け入れられないのは雨狩も同じだが、適用しなければこの現状を打破できない。
そう思い、情報を出石眞から聞き出す。
「話を続けていいかしら?」
「ええ、適応と能力を借りれる。これについて聞きたいです」
「……まず借りれる能力は選べないの完全なランダム。契約書の媒体文字が光の青文字で浮かんで、腕を通して使いたいという意思があれば能力を借りれる」
「条件を果たすには、どうすれば?」
「適正が突然発生するしか言えないわ。私の時は異形の悪魔に母親を殺された時に文字が浮かび、頭に情報が入ってそれで能力を借りた。エクソシストに保護されたのはその後、事が起きなければ来ない。本当に来ない……」
「私達にはそのて適性があるんだね~。わかったよ~。人助けだと思って、能力を借りる時は使うよ~」
那内がガッツポーズをするが、雨狩は真剣に那内を見つけ声を荒げた。
「危険ですよ! そんな恐ろしいほぼ強制の事態なんて……! 適性があるから悪魔は襲ってくるんですよ! 不条理です!」
「そ、そうだけど……でもこのままじゃ私達どうなるか分からないし、怖いよ。出石眞さんがなんとかしてくれるから来ているんだし、出石眞さんがその失礼だけど……」
「そうね、私が殺されることもありうるわね。今まで倒した悪魔は21体だけど」
「っ!? そんなに多くも異形の悪魔がいるのか……異常でしかない」
雨狩はあの夜の異形が暗闇に何人、いや何体も現れる光景を想像して足が震える。
「でも、安心して……適性がある貴方達を見つけられただけでも幸いよ」
那内か雨狩どちらかが何かを言おうとした時に、それは聞こえた。
「オネイサン……オネイサン……キヒヒッ!」
不気味な男の声のように響く。
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