第6話 勇者と魔王

 俺たちの背後にいるのは青髪の美少女。

 肩ぐらいまでの長さの髪に、好奇心に溢れたような表情。

 胸が大きく、戦士然とした恰好をしている。

 彼女を見ているとどうもボーイッシュという言葉が頭に浮かぶ。

 

 もう一人は赤髪を腰まで伸ばした、これもまた美少女。

 赤いドレスのような物の上から鎧をまとっており、胸は小さい。

 しかし背は低くない。

 とても勝気な顔をしており、妙な魅力を感じるが……俺を値踏みするような表情をしている。


「で、お前らは誰だ? 『黒の一族』には見えないし……となると『セリザリン』の使いか?」


「? 黒の一族にセリザリン? 君は何を言っているんだい?」


「ふはははは! 余を誰だと思っておるのじゃ! そんな聞いたことのない田舎町から来た存在ではないわ!」


 赤髪の美女が高笑いしながらそう言った。


「セリザリンが田舎町って……ならどこから来たんだよ」


「ボクらはセルブターミルからやって来たんだ。あ、ちなみにそっちの貧乳は放っておいていいからね」


「誰が貧乳じゃ! お前のち、乳がデカいだけじゃろ! 余の胸は成長中なのじゃ! 現在進行形じゃ!」


「それを言うならボクだって成長中だよ。まぁこれ以上は成長しなくていいんだけど」


 青髪の美少女は胸を見下ろしながらため息をついている。

 赤髪の美少女は鬼の形相でその胸を睨みつけていた。


 しかしセルプターミルか……聞いたこともないな。

 一体どの地域、あるいは町のことを言っているのだろう。


「胸の話はいい。セルプターミルってのはどこにあるんだ? それになんの目的で俺に接触しようとした?」


「何故接触するかだと? そんなの決まっているだう」


 赤髪の女はニヤリと笑い、突然こちらに右手を突き出した。


「お主の力を確かめに来たのじゃ!」


「抜け駆けはズルいぞ、魔王!」


「魔王……?」


「蒼馬、魔王てなに?」


「魔王……魔族の王様とか?」


 魔王と呼ばれた赤髪の女は、右手に魔力を集め出す。

 術式のない魔術か……?

 そんなものが存在するのか?


 通常、魔術を使用するには色々と手順が必要なのだが……この女はその全てをすっ飛ばして魔術を展開しようとしている。

 そんな未体験なことに唖然とするも、俺は一瞬で平常心を取り戻し、相手の動き窺っていた。


「蒼馬、魔王が攻撃してくる」


「してくるな、攻撃」


俺はヤレヤレと辟易しながら、魔王と呼ばれた少女の攻撃を迎え撃つ。


「さぁ、この破壊の力をどう防ぐつもりじゃ!?」


 彼女の右手には黒い魔力。

 笑みを浮かべたまま、その力をこちらに解き放つ。


「どうするつもり、蒼馬?」


「どうするかな」


「魔王! いきなりやり過ぎだよ!」


「うっさいわ、勇者! これで死ぬようなら、余にとっていらぬ存在! 弱き者など必要ないわ!」


 魔王の次は勇者かよ。

 俺は飛翔する黒い力を見て嘆息する。

 そしてそれを上空に向かって蹴り上げる・・・・・

 サッカーボールのように。


「ほえっ!?」


 上空へと飛んで行った黒い力は、空で花火のごとく爆発を起こす。


「あんな力で攻撃するんじゃない。町が壊れたらどうするつもりだ」


「え、あ、ええっ……?」


 何故か唖然とする魔王。

 勇者と呼ばれた女も驚いている様子。


「ま、まさか魔王の力を蹴り飛ばしちゃうなんて……よし。ボクも試させてもらうよ!」


 今度は俺の背後で勇者が走り出す。

 勇者は走りながら、左手に魔力を込めだした。

 こいつも術式無視か……どうなってんだ、一体?


 どんな攻撃が来るのだろうと身構えていると――勇者の左手には光輝く剣が現出する。


「物質を具現化させる能力か……」


「あれなら蒼馬にもできる」


「確かにできるな。力のベクトルは全然違うけど」


「女の子を抱いたままなんて、ちょっと嘗めすぎじゃないかな?」


「嘗めてないさ。ただ余裕なだけだ」


「……言ってくれるね!」


 カチンときたのか、勇者は眉間に皺を寄せながら飛び上がる。

 そして加減することなく俺に切りかかってきた。


 それを最小限の動きで回避してみせる俺。

 自分に当てさせず、モモにも当たらないように。


「なっ!? 動きが迅いっ!」


「…………」


 迅いか? 

 軽く避けてるだけなんだけど。


 続いて勇者は剣で切り上げようとする。

 しかし……遅いな、この子。

 そんな攻撃じゃいつまで経っても当たらないぞ。


 俺が攻撃を回避すると、勇者は連撃を繰り出す。

 が、それらも軽々と避けてやると、汗をかきながら目を点にさせていた。


「な、なんでこんなにも当たらないんだ……!」


「お主の攻撃がへなちょこすぎるんじゃ!」


「う、うるさいよ、魔王! 黙ってて!」


 勇者は魔王のヤジに怒鳴り散らす。 

 とその瞬間、彼女は体勢を崩してしまい、こちらに倒れ込んできた。


「わっ――」


「っと。危ないぞ」


 俺は勇者の体を支えてやろうとした。

 モモを抱いているので左手は塞がっているので、右手で。


 するとなんと、支えるはずだった俺の右手は、彼女の豊満な胸に沈んでしまう。


「…………」


「…………」


「蒼馬、スケベ」


「ははは……不可抗力というやつだ。すまん」


「な、ななな、何をしてるんだ君は! なんでボクの胸を触るのさ!?」


 俺から距離を取り、胸を両手で隠す勇者。

 不可抗力だと言っているのに……涙目で俺を睨んでいる。


 わざとじゃないんだから許してくれよ。

 なんてことを、内心ドキドキしながら俺は心の中で訴えかけていた。

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