第47話 次に作るもの

 1時間ちょっとで着くはずなのに2時間半もかかってしまった。

 勿論トローリングが楽しかったからだ。


「大きいのいっぱい釣れた」


 結愛はご満悦だ。

 確かにメータークラスの獲物が何本もかかった。

 やや小さいのも含め合計で12匹。

 魚だけでは無く中型の海生爬虫類まで仕留めている。


 すれていないせいか、獲物がいる場所に餌が行けばまず釣れる。

 引きが強すぎてバレそうになっても大丈夫。

 見えた瞬間に冷却魔法をかければ動かなくなるから。


 ただそんな釣り方をした場合、魔力を相当に消費する。

 冷却魔法をかける方も、潮流が逆方向の中で魚群を求めてうろうろさせられる運転担当も。


「久しぶりにこれだけ魔力を使いましたね。正直わりとぎりぎりですよ」


「こっちもだな」


 それでも走って帰るよりはましだと思う。

 筋肉痛にもならないし。


「それじゃもうひと頑張りして夕食用をさばきますか」


「僕は水路の見回りをしてくる」


 念のため今日も一度は見ておかないと心配だ。


「私も行く!」


 結愛、元気だな。

 でもまあいいか。


「私はこっちで料理の手伝いをしています」


「わかった。それじゃ結愛と行ってくる」


 そんな訳で結愛と2人で水路へ。

 結愛はもちろん途中でたも網とバケツを装備する。

 水路に到着して端からガサガサやっていくのもいつもと同じだ。


 獲れるのはさっきの大物と比べられない位の小物ばかり。

 だけどこれはこれで面白い。

 特に小エビがよく捕れる。

 この水路の環境が向いているのだろうか。


 ここでガサガサをやってとれる小エビや小魚、から揚げにするとなかなか美味しい。

 ただしエビについては好みの差がある。


 僕は小さめのエビをまるごと二度揚げした奴が好みだ。

 しかし結愛は大きめのものの頭や殻、足や尾羽をとってから揚げたものが好き。

 勿論作るのはどっちも美愛なのだけれども。


 結愛は海側からはじめて川の近くまでガサガサをやり続ける。

 その間に僕はさらっと養殖場の方も確認。


 うん、問題は無いようだ。

 死骸等が浮いているなんて事もない。

 水質も見た限りでは悪化している様子はない。

 中に植えたオーラムが水質浄化をしてくれているようだ。


「あの中、まだ捕っては駄目?」


 おっと、結愛も狙っているようだ。

 一応養殖池は捕らないように言ってある。

 でも気にはなっている模様。


「あと1月くらいかな。そうすれば大きく育っているのが一杯取れると思うから、それまで我慢だ」


「大きいのがいっぱいいるの?」


「今、中で少しずつ育っていると思うんだ。確か3ヶ月程度で大丈夫だと聞いているけれど、ここはもっと育ちが早いようだから」


「エビフライいっぱい食べられる?」


「勿論」


「楽しみ!」


 うん、わかって貰えた模様。

 まあ結愛は聞き分けがいいから心配はしていないけれど。


 帰ってみるとちひと美愛で魚を切り身状態にしているところだった。


「どうだった?」


「スコンバとトリアキスは大きくても難しくなかったです。でもシプリンの大きいのは骨が多くて大変でした。ちひさんの骨抜き魔法がないと難しいかもしれないです」


「大きくてもシプリンだから駄目駄目かと思ったんですけれどね。予想外に美味しかったですよ。ただ刺身よりも火を通した方が美味しい気がしますね。今回はフライとムニエルです。

 スコンバとトリアキスは何をやっても美味しいと思いますよ。今日はどっちも刺身オンリーですけれど」


「結愛といつもの小エビをとって来たから、揚げるの頼んでいいか」


「美味しいですよね、あれ。今やります」


「エビいいよね。まるごと揚げたのもいわゆるエビフライも」 


 美愛はアイテムボックスから油が入ったままの鍋を出す。

 揚げ物用の鍋は油をいれたまま収納しているようだ。


 ちひが合流して鍋も増えた。

 だから鍋のひとつを揚げ物専用にした模様だ。

 便利だしこの方が油も酸化しにくいだろう。

 アイテムボックス内なら熱い油を入れたままでも事故になる心配はないし。


 洗って頭と殻取って大きいのは背わたをぬいて。

 魔法を使っているとは言えこの辺の手早さは流石だ。


 あっという間に一品、いや二品完成。

 まるごと素揚げと剥いて粉付けたのと両方出来ている。

 皆で運んでテーブルを囲めば夕食開始。


「いただきまーす」

「いただきます」


 刺身5種盛りとフライが魚、むきエビ、エビまるごと。

 海藻とヘイゴ若芽、アルカイカの実。蔓芋の葉が入ったサラダ。

 サイパ入り味噌汁。

 アローカを炊いた米飯もどき。

 自家製タクワンもどき。

 以上だ。


「全部この辺で獲れたものなのにしっかり和食だよね、これって。しかも美味しいですし」


「ちひは合流するまではどんな食事だったんだ?」


「日本から持ってきた米を炊いて、あとは魚メインですよ。他は野菜として蔓芋の芋と葉、ヘイゴの若芽でポテトサラダもどきを作ったりもしましたけれど」


 うーむ、それはどう考えてもだ。


「それも和食じゃなのか」


「分類としてはそうですけれどね。ここまできちんとした和食じゃないですよ。こっちは味噌汁付に香の物まで付きますしね。しかも全部美味しいです。この環境で何でこれが出来るんだという感じですよ。まあ全部美愛ちゃんのおかげですけれど」


「いえ、私は料理だけですから」


「謙遜する事はないですよ。あ、そう言えばひとついいですか」


「何だ?」


「ちょっと大きな燻製器を作ろうと思っているんですよ。美愛ちゃんのおかげでさつま揚げの満足いくのが出来たので、今度は燻製かなと思いまして」


 なるほど、確かに面白そうだ。

 ただ少しだけいじってみよう。


「商品というより完全に趣味だろ、それ」


「勿論ですよ。私の商品は全て趣味の延長線上です」


 言い切りやがった。

 どうやら趣味という自覚はあるらしい。


「美味しそうですね」


「美愛ちゃんもそう思いますか。そうですよね。最初はさつま揚げの燻製からはじめて、次に干物のスモーク、なまり節、最後に鰹節の荒節まで作ってみたいなと思うんです。あとはお肉も美味しいですよねきっと」


「美味しいの出来る?」


「勿論、お肉もお魚も美味しくなるよ」


「やりたい!」


 結愛がこう言えば決まったも同然だ。


「しかしちひ、アイテム数多くないか。大丈夫か?」


「美愛ちゃんや結愛ちゃんが手伝ってくれますからね。まとめて作って少しずつ卸していけば大丈夫だと思うんですよ。それに何より自分が食べたいのを食べたいように作りたいですからね」


 うーむ、ちひ、楽しんでいるなと思う。

 まあ稼ぐ方は僕がやればいいか。

 醤油、味噌、甜麺醤だけでも生活には困らないだろうから。

 まだエビ養殖も出荷していないし。

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