第38話 落花生
逃げるレイクの前に立ちはだかったのは、大神殿の優秀な神官にして第七王子、ヨハネス・シャステルその人だった。
ヨハネスの背後には数人の兵士と聖騎士がいて、剣を抜いてレイクに向けている。
その光景を目にしたアルムの眠気が一瞬にして吹っ飛んだ。
「な ん で こ こ に い る ー っ !?」
アルムの絶叫と共に地面が揺れた。
無数の芽が出て蔓が伸び、その下の地面からぽこぽこと落花生が飛び出してヨハネスめがけてぶつかっていった。
「ちょっ、痛っ、待っ……なんで落花生!?」
縦横無尽に飛び交いぶつかってくる落花生に、ヨハネスは顔を腕で庇いながら叫んだ。
いやがおうにも、大神殿で聖女達に落花生や大豆といった豆類をぶつけられたことを思い出す。退魔の儀式には参加していなかったアルムまで、何故ヨハネスを落花生で攻撃してくるのだ。聖女の間で豆類が流行っているのか?
自分が知らないだけで落花生がブームなのかなどと馬鹿なことを考えるヨハネスだが、もちろん落花生が巷で大流行しているわけではない。
『そこそこ硬くて小さくてぶつけてもそれほどダメージは与えず、殻付きなので後で拾って食べることもできる果実』を無意識に選んだ結果が落花生だっただけだ。
「いたた、やめろっ、落花生やめろ! いったん落花生ストップ! ノーモア落花生!」
ヨハネスが叫ぶが、天敵を前にして混乱したアルムの耳には届いていない。
(なんでヨハネス殿下がここに……会いたくないわ、どっか行って!)
「おい! 埋まる! このままだと落花生の山に埋まる!」
ヨハネスの足元にこんもりと積もる落花生。
レイクは目の前に現れた神官が落花生に襲われているのを眺めて呆然としていた。何が起きているのかわからない。
そのレイクを、オスカーが横から体当たりして地面に倒した。
「捕まえた!」
そのまま動けないように押さえつける。
「しまった……! くっ、大量の落花生は俺を油断させるためだったのか!」
アルムにはまったくそんなつもりはないのだが、レイクは悔しげに呻いた。
「闇の魔導師め。子供を放せ!」
オスカーがレイクの手からエルリーを奪い取ったのを見て、ジューゼ伯爵が顔色を変えた。
「やめろっ! その子に触るなっ!」
「くっ……落花生が膝下まで!」
「伯爵? あなたは何故、この子を闇の魔導師などにっ……」
「ウニられるのは覚悟していたが、落花生対策はしてこなかった……俺もまだ未熟だな」
「仕方がないのだ……シグルドも死んでしまった。私にはもう、どうすればいいかわからなかったのだ……」
「どうすれば落花生を止められるんだ……?」
オスカーの前で、ジューゼ伯爵が地面に膝をついた。ヨハネスの膝の高さまでが落花生で埋まった。
「う……ううん?」
アルムの横で眠っていたマリスが騒がしさに目を覚ました。
「……どういう状況?」
マリスの呟きに答えてくれる者は誰もいなかった。
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