第39話 勇者の父、第一王子と手合わせする

「ところで、兄ちゃんたちはこの後どうするの?」

「ああ、少し国を見て回ろうかと思う。アルカが生まれてから、ずっと村と近隣しか見てなかったからな」



 この十数年で国がどんな風に変わったのかも見てみたいし、何よりウィエルを十数年も村に閉じ込めてしまった。

 最愛の人を想うと、今すぐ村に帰るというのは考えられない。


 すると、コルトが「な、ならさっ」と少し気まずそうに頬を掻いた。



「ちょっと稽古付けてもらえないかな。その……昔みたいに……」

「む? ああいいぞ。丁度お前がどれくらい成長したのか、気になってたところだ」

「やった……! じゃあ訓練所……は今取り込み中だっけ。じゃあ郊外に行こう」



 ウキウキしているコルトが部屋を出ようと準備する。

 クロアもそれを追いかけようとすると、ウィエルからストップが掛かった。



「待った。あなた、ダメって言いましたよね?」

「いや、しかし俺からは仕掛けてないぞ。コルトからだ」

「うんっ、俺がやりたい!」



 ニッコニコのコルト。親戚のお兄ちゃんに遊んでもらえて嬉しい子供感がある。

 流石にこんな笑顔を見せられたら、ウィエルとしてもダメダメ言いづらい。



「はぁ……わかっていますよね、あなた。もしコルト君に何かあったら、国賊ですよ?」

「姉さん、心配してくれてありがとう。でも俺、大丈夫だよ」

「大丈夫って……何を根拠に」

「だって俺──強いから」



 コルトの自信満々な言葉に、ウィエルはキョトンとすると直ぐに呆れ顔になった。



「はぁ、コルト君も昔からちっとも変わらない……」

「ふっふっふ。兄ちゃんと陛下ならわかるでしょう。男はいつまでも少年だということが」

「「「なっ!」」」



 クロア、アーシュタル、コルトが満面の笑みでサムズアップした。



「あの、これに理解出来ないの私だけでしょうか?」

「大丈夫ですよ、ミオンちゃん。私も理解出来ません」

「……世の中広いですね」

「変な見識は広めなくて結構です」



   ◆



 全員馬車に乗って移動し、郊外へ。

 荒野が広がるここなら、衝撃波や破壊の余波で街や人に危害が出ることはない。

 そこで、丸腰のクロアとフル装備のコルトが対峙していた。



「まずは十秒間、全力で斬りかかって来い。その勢いと剣筋で、お前の腕に合わせて力を調節してやる」

「わかった。……でもいいの? もしかしたら俺、勝っちゃうかも」

「それならそれでいいぞ」

「……なら、そうさせてもらおうかな」



 目の鋭さが増し、剣を抜いた。

 直後、辺りに濃密な圧が広がる。

 ウィエルとミオンは目を見張った。この圧、ドドレアルと遜色がない。

 少し離れてこれだけの圧を感じるのだから、クロアは何を思っているのだろう。


 二人の丁度中央に立つアーシュタルが、咳払いをして双方を見た。



「それでは、私が合図を出そう。もし危険があるようなら、ウィエルが魔法を使って止める。良いな?」

「ハッ」

「よろしくお願いします」

「それでは──始めィ!!」



 刹那、コルトが消えた。

 クロアも決して油断していた訳ではない。

 だが、出遅れた、、、、と直感した。

 しかしクロアも並の人間ではない。

 並外れた危機察知能力と本能、空間認識により、斜め後ろから斬りかかってきた剣を人差し指と中指で掴んだ、、、


 クロアでも勢いを止めきれず、衝撃は脚を伝って地面を陥没させる。

 久しい感覚に、クロアも少し破顔した。


 そのまま二本の指で押し返すと、それだけでコルトは数十メートルも吹き飛ばされる。

 宙で回転して勢いを殺し、間髪入れずクロアへと肉薄。

 一秒の内に数十の剣撃を放つが、クロアのその尽くを弾き返した。

 流石に刃を真正面から受けたら、クロアとて怪我はする。

 だが剣の腹を弾けば、それだけで剣の軌道は逸らされる。

 超高速の連撃だが、クロアは寸分たがわずそれをこなしていた。



「流石兄ちゃんっ。俺のスピードに付いてこれるなんて……!」

「コルトこそ、よくぞここまで己を高めた」

「ッ!?」



 一瞬、クロアの右腕がブレた。

 まずい──そう直感したコルトが間合いを取ると、さっきまでコルトがいた場所にクロアの拳が突き刺さった。

 数メートルも地面がめくれ上がり、巨大な穴を空ける。

 今の避けなかったら、間違いなく大怪我じゃ済まなかっただろう。

 冷や汗が頬を伝い、荒れた呼吸を落ち着かせる。

 誰かとの戦闘でこんなに肝が冷えたのは、本当に久々だった。



「ふむ、ふむ。このスピードを見切るとは、大したもんだ」



 クロアもまさか避けられるとは思ってなかったから、少し意外だった。

 今のはスピードに重きを置いたパンチだったが、これを避けられたのは魔王以来初めてのことだ。

 クロアはそっと息を吐き、再度肩を回した。



「十秒経ったな。なら……七割くらいで相手をしようか」

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