第2話 プロローグ ②

 まだ暗さも残る明け方五時。肌寒い風が強く吹き始める季節。

 一人の女性が全速力で走っていた。ショートパンツに半そでのTシャツ、半袖のGジャン。露出が多い四肢には鍛えられた筋肉が彫刻のように浮かび上がっている。蛍光色の服装とこんがり焼けた褐色の肌とが見事に対比して、彼女の周りには常夏の雰囲気が完成していた。

 彼女だけが夏の昼間を生きているようだった。

 彼女は速かった。新聞配達のバイトをしている青年の自転車を軽々と追い抜き、軽快な足音を住宅街に響きならす。

 彼女の片手には何十枚ものチラシが握られていた。握力でくしゃくしゃになり手汗でびしょびしょになっているのに、彼女は一切気にしていない。適当な家が視界に入ると、チラシを数枚掴んで強引に投函口にねじ込む。

 朝刊を手に取ろうとやってきた住民たちは、チラシを見て首をかしげるだろう。もちろん、湿ったチラシは誰にとっても不快感を与えるが、それよりも内容が意味不明だからである。

 そのチラシには大きな文字でこう書かれていた。

 死物霊に関する相談はこちらまで。


 ……死物霊?



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