第4章 家族が増えた
第13話 役所の相談窓口
相談窓口担当のお姉さんは親切だった。
実はお願いした際、担当が僕より若そうな女性だったので心配だったのだ。
このロリコンめという目で見られないか。
どうやらそれは取り越し苦労だったようだ。
状況を説明後、彼女は資料を出しながら頷く。
「そうですね。ミアさんはユアさんと同じ戸籍の成人です。ですからユアさんの意志とミアさんの判断で元の戸籍から抜ける事が出来ます。
実際この場合はそうした方がいいでしょう。カズキさんは大変かもしれませんが、2人をよろしくお願いします」
そう、ここまでは良かった。
しかしだ。
「ただこの場合、ミアさんとユアさん2人の別戸籍を新設するより、2人をカズキさんの戸籍に編入させ、3人の戸籍にした方がいいでしょう。その方が一般的です」
日本の常識的にはとんでもない事を勧められてしまった。
彼女は更に続ける。
「別戸籍ですと行政への手続きが面倒になるだけでなく、税金の申告等でも不利になります。ですから生計が事実上同一になるのなら、3人とも同じ戸籍にする事を強くお勧めします。
地球における一般的な戸籍の意味と、ヒラリア等で同一戸籍にする意味の違いはお判りでしょうか」
それは一応わかっているので頷く。
先程軽食店で知った。
2人をどうしようか知識魔法を駆使して調べた時に。
日本の血縁を基本とする戸籍制度とヒラリアのそれとは概念が大きく異なる。
ヒラリアで『戸籍を一緒にする』というのは婚姻や養子縁組等を意味する訳ではない。
生計を共にし協力し合う。
本来はそれだけの意味だ。
そもそもヒラリアには婚姻だの養子縁組だのといった制度は無い。
ヒラリアというか、この惑星オースでは概ね何処もそうだ。
その代わりにこの戸籍という制度がある。
これは初期開拓時代にあった共同体制度の名残り。
数人からなる共同体で同じ場所を開拓。
収入も財産も共有で子供も共同で育てたという時代の。
ただ現在のヒラリアでは、『同じ戸籍にいる』というのは日本における『家族である』と同様の意味を持つ。
つまり大人の異性が同じ戸籍にする行為は日本における婚姻と同等にみられる訳だ。
複数の男女が同じ戸籍に入れば多夫多妻の婚姻制度と同様の事が可能。
実際そうしている連中もいるらしい。
そう見られるかもしれないと思う事自体に抵抗がある。
抵抗と言うか申し訳ないというか。
2人、特に美愛に。
この世界では彼女は大人の年齢。
しかし日本の常識では女子高生なのだから。
他にも不安がある。
ちひに出会った際にどういう顔をして説明すればいいのだろう。
別にちひは恋人という訳でもないし、正直に説明するしかないのだけれど。
「地球からの移住者ですので3年間は税金が免除されます。ですが収支台帳の提出は戸籍ごとに毎年必要です。
更に戸籍が別の2人が働いているとなると会計処理が複雑になります。
① 組織を法人形式にするか、
② 片方の個人事業でもう片方が働いていて給金を出す
という形式にしなければなりません。この場合は当然、給金に際し国法の最低賃金規定が適用されます。また住居についても別計算する必要があります」
聞きながら知識魔法で足りない知識を補う。
法人化でこの場合一番簡単なのは合同会社の設立だが、それでもかなり面倒だとか。
最低賃金は1時間
わかっている。
どう考えても戸籍を1つにした方が楽だ。
しかしやはり日本人的に抵抗がある。
身寄りのないJKとロリを身請けして好き放題するアラサーおっさんというイメージが消えない。
そう悩んでいるところだった。
「何か問題があるんでしょうか」
美愛だ。
そうか、オース共通語で話していたから内容がわからないよな。
そう気づいたので簡単に説明。
「いや、親の戸籍を出るのは問題無い。ただ2人の別戸籍を新設するより、僕の戸籍に編入させる方がいいって言われたんだ。ヒラリアの戸籍は別に養子とか結婚でなくとも一緒に出来るから。その方が後々の事務手続きでも楽になるって。
ただ結婚の場合でも、ヒラリアでは同一戸籍に入れるから、その辺誤解されると不味いかなと思ってさ。どうしようかと思っている訳だ」
「もし和樹さんが気にしないなら、私は戸籍を同じにした方が楽ですし嬉しいです」
おっと、美愛にそう言われてしまった。
少し考えるが他に案が思い浮かばない。
仕方ない、やはりそうするしかないか。
日本の常識とエロマンガ的知識、邪念が邪魔をするけれど仕方ない。
「わかった。その方向で回答する」
美愛に日本語で返答。
そして次に担当のお姉さんにオース共通語で返答する。
「わかりました。3人とも同じ戸籍という事で登録をお願いします」
「それではその方向で手続きをすすめます。
あとはミアさんとユアさんが以前の戸籍を抜ける際、以前の戸籍にある財産の所有分を持ち出す事が出来ます。
ユアさんは20歳未満ですので0.5人分と計算されます。ですからミアさんとユアさん2人には、元戸籍の財産のうち6割の所有権がある事になります。その手続きはどうなさいますか」
美愛には通じないので翻訳。
「自分の服や日用品の他はいらないです」
これをお姉さんにオース共通語で回答
「わかりました。ですが一応持ち出す物はこちらで確認させて下さい。将来的に問題が起こらないように確認しますから」
なるほど、その辺まできっちりやる訳か。
割と厳密なんだなと思いつつ、美愛に翻訳する。
「わかりました。それじゃ家に帰って、服や自分の物を持ってきます」
「大丈夫か? お父さんがいて問題になったりとか、荷物の量が多くて運べないとか」
「ええ。どうせ父は戻っていないでしょう。それに荷物もリュックに入る程度です」
それはそれで不憫な気もする。
言えないけれど。
「2人は家に荷物を取りに行くそうです」
そうお姉さんに説明しつつ僕は2人が出て行くのを見守る。
「さて、それではミアさんとユアさんは現在の戸籍を抜け、カズキさんの戸籍に入るという事で手続きを致します。
あとはユアさんの教育ですね。移民であっても来年から義務教育に通うべき年齢ですから……」
相談担当のお姉さんと知識魔法によると、
〇 ヒラリア共和国では10歳から20歳まで義務教育がある
〇 しかし開拓者の子供は地理的に学校へ通うのは困難
〇 故に通信教育形式で学習する事を認めている
という事らしい。
「ですがこの通信教育を使うには、教えるべき大人にそれなりの知識が必要でしょう。ですから
この資格は今すぐこちらで試験を行う事によって取得可能です。1時間ほどかかりますが宜しいでしょうか」
ちょうど美愛と結愛が家に帰っている。
なら時間的にもちょうどいいし今後の為にも受けておくべきだろう。
知識魔法で試験について確認する。
どうやら知識魔法を使ってもいいようだ。
それならおそらく大丈夫だろう。
「わかりました。試験を受けます」
「それでは準備をします。出したものに触れずにお待ち下さい」
担当さんはアイテムボックスから物を取り出して並べる。
目覚まし時計のようなもの、鉛筆、消しゴム、そして裏にした紙束。
どうやら鉛筆と消しゴムはこの世界にもあるし、鉛筆は形も同じ模様。
消しゴムはゴムの質が少し違うようだけれど。
「それではこのまま試験をやってしまいましょう。紙をめくると同時にこのタイマーをスタートさせます。1時間経ってこの上のベルが鳴り出したら試験終了です。
個別試験ですので名前等を書く必要はありません。また時間内に終わって見直しも済んだ場合はその旨教えていただければ試験終了とします。
他に何か質問がありましたら随時申し出てください。よろしいでしょうか」
どうやらこの態勢のままで試験も実施するようだ。
マンツーマンで張り付かれて試験というのは妙だし緊張もする。
しかし疑問があればすぐ聞けるというメリットを今は甘受すべきだろう。
僕はまだこの国に慣れていないから。
「では始めます」
僕はそう宣言して紙束をめくる。
担当のお姉さんが目覚まし時計型タイマーのボタンを押した。
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