第十八話 下の名前


 今日は早坂のご飯をたらふく食べ。


 ぐんぐんと料理の腕を上げていく早坂に純粋に尊敬の念を抱き、お風呂に入った。


「バスタオルここに置いとくね」


「お、ありがとー」


 ドア越しの早坂の声にそう返しで、ぬるま湯に肩まで浸かる。


 あれ以来もちろん風呂場に突撃訪問されることはなくなっていて、おまけにこうして用意もしてくれるので、むしろよりくつろげていた。


 ……何だろう。二人ともめちゃくちゃ俺によくしてくれていて、ダメ人間になりそうである。


 ってかいつの間にか俺の当番が買い出しだけになってるし、なんだかんだで二人ともついてくるのでもはや俺の仕事はない。


「……快適だぁ」


 修羅場を超えた先には、楽園があった。


 素晴らしき日々である。





 風呂を出ると、すでに風呂から上がってテレビを見ている二人の姿があった。


 二人とも風呂上りだからか髪はしっとりとしていて、妙に艶めかしい。


 それに部屋着がダボっとしているからか、かなり際どいところまで見えていた。


 しかし悲しきかな。すっかり慣れてしまい、というか見ないことを無意識下でできているため、特に顔を真っ赤にして恥じらうことはない。


「透、アイス取ってくれないかしら?」


「おけ。早坂は?」


「あ、私も」


「おっけい」


 冷凍庫からアイスバーを三個取り出し、ソファーでまったりする二人に渡す。


 風呂上がりのアイスは、最近すっかり習慣化していた。


「ん~おいしいわ!」


「これがないとね~」


「それなー」


 ゆったりと時間が進んでいく。

 

「あっ、そういえば」


「どうした広瀬?」


 床に座ってテレビを見ている俺に、広瀬が何か思いついたように立ち上がり、近づいてきた。


 ふんわりと漂う、女子特有のいい匂い。


 同じボディーソープを使っているはずなのに、やはりドキリとしてしまう。


「ねぇ、透。私のこと、下の名前で呼んで欲しいわ」


「……し、下の名前?」


「えぇ! 美乃梨って呼んで欲しいわ!」


「随分と唐突だな……」


 なんの脈絡もない。


 しかし、早坂もそれをずっと思っていたのか、参戦してきた。


「私も、そろそろ友梨、って呼んで欲しいかも!」


「そうよね! だって私たちだけ下の名前で呼んでいるんだし……不公平じゃないかしら?」


「そういう問題か?」


 俺のツッコみはスルーされ、詰め寄られる。


「「…………」」


 無言で俺のことを見つめてくる二人。


 俺が下の名前で呼ぶまでこうし続けるぞ! と目で訴えかけてくる。


 ……し、下の名前で呼ぶなんて、大したことないよな。


 俺はあからさまにため息をついて、二人の名前を呼んだ。


「美乃梨、友梨」


「「っ……!!!!!」」


 二人がぼっと音を立てて顔を真っ赤にする。


 耳まで真っ赤で、二人とも面白いくらいにザ漫画の反応をしている。


「い、今透が、わ、私のことを下の名前で……っ!!!!」


「ゆ、友梨……友梨って、今透くんが、今……! は、はうぅ……」


 イケメンでもない俺の言葉に、それはとっても可愛らしく反応する美少女たちに、なんだかこっちまで顔が熱くなってくる。


 ……というか、全然大したことだった。


「(な、なんだこれ……すっげぇ恥ずかしい……)」


 結局、三人とも顔を真っ赤にしてリビングで悶えた。


 あと、下の名前で呼ぶのは色々な理由あってやめました。


 ……正しい判断だな。

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