第38話 第三層突破
ドナルド・スマイル。
基本ソロで活動する彼の職業は、実は魔法使いである。だが杖を捨て、魔法系スキルは全て自分を強化する補助呪文。ステータスポイントも筋力値中心に振った、異端の肉弾系ファイターである。
今回はコンの召喚獣による強化も受け、大幅な火力を得たドナルド。まるで陸上部員のような綺麗なフォームでクリスタルレオ目掛けて走って行く。
「うちも援護したろ。バックアップチア、ドナルドを追いかけてや」
「はい!」
コンの命令を受けたバックアップチアは飛翔し、ドナルドを追いかける。そのバックアップチアに、コンはスキルを使用する。
「【サクリファイスエスケープ】を発動と……これでなんとかなるやろ」
召喚師専用スキル【サクリファイスエスケープ】は、自分の召喚獣に【ターゲット集中】状態を付与し、敵の攻撃を引き付ける囮にするスキルである。
「ゼッカちゃんレンマちゃ~ん、助けに来たわよ~☆」
そこはかとなく筋肉が膨れ上がったような気がするドナルド・スマイルがダッシュで近づいてきて、驚くゼッカとレンマ。だが、二人も時間稼ぎをするには限界だった。なので、メインアタッカーの登場に胸をなで下ろす。
「がるるがあああああ」
敵のスキル【絶対零度】が発動するが、バックアップチアがドナルドの身代わりとなって、氷漬けになる。
「フンヌ☆」
そしてドナルドは、自分と敵の間に割って入った最後の浮遊クリスタルを一撃で粉砕する。
「がるるがあああああ」
距離を詰めるドナルドに対し、クリスタルレオは攻撃スキル【ダイヤモンドダストバースト】を発動。細氷の螺旋がドナルドに襲いかかる。
「アラ……ちょっと不味いかしら!?」
攻撃の速さに回避は不可能と悟るドナルド。
「……大丈夫……【ルミナスエターナル】!!」
レンマの最強防御スキルが発動。これによりドナルドはあらゆるダメージと状態異常から守られる。
「あらもう最高よ……それじゃあ、トドメと行こうかしら☆」
クリスタルレオを守る浮遊クリスタルは全て消えた。後は敵の背に飛び乗って、相手が死ぬまで殴り続けるだけだった。
だが。
「がるるがあああああ」
クリスタルレオの周囲に、冷気が集まっていき、氷の結晶が生まれる。そしてそれは徐々に形を変えていき……。
「ちょっとちょっとなんなのよー聞いてないわよ~!?」
敵の周りには、氷で出来た魔物が出現した。その魔物はクリスタルレオそっくりで、大きさは半分程度。しかしその数は3体。
「……まだスキルがあったんだ」
「これは不味いですね……」
氷で出来たクリスタルレオ達は、ゼッカ、レンマ、ドナルドに襲いかかる。
「んん~ワタシは攻撃を受ける訳にはいかないのよねぇ~」
氷の分身体の攻撃を躱しながら、ドナルドは呟いた。超攻撃的スキル【闘魂・零】のデメリットによって、ドナルドは今、1ポイントでもダメージを貰ったら即死という状態になっている。
無論、今のドナルドの状態ならば目の前の氷のクリスタルレオくらいいつでも倒すことが出来る。 だがそれをさせないのは、パーティの為。もし万が一、反撃を受けたら? 自分のミスがパーティメンバー全員の敗北となってしまう。迂闊な判断は出来なかった。
(これがパーティ戦なのね……ふふ……なかなかエキサイティングじゃない☆)
ドナルドが回避行動を取っている間に、ゼッカが氷の分身体の一つを撃破。レンマを襲っていた分身体を引き受ける。
「……【ポジションチェンジ】!!」
ゼッカのお陰で敵の攻撃から解放されたレンマはドナルドと位置を入れ替える。これにより、ドナルドを襲っていた分身体を、レンマが引き受ける事となった。
「ドナルドさん……行ってください!」
「ナイスゥー! 行ってくるわ☆」
再びドナルドが走り出す。その横を、蝶の羽の生えた妖精が並走する。コンが召喚したプレレフアである。これにより、敵の攻撃が来たとしても、【不死蝶の舞】でドナルドを守る事が可能となった。
「ナイスよコンちゃん。なんか、ワタシまで妖精になった気分だわ~☆」
浮かれ気分のドナルドは飛び上がる。
「がるるがああああああ」
だがクリスタルレオも黙って見ている訳では無い。スキル【絶対零度】で迎え撃つ。
「無駄よぉ! ムダムダムダムダァ☆」
蝶の幻影がドナルドを包み込み、敵の攻撃から身を守る。そして、いよいよドナルドの拳がクリスタルレオの頭部へと打ち込まれた。
「ドナルド☆マジック!」
「がるるがあああ」
鎧兜のようになっていた敵の氷を粉砕する。ドナルドはそのまま敵の背に乗ると、筋力の赴くままに翼を引きちぎる。そして敵の後頭部目掛けて何発ものパンチを打ち込む。
「が……がる……がる」
少しの時間耐えていたクリスタルレオだったが、それでもドナルドの火力に耐えきれず、光の粒子となって消滅した。
「……クリアした!」
「やった、やりましたよレンマちゃん」
「ふぅ……案外強敵やったね」
「でも、ワタシ達の絆パワーで、無事に勝利できたわー☆」
一通り喜んだ四人は、アイテムを確認するが、これといって特別なアイテムはドロップしなかった。やはり初見かつソロでないと、手に入らないらしい。
「ヨハンちゃんはクリア出来たのかしら?」
「どうでしょうか……でも、あの人ならやってくれます!」
「……自信はあるみたいだったけど」
「今の魔王はんなら余裕やろ」
ヨハンの心配をしつつも、四人は無事、第三層へと足を踏み入れた。
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