火種を探して①

 ◆クラウド11歳の頃◆


「お兄ちゃん~!」


 眩しい朝日に気持ち良く目覚めてから、一階のリビングに降りるとサリーが元気よく挨拶してくれる。


 その傍ら、料理を準備するお母さんと一緒にティナとアーシャが見える。


「サリー。カジさんから鍛冶用の火種が欲しいとの事で、どこかお勧め場所ある?」


「火種~? ん~どうかな? そういえば、ロスちゃんが住んでいた場所とかはどうかな?」


「ロスちゃんが住んでいた場所?」


「うん。ロスちゃんってものすごく暑い場所に住んでいたんでしょう? ファイアウルフとか~」


 サリーにそう言われて、ものすごく納得してしまった。


 ロスちゃんが連れて来た眷属のファイアウルフは、それこそ溶岩地帯に住んでいると聞いている。


 そんなウル達が住んでいた場所なら、鍛冶に便利な火種を調達できるかも知れない。


 早速お母さんを守っているロスちゃんの所にやってきた。


「ロスちゃん。つまみ食いは程々にね~」


【してない~】


「でもほっぺにクリーム付いているよ?」


【…………】


 最近美食家となってきたロスちゃんは、色々食べたいモノを要求するようになっていたりする。


 そもそもお母さんが遠慮なんてしなくていいと伝えているから、時折食べたいモノを指定する日もある。


 そんな日に限っては、エルドとアレンを一緒に連れて森に狩りに行ってくれたりもする。


「おはよう。クラウド様」


 窓際から差し込む日差しに祝福されてるかのように、満面の笑みで挨拶をしてくれる僕の婚約者のティナ様。


 隣では同じくアーシャ様も手を振ってくれた。


「おはよう。ティナ様。アーシャ様。お母さん」


「「おはよう」」


 二人にも挨拶をして、お母さんの足下でつまみ食いを試みているロスちゃんを抱きかかえて、厨房の端に移動した。


「ロスちゃん。今日はお願いがあるんだけど」


【あい~】


「カジさんが鍛冶組のために強い火種が欲しいと言う事で、サリーに相談したらロスちゃんが住んでいた山の奥にあったりしない?」


【ん~あるよ? 獄炎石ならいいと思う~】


「獄炎石?」


「獄炎石って、半永久的に燃え続けている石でしょう? 獄炎石がどうかしましたの? クラウド様」


 僕の話を聞いていたティナ様が気になったようで、声をかけてきた。


「はい。鍛冶組のために火種を取りに行きたいんですけど、ロスちゃんが住んでいた場所に獄炎石というモノがあるようで、それを取りに行こうと思います」


「私も行きたいですわ!」


「私はやりたいことがあるから残るわ~」


 どうやらアーシャ様は残るようだ。


 それにしてもまさかティナ様までついてくるとは思わなかったな。


 その後、お母さんと一緒に美味しい朝食を作ってくれたティナ様は、食事が終わり、皿洗いをアーシャ様が一手に受けてくれて、そのまま旅の支度をして出かける事となった。




 ◇




 ロクの背中に乗り込み、サリー、ティナ様、ロスちゃんと共に、元々ロスちゃんが住んでいたという山の奥の上空を飛んでいる。


 下には雄々しい山脈が広がっていて、広大すぎる自然に圧倒されながら上空を飛んだ。


 真っすぐ飛んでいき、山脈もどんどん通り過ぎると視界の先にひときわ大きな山が見えた。


「クラウド様! あれがギガンテス山脈の一番大きい山、ギガンテス山ですわ!」


 遠くながらその巨大な姿に、思わず息を呑んでしまうほどだ。


 そのまま近づいていくうちに、少しずつ異変を感じる。


「あれ? なんだか暑くない?」


【火山だからね~】


「あれって火山なの!?」


「ふふっ。クラウド様? 獄炎石は火山の中でしか生まれないと言われていますよ? それにロスちゃんが住んでいた山ですし、とても暑い火山だと思います~」


「そ、そうでしたね。てっきり、普通の森の奥と予想していました……そっか~」


「お兄ちゃんって暑いのって苦手だっけ?」


 おもむろにサリーが聞いてくる。


「いや、暑いのは苦手ではないんだけど…………別な意味で苦手かな」


「別な意味?」


 あはは…………暑くなったら…………。


 疑問符が飛んでいるサリーをよそに、隣にいたティナ様が暑くなったのか、着込んでいた上着を一枚脱いだ。


 うっ…………一枚で済めばいいけど…………。


「そう~い~う~こと~」


 目を細めたサリーがジト目で見つめて来る。


「ち、違うよ!」


「お兄ちゃん? 私はまだ何も言っていないよ? どうしたの?」


「うっ!」


「うふふ。そろそろ暑くなったわね。ティちゃん。そろそろ上着とかもっと脱いだらいいんじゃない?」


「そうね。上空っていつも涼しいくらいなのに、火山に近づくと上空でも暑く感じるのね」


「むしろ上空だからこそ暑く感じるのかも」


「上空だから?」


「うん。火山って一番上が煙突みたいに空いてるから、そこから放たれる熱気が周囲を暑くするからね。このまま上空を進めば、もっと暑くなると思う」


「ロク! 低空飛行で~!」


【うふふ。了解~】


 ティナ様がこれ以上服を脱ぎ捨てる前にロクに低空飛行を頼んだ。

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