教室に女神降臨 ③
「――ひかる、あの子だけではなく、この世界に少なからず魔物なども入り込んでいますから、そのあたりも対応をお願いします。アレは貴方達がこの世界にやってきた影響で、世界と世界が繋がっている影響ですから。
私は、異世界の神としてこの世界への関与ができません」
そんな言葉を聞きながらじゃあ何で今、此処にいるんだよと突っ込みたくなった僕はおかしくないと思う。
それにしてもやっぱり魔物などが入ってきているのはやっぱり、杉山が原因なんだな。わざわざこの世界に杉山が戻ってきた影響がこの世界に入り込んでいるということってなんて恐ろしいんだか。
でも杉山もこの地球に戻ってきたいという強い思いがあったからこそと言えるのかもしれない。
やはり異世界にいって、異世界で『勇者』なんて特別なものになったとしても異世界に骨を埋めるではなく、故郷である地球に帰ってきたいと思うものなのだろうか。
僕だったらどうだろうか。……考えるだけでも無駄な気がする。僕だったら異世界にいった瞬間に死んでしまう気がする。そもそも帰るとかそれどころじゃないな。うん。
そもそもこういう異世界への転移物って、帰れるパターンと帰れないパターンがあるわけで……、今回はたまたま帰れたパターンってことだよな。
「――では、私は戻ります」
「女神様、もういかれるのですか?」
「ええ。今回はあの子がこの世界に来るため、警告のためにこの世界を訪れただけですから。あまりにもこの世界に私がいては、影響力が強すぎますもの。では、また」
……やっぱりあの子と呼ばれている存在は危険らしい。
異世界の女神様がこうして此処にやってくる原因がたった一人の存在というだけで、恐ろしいものだと思う。
本当にどれだけ恐ろしい相手なのだろうか。
見た目的にも危険なのかな。それとも別の意味で危険なのか。
そんなことを考えていたら、教室のざわめきが徐々に戻ってきた。僕はそこでようやく身体を動かせるようになって、ほっとして息を吐く。
あー、きつかった!!
本当に女神様の降臨が短くて良かった。長かったら僕は我慢できなかったと思う。
……もうこれ以上、女神様が降臨したりしないよな? されたら僕はどうしたらいいか分からない。そうなったらどうしようもない気がする。
来ないことを祈ろうと僕は思った。
それにしてもさっきのざわめきが止まっていた時って、時間が止まっていたとかそんな感じなのかな? 何で相変わらず僕だけにそれがかからないんだろうか……。
「……あの方がくるなんて少し不安を感じますわ。ひかる、私の事を守ってくださいませね」
「ああ。もちろんだよ。でもあの方はキャエリンをどうにかしようとは思っていないと思うよ」
「それは分かっていますわ……。でもそれを抜きにしたとしてもあの方は恐ろしいです」
フラッパーさんは恐ろしいと口にした。
魔物の事を語る時にも、そういう様子を見せなかったのに。その声を聞いただけで本気で怯えていることが分かる。
杉山は”あの方”と呼ばれる存在のことを怯えてはいないように思える。だけど、特別には思っているのだろう。
異世界の女神様がそれだけ警戒し、あの子と呼ぶ存在。フラッパーさんたちが恐ろしいと思い、何を起こすか分からないという不安を感じている存在。『勇者』である杉山が特別視している存在。
……うん、絶対にどうしようもないほど怖い存在だと思う。
でもそれだけ警戒されて、恐れられて、特別視されるってある意味その人は生きにくいのじゃないかと思う。
だって常にそういう目を向けられるというのは疲れてしまう。
『勇者』である杉山は『勇者』であるから周りには特別視されるだろうし、元々目立つ外見だからこそ周りから注目される。
でも杉山に向けられる注目は、警戒や怖れと言った悪い意味での注目ではない。
僕は正直言って、どっちで目立つのも嫌だけど……どうせ目立つならそういう悪い意味での注目よりも、良い意味での注目がいいと思う。
その人は……女神様にも『勇者』にも異世界の王女様にも、そういう目を向けられている。
ということは一般の人たちからはもっとそういう目を向けられ、遠く離れた存在と言えるのだろうか。
それはちょっと寂しいんじゃないかって、関わる事もないだろうに僕は少し思ってしまった。
あくまで僕は杉山たちにも、異世界から来る予定のその人にも関わる気も全くなく、ただ気づかないふりをしてのんびりと過ごす気しかない。だから僕は傍観者だ。
ただ考えているだけだ。
でもまぁ、こうして考えるだけは自由だろう。
……僕はそういう異世界からきた怖い存在と関わらないようにして、死なないようにしないと。死にたくはないし、出来れば誰かが死ぬのも見たくない。そういう怖いことが起きませんように、と僕は願うことしか出来なかった。
もちろんの話だが、女神様が降臨していたことは周りの誰も気づいていないようだった。
当人である杉山たちと、僕以外は。
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