色々情報を知っても相変わらずの日常 ①

 異世界の女神様がこの地球に降臨した。

 そして『勇者』である杉山に会いにきて、忠告をして去っていった。


 そんな驚くような出来事が起こったにも関わらず、何気ない日常が繰り返されている。




 公にされていれば、女神様が降臨したなんて大騒ぎになることである。

 でも僕以外はそれを気づいていない。――僕も気づかないでいられたら、周りの生徒たちのように、何も気にせず当たり前の日常を営めただろうか。




 考えても仕方がないことをだらだらと考えている。






 そういえば、女神様の言っているあの子の気配は今の所感じていない。

 そもそも女神様があの子と呼び、杉山があの方と呼ぶ不思議な存在。そういう存在がこちらにやってくると思うと怖いけれど、今の所何も起こっていないし、というか僕はそういう存在に遭遇した所でどうしようもないので、もう気にせず過ごしている。






 昨日の帰り道に魔物の鳴き声が聞こえてきて恐ろしくなって、慌てて家に帰ったりしたけれどその位である。

 ……魔物っぽい鳴き声にもすっかり僕は慣れてしまったものである。その鳴き声のした方に杉山たちはいつも向かっているのか、翌日である今日、少し怪我をしていた。




 会話から聞いた限り、少し油断したらしい。




 僕はそういう魔物との戦闘には全く関わる事はないけれども、クラスメイトとして杉山たちが大変な目に遭うのは嫌だなとは思っている。……まぁ、自分の命の方が大事だから何かあったら僕は逃げるだろうけれど。

 杉山は主人公みたいなもので、異世界で『勇者』なんてものをやっていた存在だから人が困っていたら助けるものだろうか。




 ナンパをされた後輩を助けたとかで、杉山は最近後輩の女子生徒に追いかけられている。

 一年目では、あの後輩の女子は誰かに恋する事もなかった。クラスメイトが告白してもフラれるみたいな話をしていたからちょっと覚えている。




 二週目だからこそ、確かに少しずつ何かが変わっている。

 その事実を日が経つにつれ、実感していく。――それにしてもこうして一年時を巻き戻すなんてことが出来るなら、ただ異世界から日本に戻るだけなら簡単だったと思う。あの女神様が異世界に帰った杉山が行方不明者として目立たないためにこういう風にしたんだろうか。






 僕以外は気づいていないからまだいいかもしれないけれど、これ、気づいている人が大量にいたら大変なことになっただろうな。僕はまだただのんびり一年過ごしていただけだけど、一生懸命高校二年生を謳歌していた人が繰り返されていて周りがその一年を覚えていないことを知れば、一年が無駄になったと思うかもしれないし。

 




 クラスメイトたちが杉山たちのことを今日も囲っている。

 フラッパーさんたちに好意を抱いている男子生徒も見られるが……、まぁ、フラッパーさんは杉山以外見ていないようである。



 しかし「フラッパーさんは外国人のようで美しく――」って明らかに外国人だけど、常識改変の効果なのか、日本人という認識なのだろうか。

 明らかに日本人とは異なるのに。そもそも地球人でもないのにって。僕は突っ込みたい。




 もう少し常識改変がきかない人にも違和感がないようにしてくれていたらよかったのに。

 僕には突っ込みどころしかない。






 これだけ目立てば周りから嫌な意味で注目を受けることもありそうに見えるけれど、杉山たちはそういうことは一切ないようだ。なんだろう、キラキラしすぎて、特別オーラが出過ぎているからか?




 僕の好きな小説や漫画の世界ではそういうのも結構あるものだけど、実際に見ると不思議な気持ちになる。





 授業が終わって、僕はすぐに帰ることにする。




 運動部の生徒たちは、皆で体育館に向かったりしている。杉山たちは特定の部活に入っていないようだが、助っ人として活躍しているようだ。あとトラジーさんも、騎士というだけあって体力に自信があるからか、陸上部の助っ人に向かったりしていた。剣を腰に差したままだけど……。




 僕は部活に向かう生徒たちを横目に、教室から出た。

 靴箱に向かう最中にも杉山たちの事が噂されている。杉山たちは大変目立つからどこで何をしていたかなどが凄く噂になっているのだ。







「杉山先輩が今日ね!」

「あの美しい人達が――」





 そういう話ばかりが、この学園ではされている。






 一年目は当然、杉山たちはいなかったから、目立っていたのは他の生徒だった。

 でも二年目の今は、杉山がここにいるから杉山たちが学園の中心である。






 本当に何処の世界にいても、主人公というやつなのかもしれない。

 僕はそんなことを思いながら、帰り道を歩く。なんら変わり映えもない帰宅道である。







 僕と同じように学校から帰宅しようとしている人たちも結構いる。

 雑談の声、風の音――そういう音を聞きながら、僕は歩いている。





 そうしていたら、僕の耳に聞きなれない音がした。


 なにかがぶつかる大きな音だ。当然、そこを見に行くことを僕はしない。だって絶対に僕に手に負えないし。そもそも誰もその音を気にしていないから、絶対に杉山関連だし。



 そういうわけで僕はすたすた歩いて家を目指した。



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