オルゴールのメロディー

〈エミ視点〉









カオル先輩は何も言わないまま何処かへと歩いていて

靴を履いていない足は寒さを感じるはずなのに

そこまで寒くなく私の足先が先輩のコートの内側に

あるのが何となく分かっていた…





階段を数個登った後にピッとロックを解除する音が聞こえ

少し顔を上げるとマンションのエントランスだと分かり

カオル先輩が自分の部屋に連れて来た事も分かった…





エレベーターに乗り「寒かったでしょ?」と言って

私を抱きかかえている手が少しだけ強くなり

私は首を小さく横に振ってからまたカオル先輩の首に顔を埋めた





エレベーターから降りて少し歩くと直ぐにまた立ち止まり

部屋の鍵を開けて先輩の部屋に入るとフワッと

先輩の香水の香りが鼻をかすめてきた





カオル先輩は私を抱きかかえたまま部屋に入ると

「先にシャワー浴びようか」と言われ少驚いたけれど

ツカサ先輩に触られた部分が気持ち悪かったから

綺麗に洗いたかった…





カオル先輩は脱衣室に私を連れて行き

ゆっくりと床に降ろすと浴室のシャワーを出して





カオル「着替えは後で持ってくるから」





と頭を軽く撫でると脱衣室から出て行き

浴室に目を向けると少し白っぽいモヤがかかっていて

先輩が寒くない様にお湯を

出しっぱなしにしてくれたんだと分かり

水道もガスも、もったい無いと思い早く入ろうと

洋服に手をかけてボタンが数個ない事に気付いた…





( ・・・・・・ )





少し前の薄暗い部屋での事を思いだし

視界が滲んでいくのを感じながら

洋服を脱いで脱衣室の端に畳んで置いてから

浴室へと入った





シャワーを頭から被り目を閉じたまま「ふぇ…」と

声が漏れた自分の口を押さえて浴室の床に座りこんでから

乱暴に口付けてきた事や洋服を無理矢理脱がせようとして

私の手を痛い位に掴んで押さえてきた事を思い出し

しばらく声を必死に抑えながら泣いていると

脱衣室から何かが聞こえている事に気付き

シャワーを離して耳を傾けると…

カオル先輩の着信音になっていた

あの…私の好きな音楽がながれていた…






カオル「ネズミーマウスのマーチ?」





「知ってますか?」





カオル「聞いた事はあるけど、それが好きな曲なの?笑」





「私のベビーベッドについていた

  オルゴール曲がそれだったみたいで…

  なんだか…聞いてると落ち着くんです…」






先輩があの会話を覚えてくれていたんだと分かり

嬉しく思いながらも目を閉じてもうしばらく泣き続けた








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