04-03-05 晋四 桓温 3

 北海ほっかい出身の「王猛おうもう」、字は景略けいりゃく


 彼はひととつるまず、大志を抱いていた。この頃華陰かいんに隠居していたのだが、桓温かんおん関中かんちゅう入りしたのを聞くと、着の身着のままぶらりと訪問、シラミを潰しながら桓温と今なすべきことについて話し合った。その振る舞いたるや、傍若無人。桓温は王猛の態度にすっかり感じ入り、問う。


「わしはいま、陛下の命を奉じ、胡族残党を掃討せんと志しておる。しかし関中の豪傑たちがわしのもとに馳せ参じようという気配もない。これは一体いかなる理由であろうかな」


 王猛は答える。

「桓公はいま数千里の遠きも苦になさらず、深く敵地に食い込んでおられる。もはや長安も目と鼻の先である。にも関わらず、灞水はすいを渡り長安を落とそう、という気配をお示しにならぬ。このような有様で関中の者たちがどうやって桓公のお心を悟れようというのだ。ひとが馳せ参じぬのも、これが理由よ」


 桓温はこの返答になにも返すことができなかった。


 やがて桓温は秦軍と白鹿原はくかげんにて戦うも、はかばかしい戦果を上げることができなかった。加えて秦軍は畑という畑の収穫を刈り取ってしまう。兵糧に苦しむこととなった桓温は王猛を引き連れ帰還しようとしたが、王猛は同行を拒否した。



 姚襄ようじょうはいちどえんに投降。許昌きょしょうに拠点を置き、洛陽らくようを攻撃したが、桓温によって跳ね返された。

 その桓温は黄河こうが沿岸にある高楼に配下らとともに登る。そして黄河の向こうに広がる中原を眺め、嘆じて言う。


「神のおわすこの地を蹂躙され、もはや百年が経とうとしておる。それもこれも王衍おうえんどもがまともに職責を果たさなかったせいよ」


 桓温は伊水いすいに進み、姚襄軍を立て続けに破る。

 桓温は洛陽らくよう北西の金墉城きんようじょうに駐屯の上、晋の歴代皇帝の陵墓に拝謁。守備隊を置いた。

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