kiss me agein(EP35以上推奨)
仲が良いって、本当に良いことだって思うけどさ。
仲が良いにも、限度ってものがあると思うんだよね。
幼い時ならいざ知らず。こちら多感な思春期なんだから、ちょっとぐらい配慮して欲しい。
今さらって思うけれど、挨拶と同じくらいの空気感で、父さんと母さんはキスをする。昔はなんとも思っていなかったけれど、この年になれば、どうしても気まずさと困惑で、逃げ出したくなってしまう。
「そう思わない、姉ちゃん?」
「ん。正直、ちょっとウザいとは思うけどね。別に夫婦だし。唇と唇が触れ合うくらい許してあげたら?」
「……俺は姉ちゃんみたいに、寛容になれないよ」
「それなら、父さんと久々にチューしようか、雪姫――」
「絶対、イヤ」
満面の笑顔で、雪ん子こと、中学1年生の姉ちゃん――下川雪姫は言い切ったのだった。
■■■
ということがありました、とさ。
まだ、それくらいのやり取りなら可愛いもので。
現在進行形で展開する、この口論を聞いていたら、外野のコッチまでゲンナリだった。
「雪姫はね、昔からキスが好きじゃなかったもんね。なかなかシテくれないんじゃない、冬希君?」
「お母さんには関係ないでしょ!」
「あら、小学校6年生の時の雪姫、どうせ唇が触れ合うだけって言ってたわよ? それに、彼女がキスをお預けにしているなんて、彼氏君は寂しいんじゃない?」
「だから、お母さんには関係ないから!」
「そうやって、拒絶するんだぁ? 良いけどね。冬希君、寂しくなったら、お母さんがいくらでもシテあげるから、遠慮しないで言ってね?」
兄ちゃんは唖然としてしまい、言葉にならない。一方、母ちゃんは楽しくって仕方ないと言わんばかりに笑みを溢す。元祖クソガキ団、ココに有りだった。
「お母さんの何かいらないもん。毎日してるもん! 隙をみてしてるいから! 息をするのと同じくらい、キスをしているから!」
暴走した姉ちゃんは、もう歯止めがきかない。涙目で兄ちゃんに訴えかけている。予想だにしないカミングアウトに、兄ちゃんは血の気が引いていた。
(まぁ、ね。彼女の親にだけは知られたくないネタだよね)
でも、流石に姉ちゃんが可愛そうになってきたので、ちょっと助け舟を――。
そう思った矢先だった。
姉ちゃんの体が揺れる。
まるでスローモーションのように見えた。
その手が、俺を突き飛ばす。
(へ?)
気付いた時には、俺の唇が母さんの唇に触れて。
(はぁぁ?!)
見れば姉ちゃんは、兄ちゃんと口吻を交わしていた。
深くて。
いったん、唇が離れたかと思えば。また、兄ちゃんの唇を求めて。より深く。
「ゆ、雪姫、落ち着いて! 大丈夫だから、雪姫以外にキスしようだなんて、そんなこと思わないから! だから落ち着い――」
冬希兄ちゃんの必死の説得も、姉ちゃんの耳には届かない。
だって姉ちゃんは、自分の気持ちを押し殺すことを止めたんだ。
少なくとも、冬希兄ちゃんの前では。
それは小さいようで大きな前進――そして、重い愛情で溢れていた。でも、その愛情の全て、躊躇なく受容するんだ、兄ちゃんは。
受け止めてもらっている実感を得た姉ちゃんは、ようやく安堵の吐息を漏らす。
「冬君が他の子のこと考えられないように、たくさんキスする」
トロンとした目で、そう言って。
それから唇を、兄ちゃんの首に這わせる。
(こりゃ当分、止まらないね)
アーメンと十字を心のなかで切る。
徹底的に、その首筋に痕をつけてようとする。それこそ誰も入り込まないくらいに。
見れば母ちゃんは口笛を吹きごまかそうとしているけどさ。
残念ながら、こうなった姉ちゃんは、冬希兄ちゃんが徹底的に満たして、甘えさせないと、止まらないからね?
(本当にどうするのさ、コレ?)
俺にできるせめてもの抵抗は、ため息をつくことしかできなかった。
■■■
「……空君がお義母さんと……キス?」
振り返ったら、トイレから戻ってきた翼が固まっていた。
茫然とする翼――そして唖然とする俺を尻目に、止める間もなかった。母ちゃんは韋駄天の速度で、リビングから脱出していく。
(せめて、この事態を収拾して欲しかった!)
とりあえずさ。もう一回だけため息をついても良いよね?
(……本当にどうするのさ、コレ?)
■■■
この
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キスの日に寄せて。
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