第147話 直径50メートルの白いかたまり。-G-

 俺は、スマホに映った〝フーター〟と〝Forceフォース〟の戦いを食い入るように見た。


 〝クリムゾンジョーカー〟は、M・M・Oメリーメントオンラインのロンチ時からあるクラス、〝ロングレンジスナイパー〟をモデルにしたヤマアラシ型のモンスターで、一度距離を取られると、針を乱射されてなかなかにやっかいなモンスターだ。


 だけど、そんな〝クリムゾンジョーカー〟を、〝フーター〟は空中コンボで、完全にお手玉状態にしている。


 ほんの少しだけど浮かせ効果のあるその斬撃の後に、地面にワイヤーガンを指して高速着地。そして再び敵にワイヤーガンを刺して密着するまで近づいてからのゼロ距離高速斬撃。

 この無限コンボを、二帆ふたほさんあやつる〝フーター〟は一切のミスをすることなくまるで精密機械のように繰り返している。


「スゴイ!」


 俺と一緒にスマホ画面を、食い入るように見つめているコロちゃんが、驚きの声をあげる。


「これがエリアルハンターの無限コンボ……本当にできるんですね。ぼく、リアルタイムで初めて見ました」


「共闘している〝Forceフォース〟のサポートがないと、浮かせ続けることは無理だと思うよ」


 エリアルハンターの空中コンボは、無限コンボだ。とはいえ、あくまでであって、少しでもタイミングがずれると途切れてしまうから、実際は10回やそこらがせいぜいだ。でも、スマホの画面の〝フーター〟は、すでに20回以上の空中コンボを決めている。


 共闘している陰陽術師の〝Forceフォース〟がめちゃくちゃ上手いからだ。


 浮かせ効果のある〝戊寅つちのえとら〟の爪によるアッパーカットによるアシストを、絶妙なタイミングで入れることで、〝クリムゾンジョーカー〟を完全なお手玉状態にしていた。


 それに気が付いているのは、俺だけじゃない。観客モードの書き込みも、〝Forceフォース〟のテクニックを絶賛している。


『すげー! コンビネーションばっちり!』

『ロンリーより、息が合ってるんじゃない?』

『それな。ロンリーは、呪文の運用はうまいけど、単純なゲームの腕前は二流w』

『しかし、陰陽導師ってここまで動けるクラスなのか……インファイターなみじゃね?』

『単純に、Forceフォースの腕がやばいんだろ。エリアルハンターだって、フーター以外じゃこんな変態プレイむりだろ』

『だな』

『あーもう、ヤマアラシのHPゲージがつきる……』

『トドメ、どうすんだろ?』

『やっぱり、オーバーキル狙いかな?』


 今の暦は、『壬辰みずのえたつ年』『丁未ひのとひつじ月』『丁未ひのとひつじ日』『丁未ひのとひつじ刻』。

 となったら、使うのはしかない。きっと〝松煙しょうえん古代墨こだいぼく〟で、暦も書き換え済みだろう。


『お! Forceフォースがバックステップで距離をとった』

『でもって、フーターは、ヤマアラシの腹をForceフォースの方向に向けると』

『出るぞ! 陰陽導師の最大火力魔法!!』


 〝Forceフォース〟は、クリムゾンジョーカーから充分な距離を取ると、静かに魔法を唱えた。


丁未ひのとひつじ!〟


 すると、〝Forceフォース〟の頭上に、もこもこと白いができあがっていく。ヒツジの毛だ。


 バスケットボール大だった白いは、1メートル、10メートル……と、あっという間に大きくなっていく。そして、直径50メートルほどの巨大なになると〝Forceフォース〟は、をクリムゾンジョーカーになげつけた。

 同時に、二帆ふたほさんあやるつ〝フーター〟は、ワイヤーガンを使って、巻き込まれない場所へと緊急避難をする。


 白いはフワフワと漂って、クリムゾンジョーカーのお腹にぶつかった刹那!


 ブボォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!

 

 あっという間に炎に包まれて、そもままクリムゾンジョーカーを飲み込んだ。


 Finish!

 OverKill!

 OverKill!!

 OverKill!!!


 クリムゾンジョーカーは、えぐいくらいのダメージを受けて、消し炭になって崩れ去っていく。


『出た! トリプルオーバーキル!!』

『ダメージ数見たか、完全にぶっ壊れだろ!』

『チートどころのさわぎじゃねぇ』


 そう、チートところの騒ぎではない。陰陽導師の単体攻撃魔法〝丁未ひのとひつじ〝は、燃え盛るヒツジの毛玉を投げつける、とってもシンプルな魔法だ。

 でも、シンプルな分、攻撃力もシンプルに強い陰陽導師の最強魔法だ。


 それが暦の運のおかげて16倍の威力になってるんだ。

 トリプルどころじゃない、7回くらいはオーバーキルできる、もう完全に、ぶっ壊れの性能だ。


 〝Forceフォース〟……いったい誰なんだろう。聞いたことがない。


 ・

 ・

 ・


  この数ヶ月後、俺は、Forceフォースの正体を知ってビックリすることになる。


 そして、この〝Forceフォース〟のせいで、俺のひきこもり人生が、はちゃめちゃにぶち壊されることになるなんて。この時には夢にも思ってもみなかった。



 ゼロ距離な彼女。

   第三章 ゼロ距離の息遣い。

 

     − 了 −

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