第82話 勇者、問う

 サキュアが説明をすると、ウィエルはうんうんと頷いた。

 全てを聞き終えると、ウィエルは「なるほど」と口を開いた。



『つまり、勇者の力をコントロールしようとしても、何故か暴走してしまう。そういうことですね?』

「はい。それで、レミィさんという方が異能を使っていたと聞きまして」

『確かにレミィは魔法とは違う異能を使っています。アドバイスを聞くのも、ありかもしれません』



 その言葉に、アルカは目を少し見開いた。

 意外だ。こんな簡単に許可が貰えるだなんて思ってなかった。

 ウィエルなら、自分でなんとかしなさいとか言ってくるものだと思っていたから、ちょっと驚いた。



『恐らくガーノスさんにでも聞いたんでしょうけど……レミィについてちゃんと聞きました?』

「え?」



 ウィエルの言葉に、サキュアとアルカはガーノスへ振り向く。

 と、ガーノスは朗らかな笑みを浮かべたまま黙っていたままだった。



『その様子だと、聞いていないみたいですね』

「ほっほっほ。若い彼らにあれもこれも教えていては、冒険にならないでしょう」

『……ふふ、その通りですね。ですがすみません。レミィが今いる場所は私でもわからないんです。あの子、そこら辺を走り回っていますから』



 困った顔をするウィエル。意外だ。ウィエルでもわからないことがあるとは。

 だけどそうなると、この広すぎる世界で探すのは不可能と言っていい。しかもそれが、常に動き回っている人間が相手だとなおさらだ。

 打つ手なし。どうするか悩んでいると、ネプチューンが話を振って欲しそうにちらちらとウィエルを見ていた。



『別れて二十年近く経ってますし、魔法での連絡手段も通じないんですよねぇ』

『…………(チラッチラッ)』

『まあ、そもそもそんな器用なことが出来る子じゃありませんが』

『…………(チラッチラッ)』

『なので、もしアドバイスを貰うのなら自分たちで探し――』

『うわあーん! よ、余をむしするなー!』



 ついに我慢できなくなったのか、ネプチューンが泣き出した。

 ちょっと楽しそうにしているウィエルを見て、サキュアは引いていた。

 アルカとガーノスはウィエルのことをよく知っているから、普通にそれを見ている。



『はいはい。それで、どうしたんですか?』

『うむっ! もし必要なら、余がレミィの居場所を探してやるぞ!』

『……出来るんですか?』

『その顔は信じていないな。ふふんっ、余は水辺付近であれば、世界中どこでも生き物の気配を探知することが出来るのだ。どうだ、凄いだろう』



 自信満々に胸を張るネプチューン。確かにそれが本当なら凄いことだ。



『ふむ……なら、やってもらってよろしいですか? 流石にレミィを探す時間は、アルカにはありませんし』

『よかろう! クロアのせがれのためなら、いくらでもやってやるぞい!』



 ネプチューンの目に光が灯る。

 どうやら今、探知能力を使っているようだ。

 だが水場付近にいる者しか探せないとなると、かなり限定的だ。海、川、池、湖などの場所にいる時だけ、探知に引っかかるということになる。

 今レミィが水場にいない限り、探すことは困難だが……。



『お、いたぞ』

『え、どこですか?』



 どうやら見つかったらしい。丁度水場にいたみたいだ。



『うむ。お前らに向かっているぞ』

「「「……え?」」」



 ドッッッッッッッッッッゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!


 直後、強烈な轟音と衝撃波が巻き起こり、三人の体を思い切り叩いた。



「な、なんだ!?」

「アルカ様、戦闘準備!」



 サキュアに遅れてアルカも戦闘準備に入る。だがガーノスは、微笑んだまま動かない。

 待つことしばし。土煙が晴れると、そこに一人の女性が佇んでいた。

 近くにいるだけで圧死するような威圧感を漂わせ、光る眼光がアルカたちを睨んでいる。

 この圧、覚えがある。

 父クロアの圧と同じだ。だがクロアのように圧を抑えているわけではない。触れるもの全てを破壊するとでも言いたそうな、破壊的威圧感がある。

 レミィだ。自己紹介されなくてもわかる。間違いない。

 レミィは眉を吊り上げ、首を傾げた。



「あん? なんだァ? クロアのアニキの気配を感じた気がしたんだがな……人違いか」

「アニキ、て……父さんの妹ってことか……?」

「いや、妹じゃないが……は? 父さん?」



 レミィの目がアルカに向けられる。

 それだけで、ドラゴンと対峙している感覚に陥った。



「お前……アニキと師匠のガキか?」

「えっと……」

『その通りですよ』



 と、まだ消えてなかった連絡魔法から、ウィエルがレミィへと話し掛けた。



「あ、師匠!」

『レミィ、お久しぶりですね』

「うす! おひさっす!!」



 さっきまでの威圧感が消え、久々に会った飼い主を見るような目でウィエルに懐く。まるで別人だ。



「師匠、師匠! 最近私、師匠たちが世界中を旅してるって聞いて、今探してるんすよ! 今どこにいるんですか!?」

『そうなんですか? 今は海底の国ディプシーにいるので、来ていいですよ』

「マジっすか!? 今すぐ行きます!」



 と、レミィが足元に魔法陣を展開した。

 この魔法陣は転移魔法のものだ。サキュアでもまだ完璧に扱うことの出来ない超高等魔法。ウィエルの弟子というのは本当らしい。

 が、このままではレミィは行ってしまう。

 アルカは慌てたようにレミィへと叫んだ。



「待ってくれ! レミィさん、聞きたいことがあるんだ! あんた、魔法以外の異能を使えるんだろう!? コントロールの仕方を教えてくれないか!?」






「気合!!!!」






 シュンッ──。

 行ってしまった。

 しかも意味のないアドバイスを残して。



「そんな馬鹿な」

「アルカ様、流石に同情します」

「ほっほっほ。レミィ様らしいですな」



 映像の向こう側に現れたレミィを見て、アルカは深々とため息をついたのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る