第19話 何事も挑戦だ

「先輩って、『拳豪トーナメント』に出たことあります?」

 次の日、バイト先で先輩に聞いてみた。

 実のところ先輩は普段必要以上に話しかけてはこない。どうも以前、若い女の子の後輩に話しかけてセクハラ扱いされたことがあって気をつけているらしい。

 でも、外見と言葉遣いとは裏腹に面倒見のいい人だと私は思っている。私が話しかけるといつも丁寧に答えてくれる。


「ぐふふ。あゆみ氏それは愚問でごさるな。拙者は毎月参加しているでごさるよ。ちなみに今月はなんと一次予選を通過しているのでござる!」

「え、すごいですね。何かコツとかありますか?」


「そうでござるな。やはり、『スキル』を如何に使いこなすかが鍵でごさる。特に鍵となる『スキル』をあげるなら【突進】、【足払い】、【ラッシュ】――」

「――あ、お客さんが来ましたね」

「――おうふ!」


 先輩はゲームのことでアドバイスを求めたのが嬉しかったのか、凄い勢いで語ってくれた。


 が、勿論バイトはきちんとこなす。

 お客様がいらっしゃる時に無駄なおしゃべりをしたりしない。


 そんなこんなで途切れ途切れではあったけれど先輩からもらったアドバイスをまとめるとこんな感じだ。

 バトルロイヤル中は兎に角足を止めないことが重要らしい。

 足を止めると的にされるし、ダメージも稼げないとのことだ。


 先輩おススメのスキルとしては

・機動に優れ攻撃も出来る【突進】

・上中段の攻撃を躱し相手を転ばせる【足払い】

・上段の攻撃を躱し確実に相手を転ばせる【タックル】

・【足払い】の効果+移動もできる【スライディング】

・ある程度移動しながら連続攻撃が出来る【ラッシュ】

・広範囲の敵を竦ませる【威圧】

・テクニックが求められるが、相手の攻撃を躱し大ダメージを与えることが出来る【カウンター】

 この辺が下位のジョブでも修得可能で有用なスキルらしい。

 ただ、『リンク』ではスキルを覚える条件に現実が関わってくることもあるためそう簡単にスキルを覚えることが出来ないらしい。


 スキルを得る手段としてスキルガチャとかがあるけど超レアアイテムらしい。


 ただ聞いてて思ったけど先輩おススメのスキルって、スキルとして覚えなくても私なら普通に出来そうな気がする。

 【威圧】と【カウンター】以外ならいけるんじゃないかな。

 そういう動作をすればいいだけだよね?


 先輩はプレイヤー目線のアドバイスをくれるから結構参考になったな。

 先輩ありがとう!



 一日のバイトを終えてジムへと向かった。

 今日から本格的な練習だからね。楽しみだな。


「じゃあ、あゆみはまずラン10㎞だな」

「はい」

 準備運動代わりにストレッチしていたら爽やかお兄さん……総さんが指示してくれた。

 レイカさんみたく「総様」とは呼べないので総さんと呼ぶことにした。


 ランニングマシンが空いてたら室内でもいいし、空いてなかったらロードワークになる。

 ちなみにランニングマシンが空いていたので使わせてもらった。


………

……


 すべては『リンク』で稼ぐため。

 そのために現実でも一生懸命頑張るのだ。

 だからランニングも全力で走ったよ!


「はぁ、はぁ、よし。終わった」

「え、もう終わったのか。……思ってたより足が速いな。じゃあ、5分休憩。その後ラン10㎞」


 え? また?


「返事は?」

「はいっ!」


 総さん、見た目は爽やかなんだけど声にどこか凄味があった。

 やりますよ。ちゃんと走りますから。

 もちろん、全力でね!


………

……


「はぁ、はぁ、はぁ、終わりました……」


 疲れたなぁ。もう一回【治癒ヒール】かけとこ。

 ちなみに走ってるときにも何回も【治癒ヒール】を使っているので結構早く走り終わったと思う。

 だって、そりゃあ走るのはジムじゃなくても出来ますからね。

 折角お金出して習うんだからボクシング的なことを習うのに時間使いたいからね。

 そのために頑張りましたもの。


「あらら。2本目ももう終わったのか……。じゃあ、5分休憩ね。さてこれはどうしようかな……」


 ん?

 まさか総さん、この後のメニュー考えてなかったとか?


「あ、いや練習メニューはちゃんと考えてあるよ。けどどうするか……」

 あれ、もしかして考えてたことが顔に出ちゃってたかな。


「もしあゆみがやりたくなかったら断ってもいいんだけどレイカとスパーリングやってみない?」

「……スパーリングって何ですか?」


「リングの上で、試合形式の練習をすることだよ。女子ボクサーは選手人口が少ないからさレイカの練習相手を探すのも大変なんだよね。見学のときのあゆみの動きを見て、レイカがどうしてもあゆみとスパーしたいって言うからさ」


「でも、私ボクシングのルールもよく知らないんですけど……」

「だよねぇ。勿論ルールは教えるし難しくないよ」


「それに今さっき20㎞も走った後だし……」

「そう。本当は走った後であゆみが疲れているから今日はダメだってレイカを説得しようと思ったんだけど……思ったよりも早く走り終わった上にそんなに疲れてなさそうだからどうしようかなって……」


 しまった。そういうことだったのか。

 じゃあ、【治癒ヒール】使った私にも責任があるか。


 それによく考えたら『拳豪』を目指すなら対人戦を経験しておくのも必要だよね。


「分かりました。そういうことならルール教えてください。私やってみます」

「ありがとう。そう言ってくれると助かるよ」


 まぁ、何事も挑戦だ。

 やらずに後悔するより、やって後悔する方がいいもんね。


『それってフラグですか?』


 ……って、いやいや後悔するつもりはないですけどね!

 危ない危ない。あやうく変なフラグ立てるところだった。

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