教室に女神降臨 ②
教室の空気が変わったことに、僕は嫌な予感がして行動を停止した。これで驚いた表情などを浮かべたら大変なことになる。
不思議と、シンッと静まり返っている。
周りの声も静まった。
これは、どういう状況なのだろうか。
ただ、僕は頭だけを動かしている。
そんな状況で、声が聞こえた。
「勇者、ひかるよ、お久しぶりですね」
ひどく透き通る声だった。
どこまでも心に響くような声。その声は凛としていて、その声の方向を見ていなくても、僕にはそこにいる人が美しい人だと分かる。
……不思議な雰囲気なので、僕は窓の外に視線を向けたまま固まったままだ。此処で声のしたほうを向いてしまったら大変なことになる。……というかこれ、杉山たちの方を俺が見ていなくてよかった。見ていたら流石に気づかれた気がする。
それにしても誰が来ているんだろう?
杉山の知り合い? それにしては声も何だか普通じゃないし、なんて思っていたら驚くべき言葉が聞こえてきた。
「女神様、お久しぶりです!!」
女神?
神様?
そんなものが本当にいるの?
思わず僕は振り向きたくなったが、我慢した。
女神なんてものに気づかれてしまって、杉山たちと関わることになったら大変なことになってしまう。そんな事態になったらきっと命が幾らあっても足りなくなってしまう。
僕はあくまで平穏な日々を送りたいのだから。
そういうわけで耳で話を聞く事だけをする。
「ひかるよ、元気そうですね。それに貴方達も」
「はい。女神様。貴方様から声をかけられるだけでもわたくしは幸せでございます」
「こちらにこられるとは、何かございましたでしょうか」
……なんか、フラッパーさんとルードさんの声は聞こえるけれど、トラジーさんの声は聞こえない。跪きでもしているのだろうか。トラジーさんって話を聞いている限り、トラジーさんは他の三人より一歩後ろに控えているみたいな感じに見えるから、あまり口出ししないようにしているのかもしれない。
というかさ、女神様が一介の人間に会いに来るって普通に考えてありえないと思うのだけど。というか、異世界だからこそ神が実在しているってことなのだろうか。それとも僕らが知らないだけでこの世界には神様的なものがいるのだろうか。
こういう現代もののファンタジーだと、妖とかがいるのがセオリーな気がするけど、僕はそういうの見たことないしな。……というかそもそも僕がどうして常識改変などがきいていないのかもいまいち分からないし。
それにしても女神様が会いにくるってことは、それだけ杉山がその世界にとって大切だってことなのだろうか。『勇者』という名は伊達ではないってことなのか。僕にはさっぱり分からないものだ。
女神様が出てくる事態ってことは、中々切羽詰まっているのだろうか。……いつこの女神様は帰るんだろう? 僕は動けないのが中々つらい。
「今回、この世界に私が赴いたのは他でもありません。あの子が……ひかるの世界に興味を抱きました。こちらに来ています」
「……あの人が??」
女神様があの子と呼び、杉山があの人と口にする人物。
……女神様から認識されている人物というだけで、明らかに普通ではないだろう。異世界にとって重要人物ってことだよね? だったらそういう人物がくるなんて大事な気がする。
それに杉山の声の感じからして、絶対的な味方ではない感じがする。杉山は仲間相手ならもっと弾んだ声をあげそうだし……。それにわざわざこちらに来ているなんて報告を女神様がしてくるのはそういう相手ではないからだろうか。
そう考えると僕は恐ろしい気持ちになってしまう。
ただでさえ魔物がこの世界に来ているだけでも僕はガクブルしている。正直言って恐ろしくて仕方がない。
僕はそのうちそういう異世界から来た存在に殺されてしまうのではないか……と思うと怖い。本当に僕も周りのみんなのようにそう言う状況に気づかないでいられたら良かったのに……なんて考えても仕方がないことを考えてしまった。
というか、あとはやく話を終えてほしい。
「ええ。あの子はこの世界を楽しみに来るでしょう。退屈しているでしょうから。でもあの子は……、決して本気でこの世界を破滅に導こうとしているわけではありません。あの子が本気を出せば、誰も止められませんでしょうから。少し遊んだら帰ると思います」
「もちろん、分かっています。あの方の力は俺も分かっています。手も足も出ませんでしたから」
「そうでしょうね。あの子はまだ『勇者』である貴方に関心を持ってますから、貴方に関わろうとするでしょう。他の方には迷惑はほぼかけないと思います」
――女神様と杉山のそんな会話が聞こえる。
女神様が、本気を出せばだれも止められないと言う相手。
杉山が、手も足も出なかったという相手。
……どんだけ恐ろしい存在がくるのだろうか。というか、女神様でも止められなさそうな雰囲気が醸し出されている。
そんな恐ろしい存在を野放しにしないでほしいと僕は強く思った。
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