第167話 七海ミサキとコラボ回④-悪夢のコラボ-
事前連絡なし予定変更のため記載しています。
加筆修正していたら長くなったので分割します。
2/11(土) は1話更新です。
2/12(日) にもう1話更新します。
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まさに悪夢が現出したかのような怪物だった。
絶望を体現したセーラー服。
十分な声量と厚みを兼ね備えたやたらといい声。
着ぐるみパジャマ先生もノリノリだった。
日本に憧れた理由。かつて憧れたアニメ作品。そのハイブリッドを仮想空間で実現できたから。本体がゴリラなのはユーモアの範囲だ。尻尾が生えて満月を見てしまったのだと思えば、これこそが望んだ姿だと言える。
ある意味で究極のコスチュームプレイ。
ARを用いた仮想空間を誰よりも楽しんでいた。
女装ゴリラ:「私は自由に動くわけではない。これはゲーム。ちゃんと法則に則って行動するので、適切に攻略してくれたまえ」
真宵アリス:「わかりました」
七海ミサキ:「……よかった。あの人が自由に動いたら、アリスちゃんと二人がかりでも攻撃を当てられる自信がないから」
女装ゴリラ:「まずはエネルギーチャージさせてもらう。フルムーンゴリラパワー! パンプアップ! オオオォォォーーーー!」
真宵アリス:「その文言はまさか!?」
七海ミサキ:「女装ゴリラ姿で絶対にやっちゃいけないでしょ!?」
叫び声をあげながら気合の入ったドラミングが始まった。
パロディではすまない見た目の暴力に、真宵アリスも七海ミサキもたまらずツッコミを入れる。
変身バンクとも言えるドラミングは五秒にも満たない時間だった。元ネタと乖離があり過ぎる。理解するには時間が短すぎる。リスナーはまだ混乱から抜け出せていない。
コンテナの上には立つのは金色に光り輝くセーラー服のゴリラ。
コンピューターグラフィックスによる合成の輝きではない。
本当に着ぐるみ全体が光り輝いている。
両足をそろえて胸を張る。左右に広げられた両腕は腰の高さ。手のひらは上に向けている。どこで見覚えのあるポージングも強者の香りしかしない。
真宵アリス:「これはまずいです」
七海ミサキ:「確かに版権的な意味でまずいよね。これ色々と怒られない?」
真宵アリス:「そうではなくあの輝きは先代のハーレムキングゴリラと同じです。つまり攻撃が効きません」
七海ミサキ:「この状況でちゃんと倒すこと考えてたの!? でも確かにまずいねそれ。言っていた通り攻略方法はあるんだろうけど」
女装ゴリラ:「この状態の私の戦闘力は五十三万です。そしてこれ一つで一万消費する」
女装ゴリラの手から光り輝く球体が生み出されていく。
ダンスローゴリラが投げていたモノと同じ。違うのはすぐに投げつけられることなく女装ゴリラの周りを無数に漂っていることだ。
その光景に色々な意味で顔を引きつらせる二人。
真宵アリス:「敵側が光り輝いて戦闘力五十三万!? 五十三万は第一形態の戦闘力ですよ!」
七海ミサキ:「そうじゃないよアリスちゃん!? あれを一斉掃射されたらさすがにまずいって! ポジティブに考えれば無敵状態からエネルギーを消費してくれているんだけど!」
女装ゴリラ:「さあ開幕の花火を上げよう。逃げ切ってくれることをボクも祈るよ」
真宵アリス:「来ます! 軌道が読めません。私が前に出て見極めますから、ミサキさんは後方でコンテナを盾にできるか確かめてください。気のせいでなければ追尾弾の上にグレネードっぽいです!」
七海ミサキ:「追尾グレネード!? アニバーサリー祭で使われていたけど、あの範囲攻撃を敵側が使うの!?」
前に逃げて迎撃態勢を取る真宵アリスと、入り組んだコンテナエリアに逃げる七海ミサキ。
女装ゴリラが手を振ると光の玉が一斉に降り注いだ。
身体の光は消えているが、それどころではない。避けきれなければ開幕で終わる。
:ちゃんと説明してくれる女装ゴリラ
:声だけ聞けば紳士だな
:二人とも知っている人みたいだけどそんなに凄いのか
:異次元配信でボスキャラとしてお馴染みの通称着ぐるみパジャマ先生だな
:あの人はヤバい
:驚異の身体能力を発揮しているのにそれでも手抜きというか底が見えない人だから
:もしかしてアリス以上?
:おいぃぃぃぃっ!!!
:それはあかんwwwwww
:フルムーンパワーってw
:文言変えているけど色々混ぜてて酷いw
:メイクアップじゃないからオッケーw
:パンプアップするな
:美少女戦士セーラーゴリラw
:アウトすぎるw
:セーラーでゴリラでドラミングで変身か……原型はないから大丈夫だな
:しかも無敵状態
:今度は金色に輝いて戦闘力が五十三万か
:ダンスロー弾一つで一万だから五十三発の一斉掃射
:見た目でふざけ倒しているのに攻撃方法がエグイ
:えっ? 追尾弾でグレネードとか無理ゲーすぎるだろ
降り注ぐ恐怖の爆弾。
接触すると爆発し範囲攻撃となる。
避けるだけでは逃げ場所を失う。二人で固まっていれば空間が埋め尽くされてしまう。
瞬時に最適な行動をとった二人だが、それだけでは逃れられない。
特に自ら危険地帯に身を乗り出した真宵アリスには逃げ場所はないはずだった。
真宵アリス:「グレネードの爆発までの時間と破壊エリアならもう見切っています」
七海ミサキ:「だからアリスちゃん広い場所に出たんだ。槍で誘爆させるために。私も連射ができれば」
真宵アリスは槍で突き、斜め後ろにバックステップする。
一秒に満たない爆発までのタイムラグ。爆発の範囲も読み切ったギリギリの回避。大きく逃げては逃げ場所を失うだけ。だから安全圏の確保をしながら一つずつ潰していく。
その光景に感嘆する七海ミサキだが後方も安全ではない。
次々降り注ぐダンスローをジグザグに移動しながら、回避していかなければいけない。息をつく暇もなく、足を止める余裕もなく、ダンスロー弾に囲まれないように判断しながら走り切る。
仲間からの予期せぬ口撃を受けながら。
真宵アリス:「セーラー服の女装ゴリラ……セーラーゴリラ? まさか人類が滅んだあとの未来の地球を司る美少女戦士?」
七海ミサキ:「ちょっとアリスちゃんやめて! 今は笑わせないで!」
真宵アリス:「猿というかゴリラに支配されたのは未来の地球だから女装ゴリラは……エンディミオン様?」
七海ミサキ:「だからやめろぉーーーー!」
真宵アリス:「降り注ぐのがバラだったら、私も危なかったです」
女装ゴリラ:「なるほど……参考にしよう。今回は皆が大好きな二大作品がコンセプトだ」
真宵アリス:「夢のコラボですね」
七海ミサキ:「メインがゴリラの時点で悪夢だから! ナイトメア名乗りを忘れな――あっ……ぶなかった!」
真宵アリス:「これで最後!」
:前線にいた方が安全とかエースパイロットかな?
:槍で突いて爆発範囲から逃げる簡単なお仕事です(無理)
:一つずつならともかく同時に三つ四つ相手にしながらセンチ感覚見切るのは異常
:詰将棋感覚だな……何秒先の未来を読んでいるかわからないけど
:そっか未来予知能力ないと無理だよな
:アリス劇場はいつも通りとしてミサキチも凄い
:これぞ正攻法という気がする
:いやたぶん正攻法は複数人で陣形作って弾幕で全てを撃ち落とすステージだろこれ
:なるほどスナイパーライフルと槍装備だからこんな地獄絵図に
:じゃあアリスが正攻法? 槍だけど
:それだけはない……あれが正攻法ならただの無理ゲー
:そんな無理ゲーの最中に余裕の雑談を始める幼女
:だからセーラーゴリラはやめろwww
:これが地球を司る美少女戦士だなんて
:人類が滅んだ未来の地球ならば正解だな
:……筋が通ってしまった
:ゴリラで筋を通すなwww
:確実にミサキチにダメージを与えていくw
:エンディミオン?
:タキシード姿で仮面を被り中学生女子に手を出す高校生だ
:アニメ版だと大学生だぞ
:なんだやべぇ奴か
:その説明の仕方はやめろw
:薔薇w
:暇だからって雑談に応じるな女装ゴリラw
:悪夢コラボwww
:もっとも組み合わせてはいけない形で実現したな
:ミサキチだけがこのメンバーの良心
:あっ……こけた
:あそこから前回り受け身で即ダッシュ!?
:ツッコミ入れながら逃げ回っていた時点でミサキチも大概おかしかったな
:ボス戦第一ステージが終わった
女装ゴリラ:「よくぞ逃げ切った。やはり私が直接手を下さなければいけないようだな。フルムーンクライシス! パンプアップ! オオオォォォーーーー!」
再びドラミングを始めてエネルギーをチャージする女装ゴリラ。
本来ならばエネルギーをチャージする前に攻撃しなければいけないのだが、四段重ねコンテナの上では攻撃が届かない。逃げ回っていた七海ミサキには銃を構える余裕もなかった。
真宵アリス:「まさかスーパーセーラーゴリラに!? あれ? さっきまではスーパーじゃなかった?」
七海ミサキ:「はぁはぁ……だから気にするところはそこじゃないから!?」
真宵アリス:「そうですね。ふざけている場合ではありません。ここからが本番ですよミサキさん!」
七海ミサキ:「うん……うん……そうだけど納得がいかない!」
女装ゴリラ:「さて満月に代わってお仕置きと行こうか」
光り輝く女装ゴリラはコンテナから飛び降りる。
巨漢を感じさせない軽やかさだ。そしてな謎の技術でスカートもめくれなかったので安心してほしい。
着地姿勢からのクラウチングスタート。
無敵状態のまま女装ゴリラが迫ってくる。
攻略方法が見いだせない。
真宵アリス:「……どうすれば」
女装ゴリラ:「今度は避けきれるかな? 五十三万のエネルギーをこめた一撃を」
真宵アリス:「一撃に? このモーションは! ミサキさん気を付けてください。大規模範囲攻撃が来ます!」
七海ミサキ:「大規模範囲攻撃? なにそれ!?」
真宵アリス:「わかりません! でもモーションがフライングゴリラプレスと似ています」
十分な助走。
そこから女装ゴリラは大きく跳びあがる。その最高到達点は三メートルをゆうに超えている。プロバレーボール選手並みの大跳躍から両手を地面に叩きつけた。
女装ゴリラ:「フライングゴリラインパクト!」
真宵アリス:「ミサキさん! 高所に逃げて!」
七海ミサキ:「えっ、高所!?」
五十三万のエネルギーの波動が波打ちながら高く全方位に広がっていく。
真宵アリスは壁を駆け上りながら三段目に到達。
けれど七海ミサキは二段目を登る途中でエネルギー波に捕まってしまう。先ほど走り回った疲れが出てしまった。
画面上部にテロップが流れる。
【七海ミサキ死亡】
ここまで一緒に戦っていた七海ミサキの死亡確認。
その報に真宵アリスの足は止まらない。光り輝く女装ゴリラは無敵だ。ならば攻撃するのは今しかない。五十三万のエネルギーを使い切った今しかないのだ。
コンテナの三段目から矢のように走る。
瞬時に詰める間合い。神速の槍の一撃。
だが女装ゴリラは笑った。
その軌道は直線的故に読みやすいと。
女装ゴリラ:「甘い……ミサキ君がやられて焦ったかな」
放たれた突きが女装ゴリラの光り輝く左腕に弾かれる。
真宵アリスが大きく目を見開く。槍を防がれたのは驚きだが、計算違いはそこではない。ドラミングをせずとも女装ゴリラの両腕が輝いていたことが計算外。
思い返してみればドラミング開始時には両腕だけはすでに光っていた。ドラミングで両腕から全身にエネルギーを行きわたらせていたのだ。
女装ゴリラは三種類のゴリラの特性を持っている。ノーマルゴリラの跳躍。アーマードゴリラの装甲。ダンスローゴリラの遠距離攻撃。そしてドラミングしなくてもアーマードゴリラの力は使えるのだ。
弾かれる槍に流される身体。真宵アリスは致命的な隙を晒してしまった。
女装ゴリラ:「アリス君を近接戦で倒すならばこれだよね。ビンタじゃないよ」
真宵アリス:「その動きは!」
女装ゴリラの足幅は肩幅開き。一瞬の短い踏み込みと震脚。そこに無駄はなく流れるように腰が回り、光り輝く女装ゴリラの右腕が放たれる。
掌底だ。
女装ゴリラ:「……ほう」
真宵アリスは食らわない。
食らうわけにはいかない。
ずっと悪夢に見ていたゴリラの掌底だ。
その残像に悩まされてきたから強くなったのだ。
だからこの技は食らわない。
槍の石突を引き寄せて掌底を弾こうとする。だが力強い女装ゴリラの掌底を、非力な真宵アリスが弾けるわけがない。でもそれで十分だった。
女装ゴリラの右腕に弾き飛ばされる槍の反動を利用して、大きく後退することに成功したから。
真宵アリスはゴリラの掌底を完全に避けた。
これがゲームでなければ完全に避けることに成功していた。
真宵アリス:「……えっ?」
真宵アリスの視界一杯に広がる掌底の形をしたエネルギー波。
女装ゴリラは最初から掌底を当てるつもりはない。当てなくていい。というか当ててはダメ。生身の女の子を殴ったら問題なので、たとえ当たる軌道でも寸止めだった。
その代わり右腕からエネルギー波が放たれるのだ。
縦横ともに三メートルほどの巨大な壁が迫ってくる。
真宵アリスは一歩も動けず、呑まれてしまった。
【真宵アリス死亡。ゲームオーバー】
この真宵アリスの奇襲から始まった一連の近接戦はわずか数秒ほど。
スロー映像で再生されなければ、誰にも詳細を追えない息もつかせぬ攻防の連続だった。さすがに連戦とはいかずこのあと休憩時間を挟んだが、その間に流されたハイライト映像でリスナーも大盛り上がり。
なんにせよ初戦は真宵アリスと七海ミサキペアの敗北で終わった。
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作者からの連絡。
ダメな人はスルーしてください。読み飛ばし推奨です。
重要なことは書いていないですし、私も読専の頃は飛ばしていました。
明日の2/12(日)18時も更新します。
つい加筆していたら長くなったので分割しました。
次回こそ『二人でなら』で決着です。
初見でボスを倒せるほどぬるくはない。
来週からセツにゃん回の予定です。
応援や評価★お待ちしてます。
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