第7話 二人の目的

 勇者が魔王の背後に隠れ、魔王は汗をドバドバ流しながら俺を見据える。


「よ、余はマナ……マナ・マクガリスじゃ。どうやらおぬしの強さは本物のようじゃな。それでこそ運命を左右させる者よ」


「俺は芹沢蒼馬。こいつはモモだ」


「ボクはエレノア・セイ・リーゼフォン……まさか最強の男が変態だったなんて」


「まだ根に持ってるのかよ。勘弁してくれ。わざとじゃないんだからさ」


 エレノアと名乗った少女……魔王マナからは勇者と呼ばれていた。

 俺はそんな呼び名が気になり、二人に訊ねることに。

 だって勇者と魔王なんて、ただごとじゃないもんな。


「で、なんで勇者と魔王が一緒に行動してるんだよ?  だいたいなんだよ、勇者と魔王って。それにそセルブターミルってどこにあるんだ? 聞いたことないんだけど」


「べ、別にこやつと行動しとるわけじゃないわ! こやつが余に勝手について来たのじゃ!」


「勝手について来たわけじゃない! たまたま目的が一緒だっただけだ!」


「……仲いいのか悪いのかどっちだ?」


「「悪い!」」


 二人は声を合わせて俺に怒鳴る。

 本当は仲いいんだろうとしか思えないぐらい息がピッタリだ。


「セルプターミルとはおぬしがいた世界とはまた違う世界じゃ」


「別の世界?」


「うむ。余たちが今いるこの世界とはまた違う世界。その世界は何も一つだけではない。世界は幾千幾万とある。その中の一つがセルプターミルじゃ」


「なるほど。また別の異世界から来たってことか」


「そういうことじゃ」


 魔王は無い胸を張りながら自分が来た世界のことを説明してくてた。

 しかし別の異世界とは……面倒なことにならなければいいんだが。


「で、目的は?」


「目的は簡単だよ。ボクが君を連れて帰れば、永く続く人類と魔族の戦いに決着がつく」


「決着って……なんでそこに俺が出て来るんだ?」


「啓示だよ」


「啓示?」


 啓示ってことは……神様の言葉とか?


「ボクがいる国の神官……その人が神からの啓示を受け取ったんだよ。この世界にいる最強の男を連れ戻ることができたなら、人類の勝利で戦いは終わるだろう……ってね」


「余たち魔族にしても同じじゃ。占い師が同じことを言っておった。お前を連れ帰ることができれば、魔族に勝利をもたらすとな」


「……二人は敵同士なのか?」


「当然だよ。勇者と魔王なんだ。敵以外の何物でもないよ」


「そういうことじゃ。余たちは敵同士。決して味方などではない」


 モモが眠たそうにコクリコクリとしている。

 モモからすれば退屈な話か。


「じゃあ俺が一緒にお前たちの世界に戻れば、人間と魔族のどちらかの勝利が確定するってことか」


「そういうことじゃ」


 人類と魔族……見た目では全然分からない。

 魔族というわりには人間らしすぎる。

 もっとこう魔族といえば、モンスターを率いたり化け物みたいな見た目を想像してたんだけどな……

 でもそれは、俺の勝手なイメージか。


「お前たち見た目はあまり変わらないけど、人間と魔族なんだよな? どういうことだ?」


「それは簡単な話。人間は心臓に【聖石】を。魔族は心臓に【魔石】が内包されているんだよ」


「【聖石】に【魔石】……?」


「うむ。高貴たる魔族は魔力の源、【魔石】を心臓内に有しておる。それが人間との大きな違いじゃ」


「全然大きくないんだけど……ほとんど同じだろ。お前らは」


 そして俺も。

 エレノアとマナ、二人と大して違いはない。


「全然違うよ! ボクは人間で魔王は魔族! 人間と虫ぐらい違うよ!」


「余を虫呼ばわりするな! それなら貴様らは、魔族とゴミぐらい違うわ!」


「人間をゴミ扱いしないでよ!」


「喧嘩するなよ。もっと仲良くいこうぜ」


「「仲良くできない!」」


 本当、仲がいいとしか思えない息の合い方。


「それで蒼馬。ボクと魔王、どっちについてくれるの?」


「もちろん余じゃな? 分かっておる分かっておる。皆まで言わんで良い」


「そうか」


 ニンマリと笑うマナ。

 その魔王の顔を見てエレノアは愕然とする。


「そ、そんな……君は魔族につくと言うのか?」


「当然じゃろ。おぬしと余では美貌に圧倒的な差があるからな! ふはははは! 余を選ぶのは当然ということじゃ!」


「ボ、ボクって魅力ないからな……」


 大笑いする魔王に肩を落とす勇者。

 対照的な態度の二人を見て、俺は笑顔で言う。


「じゃあな。俺はやることあるし、俺抜きで頑張ってくれ」


「「えっ?」」


「いや、言わなくてもいいって言ったよな、さっき」


「いや……え、余につくんじゃないのか?」


「いや、どっちにもつく気ねえよ。俺はどっちにも加担しない」


 口をあんぐりとさせ、呆然とする二人。


「もう異世界はこりごりだ。俺は余生をこの世界でのんびり暮らすんだ」


「あ……そんなの困るよ! ボクと一緒に帰ってくれないと!」


「よ、余も困るぞ! ようやく永い戦いが終わろうとしておったのに!」


「俺はこれからモモの世話もしなきゃいけないし、色々と大変なんだよ。自分らの世界のことは、自分たちでなんとかしてくれ」


 俺は踵を返し、大通りの方に走って行く。


「諦めないからね! 絶対、君をボクの世界に連れて帰ってみせるよ!」


「余もじゃ! おぬしを余の味方にしてみせるぞ!」


 俺は振り返ることなく嘆息し、人混みに紛れ二人を振り切る。

 面倒なことはもうごめん。

 俺にはやることが沢山あるんだ。


 

 こうして俺は勇者と魔王の二人と出逢った。

 出逢ったができるならもう会いたくないというのが正直なところだ。


 もう異世界なんて行きたくねえよ。

 やっぱり平和が一番だよな。

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