第29話 大地の覇者7

「ルナ!」

「はい!」


 ハコ渡りで瞬時にニャトスの元へ駆け寄ると、ルナは治癒を行う。

 ソルは最後の1体と向き合う。

 相手は反対側の崖壁だ。


 再び先程の巨岩を放たれれば、3人とも巻き込まれる。

 ソルは地竜の意識を自分に向けるため、反対の崖壁、地竜の傍へと跳躍した。

 思わぬ行動だったのか、地竜は驚いて崖下へと後ずさる。


 配置がよくない。

 このまま地竜を倒すことは出来るが、地竜は崖下へと落下する。

 崖下に落下すれば更なる敵を呼び寄越しかねない。

 先の2体のように、広場の方へ誘き寄せてから何とかしたいところだ。

 チラリと仕留めた2体の方に目を向ける。

 そこでソルは異変に気づく。


 顎を裂いた地竜の傍でニャトスの治癒を行なっているルナ。

 しかし、ソルが水刃で真っ二つにした地竜の姿はない。

 あの状況で逃げられるわけもない。


 じゃあ何故姿がない?


 そう疑問を抱いた瞬間、崖崩れを起こした岩の中に、魔力の輝きを見つける。

 魔石だ。


 魔石?

 刹那、ソルに鳥肌が立つ。


「ダンジョンモンスターか!」


 ソルの倒した地竜はダンジョンモンスター化しており、魔石のみが残った。

 じゃあ今、ルナのすぐ後ろで倒れている地竜は?


 案の定、顎の裂けた地竜が起き上がり、その爪でルナに襲いかかった。

 顎が裂け、倒れて動かなくなったことで絶命したものと思い込んでいた。


「危なかった。あと少し気づくのが遅かったと思うとゾッとするぜ」

「ゾッとしちゃうほど、私が大事ってことが聞けて嬉しいです」


 地竜の脳天から剣を串刺しにしているソルに向かって、ルナは笑顔を向けた。


「油断するな。あと1体だ」

「はい。ニャトスさんの怪我は治癒済みです。意識はまだですが」


 治癒では意識覚醒までは出来ない。

 意識覚醒は、本人次第か、意識覚醒の魔法が必要だから仕方ない。


「ニャトスを連れて下がってろ」


 と言った瞬間、再び巨岩が飛んできた。

 これだけの巨岩を放つ魔法は連発できないと、ソルの方が油断していたらしい。

 ルナとニャトスの前に立つと、ソルは水盾を張る。


「く……流石に重いな」


 掲げた両腕が巨岩の重さに押され始める。

 ソルは軽く跳ねて垂直に脚を蹴り上げ、水盾の内側から水刃を放った。


 水盾と共に巨岩が真っ二つなると、目の前には大口を開けた地竜が突っ込んできていた。


「させねぇよ」


 蹴り上げた脚をそのまま勢いよく下ろす。

 踵落としが、地竜の鼻先を捉えると、そのまま地面にめり込んだ。

 トドメに水弾を地竜の後頭部目掛けて放ち、首を切断。


 地竜は魔石へと還った。


「はぁ……本当に勝っちゃいましたね」


 後ろでは、目を爛々とするルナが感嘆の息を吐いている。


「お前の魔力の賜物だけどな。かなり使ったが、大丈夫か?」

「問題ありません」

「頼りになる治癒術師で何よりだ」

「え!? どうしたんですか!?」

「本当のことだよ。助かった」


 ルナがいなければ、地竜3体を相手にすることは出来なかった。

 魔力のあるなしでこれほどまでに戦況が変わるとはソル自身思っていなかったのだ。


 ルナはわなわなと震えている。

 滅多に褒めないソルが褒めるなどという似合わないことをしたからか、その事実を受け止めきれないのかもしれない。


「ソルさんが……私を愛してるだなんて……」

「いや、一言も言ってねぇけどな。ほら、貴重な地竜の魔石3つ、しまっとけ」


 今まで手に入れた中で最大級に大きい魔石だ。

 売れば数年単位で生活できるほどだろう。

 1つはあとでニャトスにくれてやる。


 そう思いながらニャトスを抱え、ソル達はセーフポイントへと戻るが、セールポイントの崖の窪みは破壊されていた。

 崩れた瓦礫から何とか逃れたのか、頭から血を流し、呆然とへたり込んでいるニーニャの姿があった。


「何があった?」


 駆け寄るソルとルナを見ると、ニーニャは泣き出す。

 その声でニャトスが目を覚ました。


「ニーニャ様!?」

「ターニャが……ターニャがぁ……」


 泣きながら崖下を指差すニーニャ。

 どうやらターニャは、セーフポイントを破壊したものと共に、谷底へ落下したようだった。


「追うぞ」

「承知」


 ターニャの危機を感じたニャトスの同意は早かった。

 セーフポイントが破壊されたとなれば安住の地はない。

 ソルはルナを抱え、ニャトスはニーニャを抱える。

 するとそのままソルとニャトスは崖下へと飛び込んだ。


「えっ!? ええぇぇっ!? 飛び込むなら飛び込むって、言ってくださいよぉぉぉぉぉぉ!!」



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