第24話 スライムの湿原

◇リンク内◇


 で、ミラちゃん。

 ここドコ?


 ミラちゃんの誘導に従って向かった場所はまだ来たことがないエリアだった。辺りには大きなモンスター達の影が蠢いている。


『あゆみ、特訓です。「拳豪トーナメント」の予選突破に向けてここでレベル上げとスキル修得を行います』


 この辺りには今まで見てきたモンスターよりも強いモンスターが沢山いそうだな。


 !!


 近づくにつれ段々と見えてきたモンスター達のシルエットには物凄く馴染みがあった。


 最高か!

「ここ、スライムばっかりじゃん」

 スライムは大好物です。


 何か強そうなスライムがいっぱいいそうだね?

 最初の街の周辺のスライムは弱すぎて経験値がほとんど溜まんなくなってたからね。ミラちゃんよく分かってる!


『そうですね。ここら一帯はスライムの湿原と呼ばれており、その名の通りスライムの群生地になっています。ここには当然スライム種であっても強い個体もいます。だからこそここに来ました。あゆみがもう普通のスライムでは物足りなくなってるのは分かってましたから』


 スライムの群生地か。なんていい響き!


 つまり……。

 ぷにぷにし放題。

 無限ぷにぷに。


 ここはぷにぷにの聖地か……。

 まさに私のために用意されたような場所。


 ちなみに辺りを見回しても私以外のプレイヤーの姿がない。

 私の他にぷにぷにフェチはいないのかな?


『あゆみ以外のプレイヤーには触覚がないためスライムの感触を楽しむことが出来ませんよ』


 あ、そうか。当たり前に感じてたけど、他のプレイヤーはそうじゃないのか。

 それにしてもスライム狩りに来る人がいないのは何で?


『全てのスライムは物理耐性を持ち、上位種になると他の属性に対する耐性を持つ個体も出てきます。倒しにくい割に経験値が低いので総じて人気がありません。ドロップアイテム目当てでここに来るプレイヤーが少しいる程度です』


 なるほどね。人気ないのかスライムちん。

 いいよぉ、いいよぉ。私が可愛がってあげるからねぇ。

 げへへ。


『なるほど、これが気持ち悪いおっさんの思考パターンですね。参考になります』


 おっさん言うな!

 モチベーション落ちるでしょ。

 私は美少女です!

 私は美少女です!


 はい、大切なことなので2回言いました。


 とまぁ、それはいいとしてミラちゃん。

 スキルってどうやって覚えるのさ?


『流石、天才美少女武道家見習いあゆみですね。良い着眼点です』


 いや、ちょっとその肩書きは長過ぎかな。

 美少女だけでいいや。

 天才美少女でも構わんけど、なんか肩書きが長いとイタイ子っぽく聞こえない?


『ジムでパンチの打ち方を覚えた時と同じようにやってみましょう。私が超絶天才美少女あゆみマーク2の脳内にスキル発動中の動きを表示しますのでそれに倣って動いてみてください』


 スルーか〜い!

 ちょっとミラさんや、私いつの間にかマーク2にバージョンアップしてるみたいなんですけど!

 

 もういいや。

 分かった。

 分かったよ。


 仕方ない。中身おっさんでいいから。


 見た目は美少女、中身はおっさん!

 その名も超絶天才美少女あゆみマーク2でいいから、早く進めて。

 時は金なりだよ!


『OK牧場』


 ブッ。何それ?

 良く分かんないけどそういうネタどっから仕込んで来るわけ?

 っていいや。ついついツッコんじゃったけど進めて進めて。


『ただ、あゆみ、何度も聞きますが本当に今のままの装備でいいんですか? ゴールドがある程度あるのですから装備を整えることをお勧めしますよ』


 ん? いいよ。

 だって、装備買ったら私のお金も減っちゃうじゃん。


 そこは装備なしの縛りプレイで。


『だからと言って、装備なしのままではリスクがあります。死んだらアイテムも所持金も全て失ってしまうんですよ』

 うっ······。

 そうなんだよね。


『リンク』って死亡したら所持金と所持アイテムの全てを失っちゃうんだよね。


 小田先輩も「死んで全ロスするのだけは絶対避けるでござる」って言ってた。

 失ったアイテムは数分はその場にドロップし続けるけどやがて消滅してしまうらしい。


 そんなわけで『リンク』ではそう簡単に死ぬことは出来ない。

 ちなみに、他の場所に預けておいたゴールドやアイテムは失われないようになっている。


 とにかく装備を買うにもお金はかかる。

 そして死んでしまったらせっかく買った装備も失ってしまう。


 となると、何も買わない方が良くない?

 何も買わなくてもスライムにやられる心配はないし、十分ゴールドは稼げるもんね。


『分かりました。ただ、ここのスライムには強い個体もいますからスライムとは言え油断はしないでください』


 分かってるって。


『ではスキルの投影を始めます。まずは【突進】です。【突進】は通常のユーザーの場合、ダッシュ状態でモンスターにぶつかることで低確率で覚えることが出来ます』


 そう説明してくれた【突進】のモーションを見ると単なるダッシュとは異なり、ぶつかる瞬間に腕でガードしつつ相手を吹っ飛ばすようにグッと力を入れる感じだった。


 うん。まぁ出来そう。

 私の今の動きも同時に投影されるので二つのモーションが同じになるように動いてみる。


——ドーーン——


 やってみたら目の前のスライムが派手に吹っ飛んだ。


『スキル【突進】を覚えました』


 なにこれ。面白ーい。

 何か面白かったのでそのままの勢いで他のスライムに向かって突き進む。


——ドーーン——

——ドーーン——

——ドーーン——


 物理耐性というのがあるらしく【突進】で吹っ飛ばされてもスライムは死ななかった。

 でもこれはこれで面白かった。


 私としては特にスキルを使っているという認識はないんだけど、【突進】に当てはまる動作をすると体全体が淡く光る。

 特にガード&攻撃する腕は強めの光を放つ。


 この光を放っている間、腕は防御力が上がるのかスライムと当たってもダメージを受けなくなる。

 こういう光を放つスキル特有の演出はエフェクトっていうらしい。


 ちなみに【貫手】にもエフェクトがあったらしい。

 スキル使用時に一瞬BGMが消えるのと影の残像が出るらしいんだけど、今まで全然気づかなかったな。


 だって影は私の後ろに出るんだもん。

 そりゃ気づかないよね。


 ひとしきり【突進】を楽しんだ後、他のスキルも覚えた。

 覚えたのは【足払い】【タックル】【スライディング】【ラッシュ】そして【カウンター】だ。


 先輩の話を聞いたときは【カウンター】を覚えるのは難しいかなと思ったんだけど修得できてしまった。

 レイカさんとスパーリングをしたお陰だと思うけど、スライムの攻撃を見切って反撃するのはそう難しくなかったんだよね。


 他にも先輩おススメのスキルで【威圧】っていうスキルがあったんだけど、これは覚えられなかった。

 何でもスキル取得条件に『相手を竦ませて倒す』というのがあるらしいんだけど、スライム君たちオツムが空っぽなのか全然ビビったりしないんだよね。


 『DLモード』だからって何でもかんでも都合よくいくわけじゃないんだな。

 うーん。残念。

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