バレンタインの出来事 ①
「はい、博人。これ、あげるー」
今日はバレンタインである。
乃愛は朝一でにこにこと笑いながら、僕にチョコレートをくれた。昨日のうちに前々から準備してくれているのは知っている。
作っている様子は僕には見せてもらえなかったから、どういうチョコレートなのか分かっていないけれど。
渡してもらったのは、食べやすいチョコレートのクッキーだった。中にイチゴなどのクリームが挟まれている。
「ありがとう。乃愛」
「まだいっぱいあるからね!! 他のも沢山作っているから、今日はチョコ尽くしだからね」
……チョコ尽くし?
なんだろう、朝から夜までチョコレートを感じさせられるんだろうか。
僕はそんなことを思いながら、乃愛のくれたチョコレートクッキーを少しだけ食べる。
乃愛が「美味しい?」と聞きながらにこにことしている。
「うん、美味しい」
「ふふ、良かった。博人が美味しいって言ってくれるだけで作った甲斐あったなぁって感じ」
乃愛は嬉しそうにしながらどんどん僕にチョコレートクッキーを食べさせようとする。
「そんなに朝からは食べられないよ」
「そっか。じゃあ、冷蔵庫入れとく」
「うん」
乃愛はチョコレートクッキーを冷蔵庫に入れた。
僕はそのあと朝食を食べて、乃愛と一緒に学園へと向かう。
学園へと到着すると、学園の雰囲気がいつもと違った。バレンタインだからこそ、男子生徒は誰かからチョコレートをもらえるかなと期待し、女子生徒は意中の相手に告白しようと緊張している様子である。
僕はいつも通り過ごしている。
というか、乃愛以外がそう言う風にチョコレートを僕にくれるとは思わないし。そもそも本当に本命チョコレートを準備されていたら乃愛のこともあるし、受け取らないけど。
「薄井君、これ……って白井さん? これはクラスメイト全員に配っている義理チョコよ? そ、そんな目で見ないでくれる?」
「義理チョコならあげなくていいの」
「え、ええっと、そうね!」
「うん。博人には私がチョコをあげるからいいの」
「そうね!」
クラスの中で中心人物の一人であるクラスメイトは、乃愛の言葉に押されて、頷いていた。
今の乃愛は神としての力を使っていないが、それでもなんというか圧があるというか……有無を言わせぬ雰囲気がある。
乃愛がその調子なので、本当にそれいいのと視線を向けられる。僕は別に乃愛以外からもらう必要もないので頷いておく。……他にもらって乃愛がすねる方が困るし。
僕が頷いたのを見て、乃愛が嬉しそうに笑っている。
ちなみにだが、杉山の机の上にはもうチョコレートが詰まれている。手作りチョコレートも多いのだろうか? 親しい相手からの手作りチョコレートならともかく全然知らない人からの手作りチョコレートだと何が入っているか分からないと思う。
実際にそういう異物混入の話もそれなりに聞いたことがあるし。
「博人、うらやましいの?」
「いや、違うよ?」
「羨ましいなら私が同じぐらいあげるよ?」
「大丈夫だよ。あんなに食べたら僕は太ってしまうよ」
「そっかぁ。ならいいや」
……僕が欲しいっていったらあの山積みのチョコレートを一人で準備するつもりだったんだろうか?
そんなこんな話していると杉山たちが現れた。最近は学園に来ないことも多かったけれどバレンタインにはちゃんと来るらしい。
フラッパーさんたちが詰まれたチョコレートに不満そうな顔をしているが、杉山は折角もらったものを返すということは考えていないらしい。一人一人にホワイトデーのお返しをするつもりらしく、「何を返そうか」と呟いている。全員に返すつもりなのだろうか……?
そう考えると異性にもてると言うのも大変だと思う。
数人ぐらいからもらえるなら返すのも楽そうだけど、大量にもらうと本当に大変そうだ。
「博人、私、お返しなんでもいいからね? お金かけない系のものでもいいよ」
「……お金かけない系って?」
「だきしめてもらえるとかー」
「うん、却下」
教室でそういうの言わないでほしい。
クラスの男子たちにまた何とも言えない目で見られる。恨めしそうにこちらを見ているのは、一つも本命チョコをもらえなさそうということなのだろうか?
昼休み頃になるまで、結構男子たちはそわそわしていた。
昼休み、僕たちが屋上へと向かう間も結構女子が男子を呼び出したりしていた。
それにしても結構カップルも成立しているようだ。ラブラブな雰囲気を醸し出されていると気まずい。あと乃愛がそれを見て「私たちも――」とか言い出しそうなので、さっさとその脇を通って屋上に向かった。
今日の昼ご飯はチョコレートを使ったパンである。
準備をしていたらしい。でも重くない程度に軽くチョコの入っているパンだった。チョコレート尽くしだって言っていたしなぁ。
それにしてもこのパンも自分でこねて焼いたらしい。
乃愛は本当になんでも出来るなと僕はびっくりした。
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