第21話 風の後




 ***



 暴風が遠のき静かになった森の小屋の前で、ガードナーが目を開けた。


「すごい風だったな……」


 あの時、小さな女の子を抱きとめたアルムを中心に強い風が吹き荒れて、そばに寄ることも目を開けることさえできなかった。ただ、何かが激しくぶつかり合うような轟音が何度も響いて、だんだんと遠ざかっていた。

 ガードナーには何が起きたのかさっぱりわからないが、とにかくアルムが何か大変なものから皆を守ろうとして魔力を使ったのだろうと推測した。


「皆、無事か?」


 ガードナーは辺りを見回した。

 風に吹き飛ばされてどこかにぶつかったのか、すぐ近くに気絶した伯爵が転がっていた。家の戸口には老女が倒れている。

 風に怯えて逃げたガードナーとマリスの馬が、遠く離れたところに立ってこちらをうかがうようにしているのが見えた。


「アルム?」


 アルムの姿がない。

 いや、あの小さな女の子と、マリスとローブの男も消えている。


「子供はアルムが抱いていたが、マリスと男はどこへ……」


 中に誰かいないかと小屋に足を踏み入れたガードナーは、壁一面にびっしりと貼られた無数の護符を目にして立ち尽くした。

 ほとんどの護符はすでに効力を失っているのか、黒ずんでいたり千切れていたりした。


 あまりに異様な光景に、さしものガードナーも息を飲む。これではまるで、この家の中に何か邪悪なものを封印していたかのようだ。


「なんなのだ、これは……」


 その時、外からガードナーの名を呼ぶ声が聞こえた。置いてきた護衛が戻ってこないガードナー達を捜しにきたのだ。


「ガードナー殿下! 何があったのですか」


 小屋から出たガードナーは倒れている伯爵と老女を目で指して言った。


「うむ。俺にも何が起きたのかわからん。とにかく、この二人から事情が聞きたい」


 ガードナーは伯爵と老女をジューゼ家へ運ぶように命じた。


「アルムとマリスはどこに行ったのだろう。無事だといいが……」


 少女達の身を案じつつ、ガードナーは不気味な小屋に背を向けた。



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