五将決定戦

【五将決定戦-1】

参加者

北陽(四) 安藤(三) 福原(三) 猪野塚(二) 菊野(二)高岩(一) バルボーザ(一) 閘(一) 星川(一) 


 土曜日の朝九時、部室に部員たちが集まっていた。不参加は中野田のみ。そして今日は、その中野田欠場により一枠空いた、夏の全国大会のレギュラーを決める日だった。

 参加者は九人。必ずしも一位の者が全試合出るわけではないが、「基本的な五将」として、多くの試合に出ることになる。

 蓮真、鍵山、会田、大谷の四人はレギュラーが確定している。彼らは、見守る立場だった。

 蓮真は、猪野塚-福原戦を見ていた。中野田の欠場により五将を決める戦いとなっているが、秋の大会を見据えれば「六・七将候補たち」の戦いでもあった。全国大会では、中野田を含めた上位五人もそう簡単には勝てない。残り二人がどこまで戦えるかによって、「全国で戦えるチームになるか」が決まると言っていい。

 鍵山は、北陽-高岩戦のところにいた。当初安藤は、北陽には「参加はしなくてもいいですけど」と特別対応を打診していた。四年生であり、これまで部を支えてきた人であり、今更一年生と一緒に競争させるのもどうか、と安藤は考えたのである。しかしそれは、北陽を五将として確定させる気はない、という宣言でもある。北陽は、参加を宣言した。「実力で出場を勝ち取って、全国で戦いたい」と言い切った。

 高岩は日に日に力を付けていたが、まだ北陽を脅かすほどにはなっていなかった。危なげなく、北陽は勝利した。

 鍵山は、北陽が五将を勝ち取るのではないか、と予想していた。やはり、これまでの経験というのは大きなアドバンテージである。

 大谷は、星川-ひのくち戦を見ていた。同級生同士の対決である。星川の四間飛車に対して、閘は棒銀をしていた。ただ、定跡をきちんと覚えていないので、綺麗にさばかれていた。角は交換され、星川の飛車は成りこんでおり、左の桂馬が中段に跳ねている。

 閘は将棋部に入った時は初心者であり、まだまだ他の部員とは力の差があった。負けて当然、と言えるだろう。だが、大谷はそれで納得してほしくないと思っていた。彼自身は、将棋を始めて三か月の頃には8級ほどになっていた。負けたくなくて、毎日のように将棋を指して、詰将棋を解いていたのである。一年経つ頃には、道場で2級になっていた。果たして閘は、それぐらい強くなれるだろうか?

 投了した後の閘は、うっすらと笑みをこぼしていた。まだまだ「させるだけで楽しい」段階だったのだ。厳しい表情で、大谷はその様子を見つめていた。

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