第18話 掲示板とトレジャーイベント

 インターネットのとある掲示板。混沌渦巻くその場所で、今日も男たちの戦いが、始まろうとしていた。



【GOO】打倒ヨハン【被害者の会】


122.被害者

謎のプレイヤーヨハンの被害者たちが集まっているというのはここですか?


123.名無しの復讐者C

良く来た


124.名無しの復讐者

肩の力抜けよ


125.名無しの復讐者

歓迎するぜ。

で、アンタは何をされたんだ?


126.被害者

先月のランキングイベントのことです。

いきなり黒い炎に包まれたと思ったら、死んでました。

後にあれがヨハンの仕業だと知りました


127.名無しの復讐者

そうか……つらかったな


128.被害者

皆さんも?


129.名無しの復讐者A

俺はヤツの召喚獣に殺されてる。だが俺なんてまだマシさ

127なんて大事な妹を殺されてる


130.名無しの復讐者

ランキングデビュー戦だったんだよ。「私もトップランカーになりたい!」って綺麗な目して言ってたさそれまでは。

でも最近はさ……濁った瞳で言うんだ

「ヨハン様にまた殺されたいなぁ」……って


131.被害者

ひっ……



132.名無しの復讐者

……いつ聞いてもひでえ話だ


133.名無しの復讐者

ビビることはねぇ122

ここじゃヨハンに勝つためのあらゆる情報が集まってる。

なぁに焦る必要はない。次のランキングイベントまであと二週間ある。

じっくり楽しもう、魔王攻略をな



134.被害者

はい!




*****



679.名無しの復讐者A

野郎共準備はいいか! 決戦は明日土曜。狙いは前回と同じ19:00時の部だ


680.名無しの復讐者

イッツパーフェクト


681.被害者

イメージを……高めるッ……高めるッ


682.名無しの復讐者

いいか! 誰が倒しても文句なしだぜ?


683.名無しの復讐者

誰が勝ってもいい……その時はここで笑い合おうじゃねぇか


684.名無しの復讐者

へへ、当たり前だ……


685.名無しの復讐者A

最後に確認だ。

スタン対策は必須。そして召喚およびスキルの発動を封じるため、MPドレイン系の武器で攻め、欲を言えば無敵貫通……異論ないな?


686.名無しの復讐者

もちろん。それがここ一ヶ月で出した対ヨハンの結論だ


687.名無しの復讐者

暗唱できるわ


688.被害者

イメージを……高めるッ……高めるッ


689.名無しの復讐者

俺は明日に備えて寝るとするよ


690.名無しの復讐者

俺も


691.名無しの復讐者

俺も






***


 第一層はじまりの街。中央通りに並ぶカフェに、ヨハンたちの姿があった。


 窓際の席にヨハンとゼッカ、そしてゴリラアーマーを脱いだレンマが並び、雑談に興じていた。皆で紅茶を飲みながら次の話題を探していたとき、ふとヨハンが口を開く。


「明日、甥っ子の誕生日なのよ」


「おめでとうございます」

「……おめでとう。いくつになるの?」

「明日で6歳よ」

「へぇ~プレゼントは何かあげるんですか?」

「○○ライダーのベルトよ。喜んでくれるといいんだけど」

「……大丈夫。きっと喜ぶ」


 と話をしていると、急にゼッカが大声を上げた。


「あー! ヨハンさん、明日はランキングイベントですよ!? どうするんですか?」


 そう。明日は一月ぶりにランキングイベントが開催される。前回107位まで昇り詰めたヨハンだが、もし参加しなければ、大きく順位を落とすことになるだろう。


「私も前々回は50位くらいだったんですけど、前回出なかっただけで700位くらいまで落ちちゃいましたし……ってランキングとか全然興味無いって顔してる!」

「そそそ、そんなことはあるようなないような……あるわ」

「あるんじゃないですか! ……あれ?」


 途中で意味がわからなくなるゼッカ。


「……ゼッカ。このゲームの遊び方は人それぞれ。強制はよくない」

「うぅ……すみませんつい……。でも、ヨハンさん滅茶苦茶強いし、活躍を期待しちゃうんですよ……というか、ちょっと戦って見たいと思ったりして」


 左右の人差し指をつんつんさせて俯くゼッカ。そんなゼッカにオレンジジュースを飲んでいたレンマが「どうせ勝てないのに」と煽る。


「……ぐっ」


 ゼッカは苦虫をかみつぶしたような顔をする。


「私ももっと強くならなきゃ……ならなきゃ……」

「あ、あんまり思い詰めないでゼッカちゃん。約一月遊んだ感想だけど、このゲームは楽しむのが強くなる一番の近道だと思うわ」

「フフフ……大丈夫ですよヨハンさん。私はどうやって勝つか脳内シミュレーションするのが楽しくて楽しくて堪らないんです……フフフ」


 不気味に笑うゼッカ。ヨハンとレンマが軽く引いている。ヨハンは話題を変えようと、ゼッカが興味ありそうな話題を振った。


「で、でも来週の土曜日のイベントには出られるから」

「トレジャーイベントですね!」


(一瞬で機嫌が回復したわね)


 ゼッカが新イベントの告知を表示する。




第一回トレジャーイベント開催決定 


【概要】

第一層全てを使った宝探しイベント開催決定! 多くの希少なアイテムを復刻! 今では入手不可能なアイテムを手に入れるチャンス!


【開催日時】

4月○日 (土曜日)19:00~22:00

(ゲーム内時間を加速させます。ゲーム内で三日間)


【参加条件】

レベル1~全てのプレイヤー


・パーティ単位で参加可能。

・イベント中、装備の変更はできません。

・アイテムの持ち込みはできません。ポーション等のアイテムは全て現地調達。

(但し、【召喚石】や【矢】等の職業の根底を為すアイテムは持ち込み可)

・イベント中、HPが0になった場合、手に入れたアイテムを全てその場でドロップ。

・死亡したプレイヤーは待機エリアにてイベント終了まで待機。

・イベント中にログアウトした場合、イベント終了までログイン不可。

・Lv20までのプレイヤーには【緊急脱出ボタン】を配布します。

【緊急脱出ボタン】

イベント中一度だけ使用可能。イベントエリア内の他のプレイヤーの居ない場所までワープする。


貴重なアイテムやレアな装備、過去のイベントレアアイテムなどを手に入れる絶好のチャンスだ。是非挑戦してみよう!


【アフター】

・イベント終了から10日間、メニューからトレジャーイベント限定掲示板が使用可能。

・ここではトレジャーイベントで手に入れたアイテムをプレイヤー同士で取引可能。

・要らないアイテムで一攫千金のチャンス!? また、参加できなかったプレイヤーもここで欲しいアイテムを手に入れるチャンス!



「……復刻アイテムには興味あるけど……見た限りプレイヤー同士の戦いが加速しそうだね。不安だな」


 イベント概要を見終えたレンマが呟く。


「大丈夫ですよレンマちゃん。私がついてる……それに、手に入れたアイテム、全部ヨハンさんに預けておけばいいんです。何せ1日13回ガッツが使えるんですから」


「安心してレンマちゃん。みんなで集めたアイテムは誰にも渡さないわ」


 仮に敵に襲われたとしても透明化やシフトチェンジなど、戦闘を離脱する方法はいくらでもある。まぁ今のヨハンと真正面から戦って倒せるプレイヤーがいったい何人いるのかという話なのだが。しかも攻めのゼッカと守りのレンマと同じパーティ。トッププレイヤーであっても戦いは避けるのが無難だろう。


「それに、探索ということは、私のイヌコロが大活躍の予感ね!」

「そうですね! 頼りにさせてもらいます!」


「……それで、ゼッカは張り切ってるけど、何か狙いのアイテムとかあるの?」


 オレンジジュースの二杯目を飲みながら、レンマが尋ねた。


「う~ん、今回に限っては事前に何が手には入るかわからないのが気になります」


 ゼッカはイベント概要を何度も上下にスクロールさせる。


「……蓋を開ければしょぼかった……ってこともあるわけだね」

「そういうこと。本当に豪華な可能性もあるし、運営が言ってるだけで私たちからしたらしょっぱい可能性もある」

「けれど、最後にみんなで交換もできるみたいだし。できるだけ豪華なアイテムを取っておけば、たとえ自分が要らなかったとしても、欲しいアイテムを手に入れるチャンスになるわ」


 ヨハンの言葉に二人は頷く。


「……ちょっとわくわくしてきたね。……それで、ボクはイベントまでにやっておくことはあるかな?」

「無難にレベル上げですかねぇ。レンマちゃんは平日は何時にログインしてますか? 私、20時くらいからなら手伝えますよ」

「……ボクは暇だから大体ログインしてる。じゃあその時間に落ち合おう」

「おっけー!」


 ちなみにジェネシス・オメガ・オンラインの現在の最高レベルは50である。そしてゼッカのレベルも50なので、これ以上経験値を稼ぐ行為は時間の無駄なのでは? と思うかもしれない。だが、運営は今後のレベル上限引き上げをプレイヤーに約束しており、レベル50であっても経験値を貯め続けることができるようになっている。そして上限引き上げと同時にレベルが上がるようになっている。


 来月のゴールデンウィーク頃にサービス開始一周年記念の大型アップデートが来るのでは? と、もっぱらの噂である。


「じゃあ、二人はレベル上げ頑張って頂戴ね。私も明日、甥っ子の誕生日パーティを楽しんだら、すぐ準備に取りかかるわ」

「ヨハンさんはどんな準備を?」

「……新しい召喚獣を仕入れに行く?」

「あ、戦力強化ですね!」


 レンマの言葉にヨハンは酷く落ち着いた表情で首を振る。その目は虚ろで、どこか遠くを見ているようだった。


「仕事よ。土曜に予定が入らないよう、仕事を完璧に終わらせる」

「「え?」」

「社会人の休日というのはね、来るのを待っていてはいけないの。自ら勝ち取るものなのよ」

「「お、お疲れ様です-!!」」


 唯一の社会人であるヨハンに、学生の二人は深々と頭を下げた。




***


 次の日の深夜。とある掲示板の記録。




【被害者限定】打倒ヨハン【攻略】



789.名無しの復讐者

順位上がった。うれちい



790.名無しの復讐者A

俺もだ、兄弟



791.名無しの復讐者

俺なんて勝ちすぎて最終フェーズはロランドと同じ部屋だったぜ


792.名無しの復讐者

あっはは、やっぱランキング上がると楽しいわ、このゲーム


793.名無しの復讐者

……



794.名無しの復讐者

……



795.名無しの復讐者

……おい、みんな現実見ろよ




796.名無しの復讐者

居なかったな、ヨハン



797.名無しの復讐者

なんでだなんだよちくしょおおおおおおおおおおおおお



798.被害者

俺はっ……お前と……戦いたかったッ!!


799.名無しの復讐者

ヨハンなんで居ないの? 私から逃げたの?

ヨハンヨハンヨハンヨハンヨハンヨハンヨハンヨハンヨハンヨハンヨハンヨハンヨハンヨハンヨハンヨハンヨハンヨハンヨハンヨハンヨハンヨハンヨハンヨハンヨハンヨハンヨハンヨハンヨハンヨハンヨハンヨハンヨハンヨハンヨハンヨハンヨハンヨハンヨハン



800.名無しの復讐者A

まぁ落ち着けおまいら

来週のトレジャーイベントには出没するかもしれん



801.名無しの復讐者

!!


802.名無しの復讐者

おおおお、生きる希望が



803.名無しの復讐者

しかもこのイベントはパーティを組める

俺たちが力を合わせる時が来たようだ


804.名無しの復讐者

盛り上がってきたああああああああ!!


805.名無しの復讐者

パーティが組めるとなると、作戦の幅が広がるぜええええええ



806.被害者

高ぶるッ……昂ぶる……ぅ!!」


807.名無しの復讐者

よーしおまえら、今から来週まで寝ずの会議だ

命が惜しいヤツは今すぐ消えろ!

死にてえヤツだけついてこい!


808.名無しの復讐者

リベンジじゃああああああ!!


809.名無しの復讐者

おおおおおおお!





***


 どうせまた、ヨハンにボコボコにやられるんだろうけど。それでも男たちの戦いは続く。

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