【新人王戦-4】
決勝トーナメント1回戦組み合わせ
高坂(経済二)-多野(鳥口一) 会田(県立二)-鍵山(県立二)
成宮(香媛一)-田原本(経済一) 大谷(一)-目野(禅堂院一)
「当たっちゃったなあ」
「当たっちゃったねえ」
猪野塚と菊野は嘆いていた。
県立大から決勝トーナメントに残ったのは三人。大学別では最も人数が多かった。そして組み合わせ抽選の結果、二年生の二人が一回戦で当たることになったのである。
「解説の猪野塚さん、展望はどうですか」
閘が、マイクを向けるしぐさをする。
「『経験値で殴る』と言われる会田さんの将棋は、とにかく豊富な実戦経験に支えられています。アマ将棋の奥深さを知る強みがあると言えますね。対して『瞬間冷凍機』とも言われる鍵山さんは、見た目も将棋もとにかくクール。徹底的に相手の攻めを凍り付かせるのが得意です。女流代表として、全国大会の経験が豊富なのも強みですね」
「ゲストの菊野さんはどうですか」
「え、僕も? あー、会田君は最近カフェでバイトを始めたんです。将棋部員らしくないですよね。というか、会田君らしくないですよね」
「そうなんですか?」
「インドア歴19年ですからね。僕は絶対無理です」
皆が同門対決に注目する中、大谷はきょろきょろとあたりを見回していた。これから「期待の一年生」が対局を始めるというのに、ギャラリーがいないのである。同門対決の方が人が多くなるのはわかる。けれども、自校開催で部員がみんないるにもかからず、一人も見に来ないのは納得いかなかった。
そんな中、大谷は近づいてくる気配を感じた。大きな気配だった。振り返るとそこには、中野田とバルボーザがいた。
「圧強め二人来た!」と大谷は心の中で叫んだ。
会田に対しては、かなり勝ち越していた。ただ鍵山は、全く有利さを感じていなかった。
当たりたくなかった相手だ。
大学に入るまで当たってきたどの相手ともタイプが違った。つかみどころがなくて、形を様々に変える。明確な弱点というものが見当たらない。
将棋に向かう原動力というのもよくわからなかった。負けず嫌いというわけでもない。トップを目指しているようにも感じない。それでも、向上心はある。
蓮真と中野田のような、お互いに意識し合いライバル関係にはなれない。鍵山と会田は、いつでもすれ違い続ける関係だった。
淡々と序盤が進んでいく。どんな手にも、会田は対応してくる。「知らない戦法はない」と本人が言いきっている。それほどまでに、対局を重ねてきたのだ。
鍵山の脳裏には、地元の道場で過ごした日々のことがよみがえっていた。序盤がなかなか好きになれなくて、いつも不利な局面になった。大人たちは親切にアドバイスしてくれたが、言うことを素直に聞きたくはなかった。
立川に負けてから、気持ちが変わった。隣県の立川は、常に鍵山の前に立ちはだかった。いつもはおどおどしているのに、将棋は堂々としていた。序盤がすごく上手い。挽回できないほどの差を付けられて、逃げ切られることばかりだった。
会田には、今のところそこまでの差はつけられていない。ただ、脅威は感じている。彼に、逃げ切れるだけの力を身に着けられたら。
互角と思っていた序盤だったが、中盤の入り口で誤算に気が付いた。指す手がない。身動きが取れなくなっていた。どれもが悪手になるような局面に、誘導されていた。
もがいてもがいて、逆転の糸口を見つけようとした。しかし、会田は隙を見せなかった。必死になりつつも、鍵山は気が付いていた。
会田は、強くなっている。逆転を許さないほどに。
最後まで差は縮まらず、鍵山の攻めは完全に切れてしまった。深々と、頭を下げた。盤面を、黒髪が覆った。
決勝トーナメント1回戦結果
高坂(経済二)〇-×多野(鳥口一) 会田(県立二)〇-×鍵山(県立二)
成宮(香媛一)×-〇田原本(経済一) 大谷(一)〇-×目野(禅堂院一)
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