04-03-03 晋四 桓温 1

 桓温かんおん。蘇峻の乱にて戦死した桓彝かんいの嫡男である。豪傑でありながら、風流。桓温を中央に推挙するにあたり、庾翼ゆよくは言う。

「この者は英雄と呼ぶべき才を帯びている。ならば彼にこそ地方総督の任を負わせるべきだ」

 庾翼は胡族を滅ぼし、しょくに割拠する成漢せいかんを打破することこそが自らに課せられた使命であるとし、合わせて兵を動員して北伐を実行せん、と考えた。そこで駐屯地を襄陽じょうよう、より前線に近い場所に移動した。詔勅が下され庾翼を都督ととく征討諸軍せいとうしょぐんとされた。庾翼は桓温かんおんにその前鋒軍の指揮を執らせた。


 穆帝ぼくていが立って間もなくして、庾翼ゆよくが死亡した。このため桓温かんおん都督ととく荊梁等州けいりょうとうしゅう軍事ぐんじとなった。

 かつて庾翼は自身の子に荊州を任せたいと考えていたのだが、「何充かじゅう」が反対して言う。

「荊州はお国の西門。年端も行かぬ子になぞ任せるわけには行かぬ。桓温が英略は人並み外れたもの。西方を守らせるのにかの者以上の適任者なぞおらぬ」

 この議論に対し、「劉惔りゅうたん」は桓温が臣下に収まるつもりなどないことを見抜いていた。そこで司馬昱しばいくに言っている。

「あれに要地を任せるべきではございませぬ」

 しかし司馬昱は聞き入れず、こうして桓温に正式に庾翼の後任となる辞令が下ったのである。


 成漢の李勢りせいは驕って荒淫にふけり、政に見向きをしなくなった。桓温は成漢討伐を上表。そして即座に出撃し成都せいとに迫り、李勢を降伏させた。ここに成漢が滅亡した。



蒙求もうぎゅう


桓溫奇骨かんおんきこつ 鄧艾大志とうがいだいし

 東晋を代表する名将、桓温。その面持ちは常人ならぬ相であったという。

 職官を滅ぼす郡公を上げた、鄧艾。彼は貧しい少年時代から大志を抱いていたという。

 軍功を上げた名将は、若い頃からヤバい。


劉惔傾釀りゅうたんけいじょう 孝伯痛飲こうはくつういん

 東晋中期の名士、劉惔。彼は同僚の何充の穏やかな飲みっぷりを心地よく思ったため、彼のためにうちの酒蔵の酒をすべて開けてみたいのだ、と語った。

 東晋末の名士王恭は名士のあり方について「奇才はいらん、酒を痛飲し、楚辞でも読んで暮らすのが良いのだ」と語った。

 お酒は社交、お酒は生存。


淵明把菊えんめいはきく 真長望月しんちょうぼうげつ

 東晋末の大詩人、陶淵明。彼が酒がないのを紛らわすために菊の花を摘んでいたら、太守が酒を送ってきてくれたという。

 東晋中期の風流人、劉惔。彼の友人である許絢が死亡。その後の宴席にて、美しい満月を眺めながら「どれほど月が美しかろうと、いまこの場にはもう彼がいないのだ」と慨嘆した。

 人々を引きつける、その風雅さ。

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