02-03-16 漢一 韓信 完

 韓信かんしんが謀反を企んでいる、と言う報告が劉邦りゅうほうのもとに上がってくる。韓信討伐すべしの気運が高まるのだが、陳平ちんぺいは討伐の軍を興すことを危ぶんで言う。

「天子は国内各地を巡察して回るものです。陛下はちんの地にまで出て、諸侯と酒宴を開く、と名目を発せられませ。ここに韓信も参加すれば、韓信を捕らえるのはひとりの力士ですみましょう」

 この命令が発せられると、韓信も陳にやって来、面会した。そこで劉邦は辺りの者に命じて韓信を捕縛。このときに韓信は言う。

「なるほど、人の言っていた通りだ。狡兎死して走狗らる。飛鳥尽きて良弓しまわる。敵国破れ謀臣亡ぶ。天下既に定むらば臣はもとより釜ゆでとなる定めだったのだ」

 韓信は手枷足枷首かせをはめられ投獄されたが、やがて赦免を受ける。ただし王の座は剥奪され、淮陰わいいん侯とされた。


 かつて劉邦りゅうほうは韓信と語り合ったことがあった。

「わしの将器はいかほどかな?」

「十万を率いるのがギリギリでしょう」

「では、そなたは?」

「私は、多ければ、多いほど」

 はは、と劉邦が笑う。

「では何故わしに捕らえられたのだ」

「陛下は兵を率いるお方でなく、将をお統べになるお方。だからこそ私は囚われました。そのお力は天与のものであり、人にどうこうできるものでもございませぬ」


 だい国の宰相「陳豨ちんき」が謀反を起こし、劉邦自ら制圧に出る。このとき韓信の臣下の縁者と自称するものが「韓信は豨謀と結び謀反を図っている」と密告。そこで呂雉りょち蕭何しょうかが示し合わせ「陳豨は敗死した」という虚報を流し、韓信を謀反人平定の祝賀に参内させた。やって来た韓信は捕らえられ、一族もろとも処刑された。死に際し、韓信はこう洩らしていた。

蒯徹かいてつの提案を退けた末、おなごの謀で死ぬとはな」


 劉邦は陳豨を破って帰還。また蒯徹を捕らえ、自らのもとに連行させる。劉邦に対し蒯徹は言う。

しんが失なった天下という名の鹿を、天下の者が皆で逐いました。そして最終的にはもっとも足の速きお方、すなわち陛下が手中に収められた。当時の私はただ韓信をのみ知り、陛下を存じ上げなかった。天下には陛下のように覇たらんと望むものが多くおりましたでしょう。私を誅されようというのです、ならば陛下は、他の覇たらんと望んだものを、みな誅してくださるのでしょうな?」

 その言葉を聞き、劉邦は蒯徹を赦免した。

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