第十一章 王立学院一年生後編

第267話 蒸気機関の試作品

 アイザックは前世の経験から、夏休みの宿題を早めに片づけておいた。

 そんな余裕があったのも、ティファニーの件があったからだ。

 空いた時間に友達と遊びにいくという気分ではなかったので、家にいる間にやっておいたのである。

 おかげで残りの夏休みを満喫できるようになった。

 そこで、アイザックは友人達を誘って遊びに行こうと考えていたが、思わぬ相手から連絡が入った。


 ――ピストからの呼び出しだ。


 呼び出しの理由は「科学部に所属しているんだから、夏休み中も部活に出てきなさい。というより来てください。見せたいものもあるのでお願いします」というものだった。

 見せたいものがあるというので、アイザックも少しは気になっている。

 幽霊部員でいる事を認められているとはいえ、完全無視は悪い気がしていた。

 学校関係の事を済ませておく方が気兼ねなく遊べる。

 そう思い、アイザックは呼び出しに応じる事にした。



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 呼び出されたのは学校ではなく、グレイ商会の王都支店だった。

 工房や倉庫などが並ぶ中、アイザックは護衛と共に商会で働く者に待ち合わせの場所まで案内されていた。

 グレイ商会の支店が集合場所なのは、ピストの都合によるものだ。


 ピストはアイザックに支援してもらえるとわかると、すぐにグレイ商会と連絡を取った。

 今までできなかった研究を進めるため、資金援助や職人の腕を借りるためだ。

 大規模な組織ならともかく、個人の研究所くらい安いもの。

 工房のある区画の片隅に小屋を作り、要求された部品を作って渡す。

 これくらいは、アイザックに稼がせてもらっている分を考えれば安いものである。

 グレイ商会は、ピストに全面的に協力をした。


 おかげで、ピストは今までの人生でかつてないほど研究に打ち込める快適な時間ができた。

 夏休みの間は、ずっと研究所に籠りきりになっていたくらいだ。

 そのため、食事などもグレイ商会の世話になっている。

 今では工房で働く職人に「教師をやめて、うちで働き始めたんだな」と思われているくらいだった。


 それほどまでに研究に打ち込んでいるので、研究の成果をアイザックは楽しみにしていた。

 自分では作れないものを作ってくれているかもしれない。

 そう思うと、ワクワクとした気分になっていた。

 ティファニーの一件以来、久々の朗報になるかもしれない。

 明るい気分になれるのは、素直に嬉しい事だった。


 ピストの研究室の付近には、多くの物が散在していた。

 金属部品や木材の破片、布の切れ端など、入口前に並べられて――いや、放り投げられている。

 そのせいでごみ置き場のような様相を呈していた。


(夏休みに入ってから三週間も経ってないのに、よくもまぁこれだけ汚せるもんだ……)


 比較的、自分で整理整頓をするアイザックには信じられない光景だった。

 生まれ変わってからはメイド達が身の回りの掃除をしてくれているので、一層汚らしく見える。

 アイザックが呆れていると、研究室の中からレイモンドが姿を現した。


「待っていたよ。先生って本当に凄いんだよ! 蒸気機関とかいうものを本当に作っちゃったんだ!」

「ええっ、作っちゃったんだ!」


 これにはアイザックも驚いた。

 まさかこんな短期間に作るとは思いもしなかったからだ。


「どこ? どこにあるの?」

「そこだよ」


 レイモンドは研究室の隣の敷地を指差す。

 アイザックは視線をそちらに向ける。

 そこには、大きなシートを被せられた大きな物が二つあった。


「資材置き場だと思ってたけど、これが研究成果だったんだね」

「そうだよ! 僕もちょっとだけ組み立てを手伝ったんだ。今、先生を呼んでくるね」


 レイモンドが研究室の中に入ると、アイザックは護衛隊長に向き直る。


「しばらくは退屈な話になるかもしれないから、みんな休んでおいていいよ」


 アイザックは彼らを気遣って、休んでいいと指示を出す。

 しかし、みんな揃って首を横に振った。


「アイザック様。その油断によって戦場で致命傷を負われたのでしょう? 我らは決して離れません!」


 護衛隊長はアーヴィンが務めていた。

 彼は、かつてアイザックに剣や乗馬を教えていた騎士である。

 その縁でエンフィールド公爵家の騎士団の一員となっていた。

 こうしてアイザックが出掛ける際には、ウェルロッド侯爵家の騎士や兵士を借り受けて、彼らをまとめる隊長役を務める。

 彼を用いるようになったのは、マットやトミーの名が売れ過ぎたからだ。

 安全な王都の中を出歩く護衛にマット達を使うのは、牛刀をもって鶏を割くようなもの。

 人の上に立つ者として、一部の優秀な者だけではなく、新しい者も用いていかなくてはならない。


「わかった。見ていてもあんまり面白くないだろうけど、みんなもここにいてくれていいよ」


 アイザックは、大人しくアーヴィンの意見を聞きいれた。

 痛い目に遭ったのは事実であるし、彼らに仕事をさせてやるのも必要な事だ。

 だが、見てもつまらないだろうと思っているのも事実である。

 蒸気機関といっても、黎明期の初歩的なもの。

 たいしたものは期待できない。

 つまらないものを見るくらいなら、休ませておいてやろうというのはアイザックの優しさだった。


 しかし、自分の身に何かあれば、彼らは責任の追及をされてしまう。

 安全なはずの王都で負傷する事があれば、追及は戦場の比ではないだろう。

 自分のためだけではなく、彼らのためにも休ませずに働かせておく方がよかったのだと気付く。

 こういう時、アイザックが真っ先に「休ませよう」と考えてしまうのは、前世で苦労していたからだった。


「アイザックくん! よく来てくれた!」

「先生、さすがに外でアイザックくんはマズイですよ」


 レイモンドがピストとクランを連れて研究室の中から出てきた。

「アイザック」と呼んでいいのは王立学院の中でだけ。

 外では「エンフィールド公」と呼ばないといけないと、ピストにクランが注意する。


「ええい、まだるっこしい。科学の発展の前では、そのような事はささいな問題だ」


 ピストには、さすがにアーヴィン達がムッとする。

 公爵という立場を軽んじる最低の行為だからだ。

 注意をしようとするが、護衛という立場でどこまで口出ししていいのか迷ってもいる。

 もし、ノーマンがいれば彼が注意していただろう。

 こういうところは新しい家臣団だけあって、踏み込んでもいい領域がまだ曖昧なままだ。

 時間をかけて解決していかねばならないところだった。

 今はアイザックが抗議する気配がないので、アーヴィンは静観する事にした。


「こうして話している時間がもったいない。どれほど素晴らしいものができたのかは見てもらおう」


 ピストが研究所横に置かれたもののところへ早足で向かう。

 クランも付いていき、ピストがシートを除けようとするのを手伝う。


「おぉっ!」


 どうせつまらないものだろうと思っていたが、高さと幅が一メートル、長さは二メートルほどの大きな機械。

 十六年ぶりの本格的な機械を前にして、アイザックは興奮を覚えてしまっていた。

 複数のパイプが延び、上部には大きな煙突が付けられている。

 下部には大きな薪ストーブのようなものが設置され、中には木炭が入れられていた。

 前世で見た蒸気機関車などとは違い、機械部分がむき出しなだけあって武骨な印象を受ける。

 だが、それはそれでよかった。

 まるでスチームパンクの世界に入り込んだような新鮮な気分になれたからだ。


「これはどの程度の馬力……。力を発揮するんですか?」

「まだまだ、たいした力は発揮できない。これは動作を確認するためのものだ。残念ながらな。だが、見てもらえばわかる」


 こうして話している間に、レイモンドが近くの工房から職人を連れてきていた。

 職人は火種らしきものを持っている。


「では、実践してみよう。さぁ、火をつけてくれ」


 アイザックが興味を持ったと見て、ピストは上機嫌になっていた。

 蒸気機関のプロトタイプを実現したことで、ようやくアイザックに一歩近づけた気がしたからだ。


 職人が木炭に火をつけると、水が温まるまでしばらくは様子見だった。

 アイザックだけではなく、同行している騎士や兵士達も息を呑んで見守っていた。

 やがて、煙突から蒸気が噴き出し始めると、カラカラという何かが回る音が聞こえ始めてくる。


「ほら、これを見てくれ。蒸気の力で羽根が回っているだろう? これは風車の羽根を小さくしたものだ。これでうちわを使わなくても風が送れるようになる。最初の第一歩だ」

「さすが先生です!」


 クランが拍手をするが、アイザックは呆気に取られたままだった。

 その反応を「感動のあまり反応できていないのだ」と、ピストは受け取っていた。

 アイザックの護衛として付いてきた者達が、驚愕の表情を浮かべているからだ。

 きっとアイザックも同じなのだと思っていた。


 ――だが、実際は違う。


 アイザックは大掛かりな装置の割に、小さな扇風機としての機能しかない事に呆れていたのだ。


(いや、ダメだ。失望の色を見せちゃいけない。褒めないと……)


 すぐにアイザックは立ち直った。

 最初から馬車を動かせるくらいのものを期待するのは酷というもの。

 まずは動作を確認するための実験だと思えば、上出来な部類だろう。


「なるほど、最初の一歩は成功という事ですね。おめでとうございます」

「ありがとう」


 アイザックが右手を差し出すと、ピストはガッチリと両手で握り返した。

 アーヴィン達も「よくわからないけど、何か凄い場面に立ち会った」という事を感じ取って、ピストに拍手を贈る。


「私には何が凄いのかわかりませんが、エンフィールド公も褒めるという事はよほどの物なのでしょう。五千万リードも費やした価値があったのですね」

「えっ、五千万?」


 ――たかが扇風機もどきに五千万リード。


 ここまで案内してくれた商会員の呟きに、アイザックは驚かされた。


「科学の発展には金がかかるものです」

「仕組みを考えれば、薪ストーブに水を沸かすためのところを付けるだけでよかったんじゃ……」

「科学の発展には金がかかるものです」


 アイザックのつっこみに、ピストは笑顔で同じ言葉を繰り返した。

 その笑顔を見て、アイザックは自分の失敗に気付いた。


(あぁ、こいつ科学に関する事以外ではダメな奴だ! 資金をいくらでも使えるとなったら、遠慮なく使うタイプだ!)


「……研究開発にお金がかかるのは仕方ないですが、動きを調べるだけのものと実用化に向けたものとで力の入れ具合を変えてくださいね」

「もちろんわかっているとも。これは本命の試作品だ!」


 ピストの目は真剣そのもの。

 目が泳いだりしていないので、嘘を言っているようには見えなかった。

 彼はもう一つの大きな物に掛けられていたシートを外す。


 そちらは、一目見て先ほどの物とは違う事がわかった。

 煙突部分のパイプが四角に曲がり、地面に近い部分が水槽の中を通っていた。


「蒸気機関の欠点。それは、大量の水を必要とする事。ならばと思い、蒸留器を作った経験を活かしてみました」

「というと?」

「蒸気を冷やして、もう一度水にする。そうする事で消費する水の量を減らし、長時間の稼働が可能になりました」


 ピストは胸を張って、新しい蒸気機関の仕組みを説明する。

 それはアイザックに納得できるものだった。


(蒸気機関車って、車両一台分の石炭と水を積んでたらしいもんな。水の節約にまで発想が至るなんて凄いじゃないか!)


 その頭脳を金銭面に期待するのは、技術が成熟してからでも遅くはなさそうだ。


「では、さっそくこちらも動かしてみましょう」


 ピストの言葉に従い、職人が新型の蒸気機関にも火を入れる。

 木炭に火が付き、徐々に温まっていく。

 だが、時間が経つにつれてアイザックの不安も高まっていく。


(あれ? おかしいな。何かがおかしいんだけど……)


 アイザックは機械部分をジーっと見る。

 不安を感じるという事は、何か見落としがあるはずだ。

 はっきりと理由がわからないのが怖い。


「あっ、火を消して! それから、すぐに他のみんなは退避! 逃げろ!」

「えっ、退避ですか?」


 アーヴィンが聞き返すが、その時にはアイザックは本気で逃げ出していた。

 慌てて彼らも追いかける。

 五十メートルほど離れたところで、アイザックは立ち止った。


「レイモンド達も逃げて。その機械は爆発する!」


 アイザックが気づいたのは、煙突の太さと水槽の大きさだった。

 蒸留器作成の経験から、蒸気の冷却が間に合わないだろうという事がなんとなくわかった。

 あのまま稼働させれば、いずれ蒸気の圧力に負けてパイプが破裂してしまうだろう。

 そんな事になれば大惨事だ。

 それくらいは、科学に詳しくないアイザックにもわかった。


 だが、ピストに焦りの色はない。

 いや、彼だけではなかった。

 レイモンドとクランも逃げてはいない。

 むしろ、余裕の笑みを浮かべているくらいだった。


「大丈夫だ。アイザックくんの心配しているような事は起きないよ。戻ってくるといい」


 ピストがアイザックを呼び戻している。

 レイモンド達も焦っていないので、ちゃんと安全は確保されているのだろう。

 それでも不安なので、護衛達に盾を構えさせて、ジリジリと近づいていく。


「そんなに警戒しなくても大丈夫だ。私だって馬鹿じゃない。一度、パイプが壊れたら対策くらいは考える」

「やっぱり壊れたんだ……」


 安心できない言葉を聞き、アイザックは護衛の背後に隠れた。


「確かに不安を感じる事はあるけれど、今回は本当に大丈夫だよ。ほら、上の出っ張りを見て。あれが先生の考えた安全弁っていうのだから」

「安全弁?」


 聞いた覚えのある言葉を聞き、アイザックは護衛の後ろから顔を出す。


「その通り。蒸気は水よりも体積が大きくなる。蒸気の逃げ場を用意せず、冷却も間に合わなければ、いつかはパイプが内側の力を押さえ切れずに破裂する。ならば、限界を迎える前に蒸気を逃がせばいい」


 ピストはニヤリと笑う。


「ここで役に立ったのがバネだ。バネの硬さを調節して、蒸気を必要な量だけ逃がす事ができる。おかげで、水の消費量を抑える技術が実現した! それを安全のための弁。安全弁と名付けた!」


 安全弁の事を熱く語るピストの背後で、安全弁が開いて蒸気がプシューと抜ける音が聞こえた。


「しかし、今は羽根を回すくらいの力しか引き出せない。さて、ここで問題だ。これから蒸気機関はどういう方向に発展させるべきか。答えられる者はいるか?」


 突然、ピストが教師のような事を言い出した。


(そういえば、教師だっけ……)


 彼は生徒達に視線を向け、答えるようにうながした。

 しかし、レイモンドとクランは即答できない。

 新しい技術に、すぐには対応できなかったせいだ。

 代わりにアイザックが答える。


「まずは高性能化。その際に、大型化していくでしょうね。高性能化と大型化していくものの、いつかは性能が頭打ちになります。そうすると、次は性能を維持したまま小型化。性能を高めながら小型化と、順次発展させていくしかないでしょう」

「その通り! さすがはアイザックくんだ。技術というものをそこまで理解しているとは!」


 ピストが両腕を組み、うんうんと満足そうに大きくうなずいた。

 アイザックが技術的な事を答えられたのは、前世で読んだエンジンに関する本に書いてあったからだ。

 エンジンは性能を求めて大型化していき、ある程度発展したところで小型化、高性能化を目指していったらしい。

 前世で本を読んでいたおかげで、アイザックはすんなりと答える事ができた。


「やはり、アイザックくんは技術畑が向いている。共に世界に革新をもたらそうじゃあないか!」

「いえ、僕にはやらないといけない事がありますので、先生にお任せします」


 アイザックはきっぱりと断った。

 自分が本格的に技術開発に打ち込むよりは、うろ覚えの知識をピストに伝えて実現してもらう方がいいだろうと思ったからだ。

 ピストは有り合わせの技術を使って、安全弁や水の再利用を実現しようと試行錯誤をしている。

 これはアイザックが自分でやろうとしても、おそらく気付かなかった事だ。

 最低限の機能だけ作って満足していただろう。

 一つ目の無駄に大きな蒸気機関も、二つ目を作るための下地として必要だったのかもしれない。

 無駄だと思う事の中にも、必要なものがあったのだ。

 

 これは研究者とそうでない者との違いだった。

 ピストは研究のために他の事を無視するが、アイザックは「金がもったいない」など余計な事を考えてしまう。

 ためらわずに前に進む事ができる者は強い。

 正直なところ、アイザックはピストに引いているものの「こういう人が時代を先導するんだろうな」と思えるバイタリティーは認めざるを得なかった。


「それは残念だ……。では、ドワーフの職人を紹介してもらえないかな? そうすれば、蒸気機関はもっと発展する。今の技術ではパーツの一つ一つの耐久性に不安があって、思い切った設計ができない。せめて、ドワーフ製の鉄だけでも手に入れば……」

「ドワーフ製に近い鉄は、ウォリック侯爵領の新しい溶鉱炉が稼働すれば手に入るかと思います。ドワーフの職人については……。どうなるかわかりませんが、友人に聞いて何とか派遣してもらえないか聞いてみます」

「おおっ、是非とも頼む! ドワーフの協力を得られたら、作りたいものが他にもあるんだ!」

「ドワーフに嫌われたりしないよう、ほどほどにお願いしますね」


 アイザックは釘を刺す事を忘れなかった。

 蒸気機関はあくまでもおまけ。

 将来的には必須になる技術だろうが、今はドワーフとの友好関係の方が大切だ。

 無茶振りをしてドワーフに嫌われてしまったら本末転倒である。

 そこだけはしっかりしておいてほしいところだった。


「レイモンド、クラン先輩。いつかドワーフの協力を得られるかもしれません。その時は、先生の事を頼みましたよ」

「もちろん、ちゃんと見ておくよ」

「任せて」


 二人はまだピストのように科学の探究者にはなっていない。

 常識的な判断でピストを止めてくれるだろう。

 アイザックは商会員に顔を向ける。


「先生の研究には十分な支援をしてあげてください。ラルフ会長には話がついていますし、あまりにも莫大の予算を使うようなら、僕の方に請求してください」

「かしこまりました!」


 商会員はそのように返事をしたが「エンフィールド公に請求するな」とラルフ会長に怒られそうだなと感じていた。

 多少の金銭よりも、恩を売っておいた方が利益になる。

 今までもそうだった。

 鉄鉱石の入札で誠意を見せていたおかげで、今はドワーフと優先的に取引ができるようになっている。

 金で片付く事なら、支店で処理をしておいた方がいいだろう。

 あとで支店長を交えての相談だなと、彼は考えていた。


「さぁ、アイザックくんも一緒に設計だ! 科学はまだまだ発展するぞ! 護衛の君達も一緒にどうだ? 興味がない者でも、意外と侮れん意見が出てくる場合がある。参加は大歓迎だ!」


 ピストがアイザックを研究室に連れていこうとする。

 それだけではない。

 護衛の騎士達まで一緒に巻き込もうと考えていた。

 アイザックが研究室に入れば、自然と彼らも入らざるを得ない。

 レイモンドのように、科学への興味は知ってしまえば出てくるはず。


 今日、こうしてアイザックを呼び出したのは、蒸気機関を見せたいだけではなかった。

 見せるだけなら、二学期が始まってから学校で見せればいい。


 ――今日呼び出したのは、新たに興味を持ってくれそうな者を増やすためだった。


 だが、そこに悪意はない。

 あくまでも善意・・で科学の素晴らしさを教えようとしているので、尚更質が悪かった。

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