第166話 七海ミサキとコラボ回③-ゴリラを屠る者-
ついに『ゴリラスタンピード! 真宵アリスバージョン(仮)』が始まった。
輸入バナナ入りのコンテナの上で狙撃体制を取る七海ミサキ。
なぜかゴリラ相手に槍で近接戦闘を挑まされている真宵アリス。
たった二人でゴリラの大群を相手にする。
普通ならば防衛側の人数が圧倒的に足りていない。数に押し切られる。守れるはずがない。
けれど二人は普通ではなかった。
七海ミサキは武器との相性がいい。
顔か胴体に当てれば一撃確殺のスナイパーライフル。初見では焦って何度も光線銃を外していたが、現在は安定してほぼ一撃でゴリラを屠っている。クールタイムが五秒もあるため連射はできない。けれどそれが七海ミサキの性格とあっていた。
一射入魂。外せばそれだけ真宵アリスの負担に直結する。ミスの許さない緊張感が集中力を極限まで高めるのだ。
スイッチが入った七海ミサキの銃弾は外れない。
だがどれだけ七海ミサキが射撃精度を上げようとも、スナイパーライフル一丁では大群に対応できないのもまた事実。必ずコンテナ前までたどり着くゴリラは存在する。
迎え撃つは真宵アリス。槍の攻撃力は通常の光線銃と同じ。顔を貫けばヘッドショット扱いで一撃確殺だが、胴体は三回も突き刺す必要がある。ゴリラは回避行動もするし、腕を犠牲にして防御もする。近接戦で三回の攻撃は負担だ。二体に囲まれればもう致命的だろう。
非常にシビアな戦いを強いられる。……そのはずなのだが。
顔を腕で守りながら突進してくるゴリラ。
その胴体に三筋の光がほぼ同時に吸い込まれた。
瞬きする間も与えない瞬殺だ。真宵アリスと対峙したゴリラはなすすべなく屠られていく。
放たれたのは三連突き。突きという単純動作の無駄を極限までそぎ落とした美がそこにある。
自分の身体で動かしているからクールタイムは生じない。連続攻撃が可能。三回突く必要があるならば、詰められる前に三回突けばいい。
実に単純な論理だ。窮地を力技でねじ伏せていく。「銃より槍の方が楽かも」の発言にはリスナーもスタッフもドン引きだった。
真宵アリス:「ミサキさん次は四体です。一体お任せしていいですか? 私も同時に三体までが限界です」
七海ミサキ:「……二体は任せて。連続で当てるから」
真宵アリス:「了解です」
言葉少なめの短いやり取り。
それだけで役割とターゲットが決められていく。
一体。二体。三体。四体。
一度に出現するゴリラの上限数は四体だ。
しかし四体同時に出現してもこの二人が抜かれるイメージが湧かなかった。
攻略は順調に進んでいる。
:……すげぇ
:チュートリアルであたふた死にかけていたのにもう順応しやがった
:さすがミサキチ
:相変わらずの集中力の高さだよな
:ミサキチが凄いのわかるけどアリスから目をそらすな
:確殺スナよりも早くゴリラを屠る槍使いとか
:……アリスは凄すぎてちょっと
:銃より槍の方が楽な子は理解できない
:三連突きってなんなん?
:スーパースロー映像を出したスタッフグッジョブ
:ゲーム用に槍が光っているから残光で同時攻撃に見えるだけで本当に早く三回突いただけという
:スーパースローでようやく理解できるほどの高速突きなだけだよな
:槍の極意を地で行く幼女
:極意?
:対人で前方に壁を作るかのように突きを繰り出し完全に間合いを制するのが槍の極意
:槍は突くよりも戻しが重要
:威力と速さを求めて無理な突きを放ち姿勢を崩すのが素人
:なんでお前らそんな詳しいんだよwww
:ネットだとこれぐらい常識だぞ
:第一ウェーブ終わったか?
真宵アリスが四体目のゴリラを屠り終えると第一ウェーブの終了だった。
しばしの休憩時間。第二ウェーブ開始までわずかな時間で作戦会議を行う。
真宵アリス:「ここまでの流れは前の『ゴリラスタンピード!(仮)』とほぼ同じですね。ゴリラの動きや防御行動にかなり改善が見られましたが」
七海ミサキ:「基本構成は同じと見ていいのかな。外部にお披露目可能な水準までクオリティが上げったから今回の配信が実現した。でも中身に大幅な変更はない。だから一度クリア済みのアリスちゃんは銃を取り上げられたとか?」
真宵アリス:「銃を取り上げられたのはきついですね。槍は好きですし、ここまでは対応できました。でも次から槍ではきついです」
七海ミサキ:「というと?」
真宵アリス:「第二ウェーブはノーマルゴリラに加えて二種類。合計三種類のゴリラの混合編成で襲ってきます」
七海ミサキ:「種類が増えるのか。対応が難しそうだね」
真宵アリス:「まず追加されるのはアーマードゴリラ。腕と足に装甲をまとっていて、防御反応が早い。またノーマルゴリラは一度防いだらその腕が犠牲になりましたが、アーマードゴリラは装甲で弾くので何度でも防いできます」
七海ミサキ:「それは強敵だね。スナイパーライフルの天敵だ」
真宵アリス:「いえアーマードゴリラはカモです。装甲をつけた分だけ移動が遅い。ノーマルゴリラにあった跳躍もない。動きを読んでヘッドショットすればいいだけなので、倒しやすい相手です」
七海ミサキ:「それは強敵だね。お願いだから常識的に考えて」
真宵アリス:「……まるで私が常識的ではないみたいですね」
七海ミサキ:「じゃあ追加されるもう一体は? アリスちゃん口ぶりだともう一つのほうが厄介なんでしょ」
真宵アリス:「無視された!? えーと問題となるのはダンスローゴリラです。こちらは近づいてきません。距離を取って光の玉を投げつけてくる遠距離攻撃型です」
七海ミサキ:「ダンスロー? もしかしてそれは」
真宵アリス:「絶対に当たりたくないです。ゲームでは光の玉でもなんか嫌です。ダンスローゴリラの嫌らしいところは放置するとどんどん数が増えていきます。しかもこちらを指差して嘲笑ってきます。ゴリラの風上にも置けません!」
七海ミサキ:「ゴリラの風上って……確かに風上において置きたくないゴリラだけど」
真宵アリス:「ミサキさんはダンスローゴリラに集中してください。動作は光の玉を投げながらこちらを挑発してくるだけ。ムカつくだけでただの的。おバカなゴリラです。スナイパーライフルの射程ならば届くのでお任せします。ノーマルゴリラとアーマードゴリラは任せてください」
七海ミサキ:「了解。アリスちゃんが気に入らない理由はともかく、遠距離攻撃を先に潰すの常套手段だからね」
:ゲーム内容は同じなのか
:次でアリスがきつい?
:なんかヤバそう
:種類が増えるのか
:アーマードゴリラw
:常識的には強い
:アリス評を非常識と諭すミサキチすこ
:ダンスロー?
:糞投げかwww
:意味がわかると当たりたくない
:風上に置けないの意味がちょっと違うw
:臭そうだから風下にいたくないよな
:銃をナーフされたアリスに遠距離攻撃ゴリラはきついよな
:そのための七海ミサキか
:第二ウェーブ始まった!
:ダンスローゴリラめっちゃ出てくるw
:えっ……なぜアリスがいきなり前に出てんの?
:あの糞弾幕を上手く避けてる
:あっという間にノーマルゴリラが蹂躙された
:なるほどダンスローゴリラに攻撃させ続けることでミサキチが狙撃しやすくしているのか
:前線で戦いながらおとりも務めるとか
:もしかして第二も楽勝?
:アーマードゴリラさんも見せ場なく狩られた
:鈍重なだけだとアリスからすれば本当にカモ
:突きって曲がるんだ……
・
・
・
:第二ウェーブもクリア!
:さすがに前に出たせいでアリスも疲れてるな
:糞弾幕避けるためにずっと動きっぱなしだったからな
:三連突きに曲突きに跳び上がっての脳天突き刺し
:なんのゲームだっけ?
:槍使いアリスの無双ゲー
七海ミサキ:「アリスちゃん大丈夫? あれだけ動き回って」
真宵アリス:「はぁ……はぁ……大丈夫です。ミサキさんもダンスローゴリラの処分ありがとうございました。おかげで楽できました」
七海ミサキ:「楽できた感じではないけど、お役に立てたならよかった。それにしても突きって曲がるんだね」
真宵アリス:「私も初めて曲げてみました。実はこの槍は低反発素材です。強く振るとしなります。弾性が強い素材だと、戻る力が強くてしなり続けて扱いづらい。でもこの槍は復元力が緩やか。少しの間だけ曲がった状態を維持します。その間に槍の持ち手を回転させながら突きを放つと、ゴリラの防御を迂回するような曲がる突きが放てます」
七海ミサキ:「なるほどね。理解できないことがわかった」
真宵アリス:「え……ちゃんと説明したのに!?」
七海ミサキ:「それで第二ウェーブも終わったけど次は?」
真宵アリス:「また無視された……理解できるもん……できるよね? 次でラストです。以前は光り輝く巨大なボスゴリラでした。ヘッドショット無効。正面に光弾を当ててもノーダメージ。これぞゴリラという耐久性でしたね。のっそのっそとフィールドを歩き回り、近づくと両手を振り回して攻撃してきます」
七海ミサキ:「なんか厄介な気しかしない。無敵ってことはないよね?」
真宵アリス:「ボスゴリラの風格はさすがでした。でも風格がありすぎてシルバーバックだったのです。銀色の毛の部分だけは輝きがない。そこに十回撃ち抜けば勝ちです。もう少し年齢が若ければ、銀髪が生えておらず無敵でしたね」
七海ミサキ:「ゲームだからさすがに弱点があるよね」
真宵アリス:「でも一発当てるたびにフライングゴリラプレスで襲ってくるので注意が必要です。急いでその場から逃げないと上から潰されます。ミサキさんも逃げてください」
七海ミサキ:「フライングゴリラプレスって……まあいいや。攻撃を当てたら逃げることは了解。でも一つ気になることがあるんだけど」
真宵アリス:「なんでしょう」
七海ミサキ:「アリスちゃんはどうやって攻撃するの? 巨大ゴリラの背中とか槍が届かないでしょ。以前は銃で攻撃したと思うけど」
真宵アリス:「今回はコンテナからボスゴリラの背中に飛び乗って、ていやと攻撃しようかと」
七海ミサキ:「……アリスちゃん。ゴリラにリアリティあり過ぎて忘れているのかもしれないけど、相手はゲーム内の仮想ゴリラだからね。背中に飛び乗ったらすり抜けるから」
真宵アリス:「あっ!?」
七海ミサキ:「ゴリラとの接触は死亡判定だろうし、槍のリーチで攻撃が届くのかな」
真宵アリス:「どうしましょう。攻撃手段がありません!」
???:「その心配は不要だ」
アリスの疑問にやたらといい声が答えた。
張り上げているわけではない。それなのにズシリと届く男性の声。圧倒的な声量と音の厚み。鍛え上げられた喉の証だ。
七海ミサキ:「この声はまさか!?」
真宵アリス:「ミサキさんあちらのコンテナの上です!」
七海ミサキ:「あれは!? …………本当になにやっているんですか?」
二人の視線の先。
四段積みのコンテナの頂上にゴリラがいた。
サイズはノーマルゴリラと同じくらい。でも姿勢がよく背筋が伸びているので背が高く見える。明らかに存在感が違う。
なぜなら実写だから。
正真正銘のゴリラの着ぐるみだから。
二人ともこの時点で中の人の正体にも気づく。気づくがそれさえも些細な問題としか捉えられない。
ちょっと服装のインパクトが強すぎて。
ゴリラが女子高生の制服を着ていた。
実写ゴリラが女装していた。
太ももが分厚すぎてミニスカート気味。コンテナの上という角度的に中がギリギリ見えないラインで立っていた。もちろん中が見えても毛深いだけ。なんならさっきまでのゴリラは全裸だ。見えても問題はない。
……ないのだが、多くのリスナーがスタジオが無風であることに感謝した。
女装ゴリラ:「我が同胞が随分と世話になったようだな。先代の主『ハーレムキングゴリラ』は現役を勇退された。寄る年波に抗おうと滋養強壮を求めて輸入バナナを狙った。けれどその作戦も真宵アリスくんに撃退されてしまったからね。群れから追放されて、銀色の背中を哀愁を漂わせながら森の中に消えていったよ」
真宵アリス:「あのシルバーバックさんはそんな名前だったんですね。そして私の名前がゴリラ史に刻まれている」
七海ミサキ:「……寄る年波に滋養強壮。なにその無駄なストーリー」
女装ゴリラ:「我が名はナイトメア。真宵アリス君の悪夢を具現化したただのゴリラさ」
【ボスの女装ゴリラが出現しました。これがラストです。二人とも頑張ってください】
七海ミサキ:「……公式テロップでナイトメアの名乗りが無視されている」
真宵アリス:「たぶん女装ゴリラと書いてナイトメアと読む的なルビが振られているのかと」
七海ミサキ:「見る人によっては悪夢かもね」
真宵アリス:「それにしてもあの姿……懐かしい。高校時代を思い出します」
七海ミサキ:「女装ゴリラを見て、高校時代を思い出すのはアリスちゃんだけだからね!」
:……突きの曲げ方を語る幼女
:なるほど……わからん!
:ミサキチの塩対応いいな
:セツにゃんに対してもミサキチは割とバッサリいく
:一年前はよく未成年組に振り回されていたのに最近は扱い方を学んだよな
:信頼関係がある証拠
:光り輝く巨大なゴリラw
:怪物感が凄い
:やっぱりボスゴリラにヘッドショットは通じないよか
:ゴリラは年取ると背中から白くなるからな
:白髪
:攻撃当てると跳び上がり即死攻撃してくるボスあるある
:槍だと届かない
:アリスがワクワクしすぎて今日はうっかりが多いな
:そっか仮想ゴリラだから
:ちゃんと直接戦っているように見えてもすり抜けて背中に乗れないか
:誰だこのいい声!
:私だ
:お前じゃねーよ!
:コンテナの上!
:あれは!?
:女装ゴリラ
:女装ゴリラだ
:なんだ女子高生の制服を着たゴリラか……えっ、なにそれ!?
:ハーレムキングゴリラの動機w
:ついに明かされたコンテナを襲う理由と引退理由
:誰も気にしてないだろ!
:裏設定は大事だぞ
:真宵アリスの悪夢の具現化www
:そんな具現化させんなwww
:これがただのゴリラであってたまるか
:公式テロップまでボケるのは草
:
:本当に悪夢だ
:アリスの高校時代(笑)
:そういえばそうだったな
:いつも教室の中心には女装したゴリラがいた
:掌底をくらって脳しんとうさえ起こらなければ記憶の混濁もなかったのに……
:女装ゴリラで高校時代を懐かしむなwww
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作者からの連絡。
ダメな人はスルーしてください。読み飛ばし推奨です。
重要なことは書いていないですし、私も読専の頃は飛ばしていました。
ようやくゴリラスタンピードの本編までいけました。
薄々気づいている方もいたと思いますが、着ぐるみパジャマ先生は真宵アリスを身体能力で凌駕するゴリラ人材として登場しました。
俗に言うゴリラ採用です。
今回は女装ゴリラを倒すことで、真宵アリスのゴリラの悪夢を振り払う話です。
次回『二人でなら』
七海ミサキは神様に頼らない。
【追記】
カクヨムコン8での多大な応援ありがとうございました。
確定ではありませんが、あの数字ならば読者選考は突破できていると思います。
応援や評価★お待ちしてます。
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