第51話 本当にすまないと思っている
「くっ……パーティメンバーが全然集まらねぇ」
第二層、氷のダンジョン入り口で、小学生プレイヤーのオウガは舌打ちをした。通常のダンジョンとは違い、次の階層へと向かうためのダンジョンは一度クリアすると、再び入る事は出来なくなる。
めぼしいプレイヤーはとっくに第三層へとステージを移しているため、オウガはクリスタルレオに勝てるだけの戦力を揃えられずにいた。
「だったらなんでギルド抜けちゃったのよ。アンタってホント考えなしなんだから」
そんなオウガに文句を言うのは、同じく小学生プレイヤーの【メイ】。職業は召喚師。あの時クロノドラゴンを受け取った、ヨハンに憧れてGOOを始めた初心者プレイヤーである。
「なんでって……俺がクロスの事を良く思ってないの知ってるだろ?」
「はいはい。因縁があるのよねー。ま、アンタがクロス君の相手になるとは、全然思わないけど」
「なんだと!?」
「顔も才能も収入も能力も完敗じゃない」
「ぐはっ」
メイのはっきりとした物言いに心臓を抑えうずくまるオウガ。クロスは小学生ながら動画サイトで収入を得て、家にお金を入れている。オウガとクロスの母親同士が物凄く仲が良いので、よく引き合いに出されて母親に小言を言われるのだ。それが、オウガのクロス嫌いの要因の一つだろう。
「ま、まあそれでも? 私はクロス君よりアンタの方が……」
「あ? なんか言ったか?」
「ふん……別に」
「とにかくこのままじゃ不味い。俺たち永遠に第三層へ行けないぜ」
「それは困るわ。さっさと強そうな人に助けて貰って……」
「あら、貴方たちは!」
その時、見知った顔が見えた。
「きゃー! ヨハン様ぁ!!」
まるでイケメン俳優を見るようなとろんとした表情でヨハンを見つめるメイと、「うわぁ」という嫌そうな顔をするオウガ。そんな二人に魔王装備を外したヨハンは手を振りながら近づいてくる。
「ヨハンさm……ヨハンさん。こんなところでどうされたのですか?」
メイに問いかけられたヨハンは困ったような表情を作る。
「それがね。私のギルドに新メンバーが入ったんだけど、まだ氷のダンジョンをクリアしてなくて。誰か組んでくれる人を探しているのよ」
その言葉に二人ははっとした。ヨハンのギルドに入る程のプレイヤー。間違いなく強いはずだと思ったからだ。
「だったら俺たちが組んでやるよ」
「ええ、私たちも丁度、氷のダンジョンに挑戦する仲間を探していた所だったんです」
「あらそうなの? 丁度良かったわ。それじゃあ呼んでくるから、ここで待っててね」
すると、ヨハンはすたすたとその場を後にした。
「ああヨハン様……後ろ姿も素敵だわ」
「そうか? なんか女の癖に背がたけーし、あんま好きじゃないな」
「馬鹿ね、モデル体型でいいじゃない! きっと現実ではモデルか女優をやっているに違いないわ。女子の憧れよ……あ、戻ってきた」
「ホントだ……ん? 気のせいか、後ろに何か変なのが」
「気のせいじゃないわ……何アレ……ひぃい」
「まさかギルドの新メンバーって……」
ヨハンは
「おや、小学生プレイヤーですか。いいですね。私にも君たちくらいの娘が居まして。いやぁ、これは頑張らないといけませんね」
と、何やら気合いを入れるポーズをしている。煙条Pの筋肉が膨らむ度、既にぱつんぱつんになっているアイドル衣装が引き千切れてしまいそうで、心臓に悪い。
「小学生の娘って……マジか」
「やだ娘さん、かわいそう……」
「この人は煙条P。見た目通りの人よ。それで、この二人はオウガくんとメイちゃん」
「オウガくんとメイちゃん……なるほど覚えました。では、早速ダンジョンに挑みましょう」
三人は握手をすると、パーティを組み、氷のダンジョンへと潜っていった。青ざめた顔をした小学生二人の背中を、ヨハンは90°のお辞儀で見送った。
「ごめん」
そして、心から謝罪した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます