第25話 デート、乱入

 モモは映画に夢中で、上映が始まるとポップコーンを食べるのを忘れるほどであった。

 まぁ始まる前に半分以上食べてしまっていたのだが……


 映画が終わり、モモは満足げな顔をして、俺に抱っこされながらポップコーンの残りを食べていた。


「映画、面白かった」


「面白かったな。また別のやつ見に行くか」


「他の映画もやってる?」


「やってるやってる。モモが好きそうなのは今は他にないけど、またそのうちやるさ」


「おお……また見たい」


 これは絶対にまた見に来ないといけないな。

 これだけモモが嬉しそうにするのも珍しい。

 

 俺はついでにパンフレットを購入し、それからビルを後にした。

 

「まだ昼か……とりあえず飯食いに行くか。ポップコーン食べてたけど……モモならまだまだ食えるだろ」


「まだまだというか永遠に」


「どれだけ食うんだよ」


 俺はモモの食欲に呆れつつも、映画館がある隣のショッピンモールに足を運ぶ。

 洋服店やグッズショップ、地下にはスーパーやフードコートがあるモール。

 

 モールに入り、エスカレーターで上階を目指す。

 一番上の階に飲食関係のフロアがあり、そこで食べる店を探すとしよう。


「モモは何が食べたい?」


「美味しいやつ」


「美味しいやつか……何が美味しいだろうな」


 俺とモモはワクワクして飲食店の並んでいるフロアに降り立つ。

 その店の数の多さにモモは驚いているらしく、俺の腕の中でキョロキョロと周囲を見渡していた。


「ああ、見つけた!」


「え?」


 フロアの向こう側に何故かエレノアがおり、元気な顔でこちらに手を振っている。


「勇者。なんで」


「さぁ……」


「蒼馬。ここにおったのか」


「マナ。お前までなんでここにいるんだよ」


 後ろからはマナがエスカレーターで上がってきて、俺の背後に立つ。

 

 俺はマナとエレノアに行く手を遮られ……ってこれ出逢った時と同じ状況なのでは。

 今度は何を企んでいるんだ、こいつらは。


「これからご飯食べるの?」


「ああ。そのつもりだ」


「ほ、ほう……でも一緒に散歩などどうじゃろうか」


「今から飯だって言ってるだろ。散歩なんてするとしてもその後だ」


 マナは数ある店の料金を見て顔を引きつらせている。

 ああ、金が無いから散歩しようって話か。

 って、俺と一緒に行動すること前提じゃないか。


「じゃあボクも一緒に行ってもいいでしょ?」


「ああ、別に構わないけど……」


 俺は構わない。

 だけどモモはどう思うのだろうか。

 

 俺はモモの顔をそーっと覗き込む。

 だが彼女は気にしている素振りは見せていない。


「……一緒に食べていいか?」


「別にいい。食事は他の人がいても関係ない」


 食事には集中するからな、モモ。

 これが映画とか遊びだったら断っているところだろう。


「じゃあ一緒に行くか」


「うん。当然だよ。だって蒼馬はボクの……」


 何故か顔を赤くしてチラチラこちらを見るエレノア。

 なんだよ、その反応は。

 俺は何かしたかなと考えるが、全く見覚えが無さ過ぎて困り果てる。


「モモはいっぱい食べれる方がいいよな」


「うん。無限に食べれるのがいい」


「ああ、ちょうどあそこに無限に食べれる店があるぞ」


「おお」


 そこはしゃぶしゃぶ食べ放題の店で、モモに関しては年齢的に半額になるようだ。

 ここを選択しない手はない。


「エレノアもあそこでいいか?」


「もちろん。蒼馬とならどこでもいいよ」


 だからなんでそんな赤い顔するんだよ。

 

「よ、余は外で待ってようかの……」


「あはは。魔王が来ないなら尚更最高だね。うん。魔王はそのままセルブターミルに帰りなよ」


「か、帰るか! 帰るのはお主の方じゃ! 余があちらに帰るのは、蒼馬と一緒の時じゃからな」


「ふふふ。残念だけど、蒼馬はボクと帰ることなっているのさ」


「な、なんじゃと!? それはどういうことじゃ?」


 勝ち誇った顔でマナを見下ろすエレノア。


「だって蒼馬は……ボクとけ、結婚するんだからね!」


「え、えええっ!? 何故そんな話になっとんじゃ……」


「蒼馬、本当?」


「いや、俺も初耳なんだが」


 そんな約束したかなと一瞬思案するも、やはり全く身に覚えがない。

 しかし結婚って、何がどうなってそんな話になったんだ。


「俺がエレノアと結婚するなんて話にいつなったんだよ」


「だって君、ボクの胸を二回も触ったじゃないか」


「ん?」


「二回も触られたんだ。責任を取ってもらわないと……」


「…………」


 俺は唖然として固まり、マナは絶望に打ちひしがれたような顔で涙目になっていた。


「じゃあモモも蒼馬に責任を取ってもらわないといけない。モモは胸を触られたなんて騒ぎじゃない」


「モモ……あれは・・・ちょっと違うだろ」


「? でも、触る以上の行為」


「ま、まさか蒼馬……幼女に手を出したんじゃ!?」


「そんなわけあるか! 違う違う。もっと別の話だよ」


 モモのことを説明するのは大変なんだよな。

 どうやって話をすればいいのだろうか。

 と言うか、できるならこの話は終わりにしたいんだけど。


「とにかく、飯食おうぜ。俺もモモも腹が減ってさ」


「あ、あの……余に金を貸してくれんかの? 後で返すから」


「ああ、いいよ」


 マナはまるで勝負に負けるわけにはいかないといったような表情で、俺らと共にしゃぶしゃぶ店に足を踏み入れる。


 一体お前は何と戦ってるんだ?

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