第63話 あくむの謎解き

あくむ「ではこの、サキコさんの部屋で見つけた手帳と……事務室で見つけた経理関係の書類に、キッチンにあるカレンダーのメモ書きも加えて、筆跡鑑定してみましょうか」


――ほほう?


A「ねえGM、これだけ証拠が揃ってれば、できますよね?」


――筆跡鑑定かあ……ふーむ。

 誤魔化して文字を書いてる可能性もありますからねえ。

 ケンノスケさんの文字を照合した時とは、ちょっぴり状況が違っていて……。


A「法的根拠になるくらい確度の高いものでなくていいんです。この場にいる人たちを説得することができれば……」


――(シナリオに書かれた、正規の解法とは違う、が……)

 まあ、それくらいなら良いでしょう。

 ”目星”、……いや、”知力”判定。

 難易度は”すごく難しい”。16以上で成功とします。


A「よしきた。【ダイスロール:5(+11)】 ……成功!」


――ではあくむは、証拠品の筆跡がすべて、同一人物によるものだとわかりました。


あくむ「この、特徴的な『の』とか『ね』とか『な』の書き方! 同じ人が書いた文字で間違いありませんわ!」

ニンジロウ「……ふむ。だが、それが何か?」

あくむ「さ・ら・に! これに、オーナー夫婦の寝室で見つけた”書きかけの手紙”を組み合わせれば……」


――では、判定不要で気づいていいでしょう。

 先ほど調べた文字と、”書きかけの手紙”の筆跡は、素人目で見てもはっきりと違っています。


あくむ「そうでしょうともそうでしょうとも! そーでなければ、筋が通りませんとも!」

べに「……ねえ、あくむちゃん、教えてよ。この情報、調べる前からわかってたよね? ……あくむちゃんはいったい、何を知ってるの?」

あくむ「わたくし、こういう謎解きはいつも、犯人決め打ちで考えますの! わたくしが考えてる人が殺人犯なら、当然こうなるだろうってね」

べに「そ、そーなんだぁ……」


――(それが暴走すると、チュートリアルシナリオの時みたいになるんだな)


B「たしかにAちゃん、最初の直感さえ間違ってなければ、けっこう鋭いもんね」

A「まあね♪」


――では、ケンノスケさんが引きつった顔つきで、こう訊ねます。


ケンノスケ「い、い、いい加減、焦らすのは止めてくれよ! きみらが犯人じゃないなら、一体誰が……?」

あくむ「ケンノスケさん。あなた、もうすでに心のどこかで気づいていらっしゃるんじゃありませんこと?」

ケンノスケ「…………!」

あくむ「サキコさんの部屋にあるべきものがアカリさんの部屋にあり、アカリさんの部屋にあるべきものが、サキコさんの部屋にある。……そして、アカリさん、サキコさんのご両人とも、一ヶ月前から様子がおかしかったことを考えると……答えは一つ。二人は、何らかの理由によって一ヶ月前に”肉体交換”を行った、ということ」


――あなたたちの視線は、話題の当人、……杉上サキコに集中します。


あくむ「サキコさん。あなた、最初に出会った時、こう仰いましたよね? 『写真や握手は良いけど、サインはダメ』って。それって、……書かなかったんじゃなくて、書けなかったのでは? ……有名人のサインって、結構練習しないと書けないって話ですし」


――彼女は押し黙ったまま、なにも応えません。


あくむ「もうみなさん、わたくしの言いたいこと、わかりますわね? ……杉上サキコさん。――いえ、古里アカリさん、とお呼びした方がいいかしら」

サキコ「………………」

あくむ「この事件の犯人は、あなた! サキコさんとアカリさんの間に、”肉体交換”に関係した何らかのトラブルが発生したんです。その結果としてあなたは、今回の事件を起こした! そうに違いない!」


――彼女はとくに反論することもなく、ただ自らの折れた足を撫でています。


A「ふふふふふ。勝った」


――とはいえ、その場にはどこか、しらけた雰囲気が流れていますね。


A「へ?」


――人々は、しばらく沈黙したのち、こう答えました。


ニンジロウ「ええと。……その、だね」

あくむ「まだ、なにか?」

ニンジロウ「まず、根本的な話をしよう。――その、”肉体交換”とか”エイリアン”だとか、美郷荘に隠された秘密だとか……はっきり言わせてもらうと、我々には到底信じられることじゃないんだよ」

あくむ「そりゃ……だって……それは……」


――まあ、うっすらお気づきになられていたかもしれませんが、この場でミ=ゴの実在を確信しているのは、ササオさんくらいのものだったようですね。


ケンノスケ「正直それなら、二人がケンカしていた……とかの方が、まだ信じられるんだけど」

あくむ「で、で、でも! これが物語の世界なら、ぜったいに犯人はサキコさんですわ! こーんなにたくさん、怪しげな証拠が出そろっているんですもの!」

ケンノスケ「……ええと、円筆あくむさんだっけ? 悪いけどこれ、現実世界で起こった事件なんだよ。SF小説の世界の話じゃない。だからあんたの意見には、まるで説得力がないんだ」


――ケンノスケさんは、どこか哀れむような目つきですね。


A「す、す、ストーカー野郎に同情された! うえーん!」

B「……難しいところやね」

A「あたし、何か間違えたかな?」

B「いんや。――メタ的な視点では、犯人当ては正解してると思う。……ただ問題は、そっち側のアプローチで正解したとしても、……この物語の登場人物を説得するのには足らん、っちゅうこっちゃ」

A「うぐぐぐぐぐ。……ダイスで振って、彼らを説得できますか?」


――それは不可能でしょう。

 あなたたちは、彼らを説得するのに必要な要件をまだ達成していません。


A「……ですよねー」

B「フーダニット?犯人は誰か?だけでなく、ハウダニット?どのようにして?を考える必要がある、か……」


――ただ、一人。

 この中でササオさんだけは、あなたたちの話を聞いて、自分の推理に疑念を抱いたようです。


ササオ「ふうむ。……依然として、殺人が可能だったのは、あんたら二人組だという意見に変わりはないが……。杉上サキコに関しても、少し怪しいところが見えてきたな」

あくむ「ササオさん……! 一緒に捜査した絆が、ここで!」

ササオ「そんなものはない。ただ公平な意見を述べさせてもらっただけだ。……実際のところ、ミ=ゴのスパイだという俺の意見も、なんの根拠にも基づいていない。ニンジロウさんたちがそういうのも無理はない」

あくむ「………………」

ササオ「円筆あくむ、色式べに。さっき俺が話した、エイリアン云々といった意見は、いったん忘れろ。この事件を、ごく普通の殺人事件だと考えて、お前たち以外に犯行を行う手段がないか考えるんだ」

あくむ「ウムムムム。……ウムムムムムムムムムム……」


――では、あなたが結論を出すのを、一同は黙って見つめているでしょう。


A「……………ぐぬぬぬぬぬぬ…………。これは…………ぬぬぬぬぬぬ…………」

B「……………大丈夫? Aちゃん。なんならやっぱり、スキル使おか?」

A「も、も、もう……引き下がれない! 自力で解くって決めたから! 決めちゃったから!」

B「頑固やねぇ」

A「うおおおおおおおお……」


――ええと……。


A「考えろ…………考えるんだ…………あたし……」


――せっかくだし、一休みしてお茶でも淹れようか?


B「せ、せやね! そうしましょっか」

A「…………ウムムムムムムム…………」

B「あかんAちゃん、キャラクターと神経接続したままや」


――まあ、こういう時の彼女は、きっと冴えた答えを出してくれるよ。


A「うぐぐ。プレッシャーがすごい」


【To Be Continued】

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