10話 千冬の懐妊
彼女は結婚してから今日まで、数多くの悩みを抱えていた。
最たる悩みは、彼は自分に、子供を望んでいるのだろうか……ということ。
今、
彼女たちのほうが良いに決まってる。
若い女の方が抱いてて気持ちが良いだろう。
よしんば孕ませたとて、何のリスクもなく、元気な子供を産める。
……真琴と達と比べて、自分は年齢的なハンディがある。
★
幸い、ホテルのなかに、日本語のわかるスタッフが常駐する、薬局があった。
そして……陽性がでた。
「うそ……」
結果は変わらず、自分のお腹に、新たな命が宿ったことを示している。
「…………」
子供が、できた。
しかも、愛する男との間に出来た子だ。
うれしい。
とてもうれしかった。
ぽろぽろとうれし涙を流す……一方で。
やはりどこか、
「……大丈夫、かしら」
今もう32だ。
子供を産めるだろうか。
そのうえ高齢出産となれば、数多くのリスクが伴う。
最悪流産なんて……。
「いや……いやよ……」
せっかく、愛する
ここには彼との愛の証が、宿っているのだ。
絶対に、生みたい。
彼の子供を産んで、育てたい。
……でも。
「大丈夫、かなぁ……」
不安だった。
子供が産めるだろうか、という不安もそうだが、彼が受け入れてくれるだろうか。
彼は本当に、自分との子を望んでくれてるだろうか。
医療が進歩し、親類であっても子供が産めるようになった。
……とはいえ、やはり世間では、親戚同士の恋愛も、出産も、よしとはされていない。
新しい技術に、古い考えが追いついてないのだ。
きっとこの先、
叔母を孕ませた不埒ものと、後ろ指指されるかも知れない。
「……怖い、怖いよ……たっくん……」
何で自分は、
他人であれば良かった。
そうすれば、
……でも。
他人だったらきっと、こうして結ばれることはなかったろう。
彼の叔母として、ずっと彼をそばで見てきたからこそ、好きになったのだし、好きになってもらえたのだ。
「たっくん……」
でも、
彼に、プロポーズした日を思い出す。
ハーレム法案が通ったあと、
好きです、と伝えた。
ずっと前から、愛してると……伝えた。
真琴は驚いてはいたものの、しかし黙って部屋を出て行った。
真琴からは反発されるだろうと思っていた。
けれど彼女は
『たっくん……わたし、あなたが好き。……好きなの……! 大好きなの……!』
嫌われてもいいから、この思いを、思いのままに話した。
気持ち悪いと突っぱねられたら、もう諦めようと思った。
でも……
『俺も、
……あのとき、
叔母と付き合うこと、結婚することは、大変な覚悟を必要とする。
だがそれでも彼は、悩みはすれど、しかし思いに応えてくれた。
優しい彼なら、きっと……。
★
「ありがとう、
開口一番、彼は感謝を述べてきたのだ。
「ありがとう!
……ああ、と
良かった。
やっぱり間違ってなかった。
彼は……自分が愛した男は、優しい人なのだ。
感謝の言葉、そして優しいハグとキス。
「
真琴をかわきりに、
嫁達は全員で、彼の喜びを共有してくれている。
「本当にありがとうな、
気づけば、千冬は嗚咽をついていた。
「な、なんで泣いてるのさ……千冬姉さん?」
「だって……だぁってぇ~……」
不安だったのだ。
ずっとずっと。
自分はこんな若くて可愛くないから。
おばさんだから。
叔母さんだから。
ずっと……コンプレックスを抱いていたのだ。
彼が、子供を望んでないのではないかと。
嫁達も、自分のようなおばさんが、彼の女であることを、望んでないのかもと。
でも違った。
すべて杞憂だった。
優しい旦那も、嫁達も、温かく受け入れ、そして祝福してくれた。
「俺……一生懸命働くよ! 今以上に、千冬に、生まれてくる子供に、迷惑がかからないように」
「ぼくたちも頑張って支えるよ……! がんばろうね、千冬姉さん!」
涙を流しながら、何度も何度も、千冬はうなずく。
「ありがとう……たっくん、それに……みんな……」
薮原は肩を抱いて、そばにいてくれる。
嫁達はみんな拍手してくれている。
「ありがとう……大好きよ、みんな……!」
……こうして。
薮原家に、第一子が授かったのだった。
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高原おじちゃんのリアクションは次回。
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