第406話 疑惑の靴跡

 アイザックは、ティファニーに話を切り出せずにいた。

 何よりも時期が悪い。

 今は誕生日前。


 リサが反応したように――


「十八歳になったから、十八禁な行為をやらせてほしい」


 ――という風に勘違いされたりしないかと怖かったからだ。


 下手に「話がある」と屋敷に呼び出す事はできない。

 だからといって、学校で話せる内容でもない。

「せめて誕生日が過ぎれば大丈夫だろう」と思い、それまではどのように話を切り出すか考える事にした。


 友人達と打ち合わせをして――


「それならいけそう」

「それはダメ」


 ――という判定をしてもらう。


 そんな事を繰り返して、十月十日――アイザックの誕生日を迎える。

 誕生日とはいっても、特別な事はない。

 十歳が特別なだけだ。

 あとは十八歳になると十八禁行為が解禁され、二十歳になると飲酒が許されるくらいだろう。

 だが、学生の間はエッチな事ができないので、アイザックには一つ年を取ったという日でしかない。

 この日も普段通り登校し、放課後は勉強会に顔を出そうとしていた。


「最近何かあった? なんだかレイモンドの様子がおかしいけど」


 教室を出る前に、ルーカスが気になっていた事を尋ねる。


「あぁ、ウェルロッド侯爵家内部で片づけないといけない問題があってね。その対処方法を考えてもらってるからじゃないかな」


 答えたのはアイザックだった。

 レイモンドが真剣に取り組んでくれているから悩んでいると思っているので、このように答えた。


「なるほど、卒業前から練習してるんだね。いいなぁ。僕なんて卒業しても、しばらくは適性検査だよ。希望は政務官だけど、他の部署に回されるかもしれない。もし秘書官になったら、ウェルロッド侯爵家に使いに出た時はお手柔らかに頼むよ」

「その時は厳しくいかせてもらうよ。友達だからって、甘い対応していたら実力が身に付かないからね」

「厳しいなぁ」


 ルーカスが肩をすくめておどけて見せると三人は笑い合った。


「先に食堂で何か飲んでからいかない? 喉が渇いてさ」

「いいよ。それくらいの時間があるしね」


 まずは食堂に行こうと決まったところで教室の外に出る。


「やぁ、君達は帰るところかな?」

「いや、これから勉強会だよ。ジェイソンは帰るのかい?」


 ちょうど教室の前を通りがかったジェイソンが声をかけてきたので、アイザックが返事をする。


「そうだ――と言いたいところだが、パメラがニコルさんと話があるといって、一緒に教室を出て行ったんだ。険悪な雰囲気だったから止めたかったんだけど、ニコルさんに大丈夫だと言われて止められたんだ。それでも気になるから、探しにいこうと思ってね」


(なるほど、フレッドじゃなくてジェイソンのイベントが進んだのか。これは歓迎すべき事態だ)


「でも女同士の話に首を突っ込むのはどうだろう。あとでデリカシーのない男だとか思われたりしないかな?」


 パメラには申し訳ないが、ニコルとバトルを繰り広げてもらう必要がある。

 アイザックは心配するフリをしながら、ニコルの邪魔をしないようにジェイソンを誘導する。


「だけど心配で……」


「どっちの心配なんだろうな」と思ったが、アイザックは言葉にはしなかった。

 どうせニコルの心配だろう。

 下手に聞いてしまい、ジェイソンに「なんでパメラの心配をしなかったんだろう」と正気に戻られても困る。

 このままニコルの事だけを心配しておいてほしいところだった。


「まぁまぁ。別に殴り合ったりするわけじゃないだろうし大丈夫だって。勉強会に行く前に食堂で飲み物を頼むつもりだったんだ。一緒に行こうよ。ちょっと一服すれば落ち着くさ」

「それは……。いや、そうだな。お誘いに乗るとしよう。きっと大丈夫だ」


 ジェイソンは自分を信じさせるように「大丈夫だ」を繰り返して呟く。

 その様子から、パメラとの信頼関係が壊れているのが見て取れたので、アイザックは素直に喜ぶ。


「それじゃあ、行こうか。話も心配も歩きながらできるしね」


 勉強会があるので、いつまでも立ち話はしていられない。

 アイザックが食堂へ行こうと促す。

 ジェイソンも同意し、一同は食堂へ向かって歩き出した。

 途中でアイザックが話しかける。


「そういえば今更かもしれないけど、今度陛下に謝りにいかないといけなくなったよ」

「どうしてだい?」

「レイモンド達に言われたんだよ。『陛下を郊外の工房に呼び出したりするのは頭がおかしい』って。言われてみればそうなのかなと思うし、今更だけど一言謝罪をしておこうって思ったんだ」


 アイザックの話を聞き、ジェイソンは口元を手で覆い隠した。

 だが、そこから漏れる笑い声までは防げない。


「フフフッ、今更気付いたのかい? 本当に今更だよ」


 ジェイソンは肩を振るわせて笑いを堪えている。

 彼の笑いのツボにハマったのだろう。


「いや、真剣な話で笑い話じゃないんだけど……」

「笑い話でいいさ。今は平和な時代が続いているからね。父上は、アイザックが引き起こす事件を楽しみにしているくらいだ。鉄道の時の話をしているんだろうけど、あの時も喜び勇んで飛び出していったくらいだ。貴族としてどうかという問題はあるけれど、父上に謝罪をする必要はないと思うよ」

「それでもやっぱり問題はあるんだ……」


 エリアスに対する謝罪の必要はないらしいが、貴族としての行動としては、やはり問題があったらしい。

 アイザックはげんなりとする。


「本当に王家を軽んじているのなら、もっと蔑んだ態度を見せるだろう。今のアイザックなら、非常識な行動を取っても誰一人として王家への忠誠を疑うものなんていない。中傷する者がいれば、父上が真っ先に非難するだろうさ。アイザックは今のままでいいよ」

「いや、非常識なままでいろと言われても……。僕だって人の目は気にするんだ。これからは気を付けるよ」

「だから今更だよ。いいじゃないか、結果を残せているんだから今まで通りでさ」


 ジェイソンは笑いながら言った。

 そして、すぐに真剣な表情に戻る。


「すまない、気を使わせてしまったようだな」

「何の事だい?」

「しらばっくれなくてもいいさ。私が二人の事で心を痛めていると思って、わざと笑わせようとしてくれたんだろう? ありがとう」

「……気にするな。友達じゃないか」


 アイザックが返事をすると、ジェイソンがまたしてもフフフッと笑う。


(俺は真剣な話のつもりだったんだけど……。あれぇ?)


 アイザックは釈然としないものを感じていたが、良い意味で受け取ってくれたのなら否定する必要もない。

 彼が思った通りの方向で話を進める。

 このあとも軽い話をしながら歩く。


「――役のあんたなんかに言われたくないわよ」


 食堂の近くまできたところで、近くの階段から怒鳴り声が聞こえた。


「ニコル!?」


 声を聞いたジェイソンが突然駆け出した。

 アイザック達も、つられて彼のあとを追いかける。


「きゃあっ!」


 角を曲がると、階段からニコルが落ちてくるところだった。

 身体能力の高さのおかげだろう。

 頭から落ちそうになるのを、三段抜かし、四段抜かしと必死に足を伸ばして耐えようとしている。

 だが、どんどん落下速度が速くなっていき、いつバランスを崩してもおかしくない危険な状態だ。


(ニコルを失うわけにはいかない!)


 アイザックは助けにいこうとするが、彼よりもジェイソンの行動が早かった。

 いち早く階段の下にたどり着き、ニコルを受け止めようと両手を広げる。


「大丈夫だ! 私が受け止べぇっ!」


 最後の五段目で大きく飛んだニコルだったが、彼女の頭がジェイソンの顔面に直撃する。

 かなり勢いがついていたので、強烈な頭突きとなっていた。

 ジェイソンの鼻から鮮血が飛び散る。


(うわぁ……。なんでこいつら、もっと劇的な抱き着きとかできないの? 仮にも乙女ゲームだろ? さすがにこうなったのに俺は関係ないよな?)


 アイザックは、この光景を見てそう思わざるを得なかった。

 初めて会った時はスカートの中に頭が入り、今回は頭突きである。

「もうちょっとロマンティックな光景になってもいいのではないか?」と考えてしまう。

 そして「これは二人の問題だから、無様な光景になったのは自分のせいではない」とも考えた。

 アマンダがフレッドと別れたのは自分の行動のせいだが、今回は無関係のはず。

 仲が良いとか悪いとかではなく、さすがに頭突きまで自分のせいだとは思いたくなかった。


「殿下!」

「大丈夫ですか!」


 レイモンドとルーカスがジェイソンに駆け寄る。

 周囲にいた生徒達は、遠巻きに様子を見ていた。

 アイザックも「ここは心配して駆け寄るべきだろう」と一緒に駆け寄る。


「ら、らいひょうふら」


 ニコルよりも、ジェイソンの方が傷が重い。

 頭が痛むだけのニコルに対し、ジェイソンは鼻血が止まらない様子である。

 その痛々しい姿には、アイザックも同情してしまう。


「ジェイソン、動くな。ジッとしてろ。薬があるから」


 アイザックはカバンからエルフの薬を取り出す。

 念のために持っていろと言われて持ち歩いていたものだ。

 それを鼻の上から塗ると、すぐにジェイソンの血が止まった。


「ありがとう、助かったよ。薬なら私も持っていたんだけどね。取り出す余裕がなかったんだ」


 鼻血に塗れながら笑顔を見せるジェイソンの姿は、イケメンと言えども格好のいいものではなかった。

 つい目を背けたくなる。


「いたたたたっ。あれっ、血! なに、頭が割れたの!」


 ニコルが自分の頭に手を当てて傷を確かめる。

 血のせいで頭の痛みの原因が打撲ではなく、裂傷による傷だと思っているようだ。


「大丈夫だよ、ニコルさん。君は怪我をしていない」

「ジェイソ――うわっ」


 自分を受け止めてくれたとはいえ、鼻血塗れで笑顔を向けるジェイソンには、ニコルも引いてしまったようだ。

 露骨に気持ち悪そうな顔を見せる。


「おっと、女の子に血を見せるのは失礼だったね。フフッ」


 ジェイソンが笑顔のままハンカチで顔を拭く。

 その姿がまた不気味で、アイザックも「うわぁ……」という感想しか持てなかった。


「ところでニコルさん、何があったのか教えてくれるかな? もしかして、あそこにいる女が原因なのか?」


 ジェイソンの声が冷たいものへと変わっていく。

 彼の視線の先――階段の踊り場には、パメラが立っていた。


「そうなの。パメラさんとの話が終わったのにしつこいから帰ろうとしたの。そうしたら、いきなり背中を蹴られて……」

「なんだって!」


 ジェイソンがパメラを睨む。

 アイザックもパメラを見たが、彼の心中は落ち着いたものだった。


(あぁ、はいはい。漫画とかでよくある、主人公がいじめっ子に階段から突き落とされるとかのシチュエーションか。ニコルの場合は自作自演なんだろうけどさ)


 なぜなら、イベントが発生しているとしか思わなかったからだ。

 むしろ「イベントなら、次のイベントに続く分だけ安心だ」と思っていたくらいである。

 ジュディスのように、最初からクライマックスな展開ではないだけ安心できる。

 それに、この場には自分がいる。

 問題が起きそうになって、仲介に入ればいいだけだ。


 何気なくアイザックはニコルの背後に回る。

 本当に蹴られたなら、靴跡くらいあるはずだ。


(……あったよ、靴跡)


 アイザックがニコル側であれば「証拠があった」と喜ぶところだが、彼はパメラ側である。

 ニコルの自作自演だろうとわかってはいるが、それでも悲しい気持ちになる。

 不思議とニコルに同情してしまうのだ。

 パメラがやっていないとわかっているのに、何故かわからないが彼女に失望するような感情がこみ上げてくる。


「パメラ! 降りてこい!」


 アイザックですらそうなのだ。

 ニコルに攻略されかけているジェイソンは、靴跡を確認して失望ではなく怒りを露わにしていた。

 階段の上にいたパメラが下唇を噛み、悔しそうにしている。

 やがて、ジェイソンの言葉に従って階段を降り始めた。

 そこでアイザックは、パメラの一点に視線を注ぐ。


(ダメだ、見えない。クソッ! 謎の光め!)


 階段の下からなら、短いスカートの中身が見えてもおかしくない。

 だが、残念な事に足の隙間から太陽が差し込んでいた。

 階段の窓ガラスから入った太陽光が、パメラの美しい金髪に上手い具合に反射したりしているのかもしれない。

 逆光のせいで太ももすら満足に見れない。

 偶然かもしれないが、パメラは地上波アニメでよく見られる謎の光現象で守られていた。

 その事をアイザックは心底悔しがる。


 パメラが降り終わると、ジェイソンはいきなり平手打ちを見舞った。

 彼女がよろけた事から、かなりの力が入っている事がわかる。


「ジェイソン!」


 さすがにこの状況を見ているだけではいられず、アイザックは二人の間に割って入る。


「暴力はいけない」

「兄を自らの手で殺した男に言われたくなどない! どけっ!」


 ジェイソンの目は血走っていた。

 アイザックは素直に退いてしまいそうになるが、それではパメラがこの目を向けられてしまう。

 ここは勇気を振り絞って、立ちはだかる場面だと覚悟を決める。


「退く事はできない。ジェイソン、落ち着くんだ。ニコルさんは背中を蹴られたと言っただけだ。パメラさんがやったとは言っていない。それに背後から襲われたのなら犯人の顔も見えなかったはずだ。決めつけるのはよくない!」

「だったら簡単だ。靴を脱がせればいい。靴跡が一致すれば犯人だ!」


 ジェイソンはニコルから離れ、パメラの足元に跪いて靴を脱がせようとする。


「いやっ」


 パメラは嫌がった。

 その理由は定かではないが、アイザックは「スカートが膝丈だから、男に近付かれるのが嫌なんだろう」と思っていた。


「逃げるな! やはりお前がやったのだな!」


 だが、ジェイソンは違う。

 証拠の品を守ろうとしているのだと疑っていた。

 しばしの間、嫌がるパメラから強引に靴を脱がせようとして揉み合っていた。

 アイザックにとって、ジェイソンの醜態を晒させるいい機会である。

 しかし、この状況で黙ったままでいると、自分の評価を落とす場面でもあった。

 やむを得ず、仲裁に入る。


「ジェイソン、パメラさんも年頃の女の子なんだ。男が足元にいたら恥ずかしがるに決まっているじゃないか。ひとまず離れよう」


 アイザックは、優しく諭すような声で話しかけた。

 怒りに狂っているジェイソンとの対比を浮き立たせるためだ。


「……わかった、離れよう。自分で脱げよ」


 ジェイソンは、パメラへの念押しを忘れなかった。


「ジェイソン、アイザック……」


 パメラの目には涙が浮かんでいる。

 婚約者に、ここまで疑われてしまったのでは無理もないだろう。

 彼女はアイザックに助けを求める視線を向ける。

 アイザックも助けたいと思っているので「大丈夫だ」とうなずいて返す。


「ねぇ、そこの君。パメラさんに肩を貸してあげてくれるかな?」


 アイザックは近くにいた女子生徒に声をかける。

 パメラが靴を脱ぎやすくするためだ。

 なぜかパメラが「えっ」という表情を見せる。

 彼女は女子生徒の肩に手を置き、渋々ながら靴を脱いでジェイソンに渡す。


「ニコルさん。辛いだろうけど背中を向けてくれるかな」

「うん」


 ニコルはジェイソンに言われるがまま、素直に背中を向けた。

 彼女には、パメラに蹴られたという確信があるのだろうか。

 アイザックは不安になるが、今はパメラを信じて見ている事しかできない。

 ジェイソンが、ニコルの背中についた靴跡の隣に靴を押し付ける。


 すると――大きさが同じ靴跡がついた。


「貴様ぁ!」


 ジェイソンが怒りに任せて、パメラの足元に靴を投げつける。

 パメラは身をすくめて、小さな悲鳴をあげる。

 彼女に殴りかかろうとするジェイソンを、アイザックは背後から羽交い締めにする。


「ジェイソン! 同じサイズの靴を履いている生徒なんていくらでもいる。パメラさんだけが容疑者じゃない!」

「離せ、アイザック! あの状況でパメラ以外に誰がいる!」

「わからない。けど、短絡的な行動はやめるんだ。あとで『他にも方法があったんじゃないか』と後悔する事になるぞ。兄を殺して後悔した事のある男の言葉だ。信じろ」


 アイザックは先ほどのジェイソンの発言を利用して説得しようとする。

 ジェイソンは、しばらくもがいた。

 だが、やがて大人しくなる。


「わかった、離せ」

「君を信じるよ」


 アイザックがジェイソンの体を離す。

 彼は言った通り、理解してくれたようだ。

 パメラに襲い掛かる事はなかった。

 しかし、その表情は憤怒の色に染まったままだった。


「今は決定的な証拠がないのかもしれない。だが、必ず突き止めてみせるからな」


 ジェイソンは、パメラに向かって捨て台詞のような言葉を吐き捨てる。


「ニコルさん。その美しい顔を私の血で汚してしまったね。保健室で洗い落としにいこう」


 だが、ニコルに対しては、優しい笑顔を見せた。

 その豹変ぶりに、パメラの目からは涙があふれていた。

 やはり、長年婚約者として付き合ってきた男の変わりぶりに思うところがあるのだろう。

 それが決別の涙であってほしいと、アイザックは思っていた。


 ジェイソンがニコルを連れて保健室に向かうと、パメラは昇降口へ向かった。

 家に帰るのだろうか。


「アイザック、ごめん。僕はパメラを追うよ」

「わかった。パメラさんの事をよろしく頼む」


 ルーカスがパメラのあとを追うのを、アイザックは止めなかった。

 むしろ、自分も追いかけていきたいくらいだ。

 しかし、ここでパメラのあとを追って、後々勘繰られるような事態にはしたくない。

「ここは我慢だ」と自分を必死に抑える。


「アイザック、パメラさんのあとを追わなくていいの?」


 レイモンドがアイザックの様子を窺うように尋ねてくる。


「今はいいんだ。ルーカスに任せよう」


 アイザックは、そのように答えたが、完全には心配を拭い去れなかった。


(本当にいいのか? あとで『追いかけてきてくれたのはルーカスだけだった』とか失望されないだろうか? でも、追いかけて好意を持っているっていうのが他の奴にバレても困るし……。あぁ、なんで今なんだよ。もうちょっと早ければ……)


 リサにパメラへの好意がバレそうになったあとである。

 今は下手な行動を取る事はできない。

 このイベントがもう少し早ければ、アイザックはパメラのあとを追っていただろう。

 何とも言えないもどかしい思いが心をかきむしる。


 今のアイザックにわかる事は一つ。

「ティファニーへの対処どころではなくなった」という事だけだ。

 本来ならジュディスも、トゥルーエンド後に処刑されるはずだった。

 だが、卒業どころか三年生になる前に事件は起こった。


 ならば、パメラもどうなるかわからない。

 ジェイソンから彼女を守るために警戒しなければならなくなった。

 二人の仲が壊れるのは歓迎すべき事態ではあったが、無条件で歓迎ばかりもしていられない。


(今はまだ早過ぎる……)


 せめて卒業式までは、ジェイソンに我慢しておいてほしいところだった。

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