第44話 商品改良

 その後、更に投網を合計8回。

 うち6回は僕と美愛が練習で投げたもの。

 これはちひほど綺麗に網は広がらなかったし、魚も最初ほどは捕れなかった。

 それでも合計するとかなりの量になる。


 更に帰る間際、潮がかなり引いた頃に1回の簀立て漁と定置網漁もした。


 それだけやれば漁獲高はかなり多い。

 漁業と言っても問題ない程度になる。


 帰って夕食を食べた後、新しく出来た個室でゆっくり休んで、そして今日は魚加工業の日だ。


 なおその前に少しだけ。

 折角個室になったしちひからもあんな台詞があったのだ。

 性欲的には早速……なんてしたいところ。


 しかしこの世界には魔法がある。

 いくら音を殺しても気配を消しても、魔法があって見る気になればプライバシーなど無いも同然。

 それがわかっているから夜這いになんて行けない。


 いや、魔法のせいにするのは良くない。

 本当は僕が恐れているだけだ。

 今の関係が壊れる事を。

 ちひと、美愛と、結愛との今の関係を。


 だから変化するような事が出来ないだけなのだ。

 きっと、多分。


 という訳で夜這いはせず今日へと突入。

 食事、そして水路の見回りの後は僕と結愛がお勉強時間、ちひと美愛が水産加工品作業。


「あれ、何作っているのかな」


「さつま揚げを揚げているんだと思う。それじゃ『さつま揚げ』を使って文章を作ってみようか?」


「さつま揚げを食べたい」


「それじゃ『食べたい』を使って他の文章を作ってみようか。誰が何をどうしたいのか、全部入れて」


 そんな感じで結愛と2人、リビングの向こう側の作業場でやっている作業を気にしつつ本日午前分の課題を終える。

 いつもならここでおやつ時間なんだけれど……


「さっき作っていたの食べたい!」


 結愛がそう主張する。

 気持ちはわかる。

 明らかにおかず系のいい匂いがしていたから。


「それじゃおやつの前に少しだけ試食してみようか」


「いいんですか、ちひさん」


「どうせなら皆に感想を聞きたいですしね。はい、各種類1つずつ。先輩もどーぞ」


 もちろん丸々1個ずつでは無く半分に切ってある。

 それでも5種類あるので結構な量だ。

 物はオーソドックスな茶色い小判型、四角形、小判型でアルカイカの粒入り、四角形でチーズもどき入り、俵型で中心にタクワン入り。


 まずは小判型から。

 うん、美味しい。

 味がしっかりあって、かつぷりっとした食感もいい。

 御飯にもいいがつまみにもあいそうだ。

 僕もちひも酒を飲めないけれども。


 続いて他のも食べる。

 うん、間違いないなこれは。

 中にそれぞれ入っているもの含めて美味しい。


「おかわり!」


「ごめん、あとは夕食でね」


 確かに美味しかったから結愛の言いたい事もわかる。


「かなり美味しくなったな、これ。ちひには悪いけれど」


「私でもそう思います。この辺はやはり美愛ちゃん先生の技ですよね。中に入っているアルカイカやタクワンだって、これ専用に味付けしているんです」


 美愛がちひに先生扱いされている。


「私はちひさんのレシピを元に少し変えただけですから」


「ううん、全然違いますよこれは。あとはこれを量産する魔法を作って、今度イロン村へ行った時に委託ですね。何なら試食サービス用に多めに作ってと」


 うん、これなら前より売れるだろう。

 

「あと他にも作っているように見えたけれど」


「私専用の味が薄めのもの少々と、あとは新しい商品ですね。


 一推しはトリアキスやスコンバの甜麺醤漬けですよ。ただ今すぐでは味が浸みていないでしょうから出荷前日まで漬けて味見して。此処の甜麺醤は西京味噌っぽい感じですし美味しくなると思います。


 あとレジペイドやゴヌールの小さい奴で味醂干しも作りました。荒く挽いて炒ったアルカイカを軽くまぶしただけでもう別物ですよね。こういう工夫はやっぱり美愛ちゃん先生がいないと無理ですよね」


「食べたい!」


「これは夜ね」


 かなり順調に商品改良が出来ているようだ。

 ちひの方もこれでより売れてくれればありがたい。

 彼女のモチベーションも上がるだろうし。

 いや変わらないかな、好きでやっている面が大きいから。


「それじゃ午後は製造魔法を皆でおぼえて量産か」


「先輩は樽と材料に余裕があるなら醤油の量産をした方がいいと思いますよ。あれはもっともっと売れますから。昨日作ったのは半樽分ですよね。でもせめて3樽は在庫を持っておいた方がいいです。先輩のアイテムボックスなら余裕ですよね」


 ちょっと待ってくれ。


「いくら何でもそんなには売れないだろ。それにアローカとデルパクスが必要だからあまり大量に作ると材料費がかさむし。一応今買ってある材料でも醤油だけならあと1回分は作れるけれど。

 それに醤油麹の粕も増えるだろ、何度も作ったら」


 醤油は水も含めた材料3樽分で仕込んでも、出来上がる製品は1樽分。

 これ以上作るには味噌小屋も広げなければならないし、樽も追加購入しなければならない。

 それに今言ったように醤油粕も大量に出てしまう。

 

「材料費は税金手数料引き後の3割程度ですよね。なら絶対作っておいた方がいいです。いざというときになって身動き取れなくなっても知りませんよ。

 材料費が足りないという事はないですよね。醤油1回製造するのに必要なのはせいぜい正銀貨1枚1万円程度の筈ですから」


 よく人の製品の事まで覚えているなと思う。

 その通りだ。


「あと醤油麹の粕は養殖池の餌とかに使えないですかね。水質が悪化しない範囲で餌やりした方があの辺も育つと思いますよ」


 なるほど、そういう事も出来るかもしれない。


「なら養殖池ももう少し水が入れ替わるように作り直した方がいいかな」


「まあそうですね。そして醤油は今回出来る分まで増産しておいて。材料は今度村に行った時に多めに買っておきましょう」


 まあ妥当な線だな。


「確かに在庫を多めに作っておけばいざという時楽だよな。アイテムボックス内に入れておけば劣化も無いし」


「そう上手く行くといいですけれどね」


 ちひがそう言ってにやりとした。

 何だ、どういう意味だ。 

 怪しいフラグは立てないでくれ。

 頼むから。

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