第14話 チェス
「まずお前には地獄を見て貰う」
開口一番、学園長は前置きもなしにそんな事を告げて来た。
「あ、いや。違う」
どうやら違ったらしい。
「えーっと、その。うーん、良い表現が見当たらないのぉ」
見当たらないらしい。
「……とにかく、お前には地獄を見て貰う!」
「えぇ……」
とにかく、地獄を見せられる事になった。
なにそれ怖い。
「と言う訳でこれからお前に訓練をして貰う訳じゃが。私が直々にする訳ではない。なにせ、私は力加減というのが苦手だからのぉ」
「学園長でもですか」
「学園長なのにじゃ。数百年単位で生きているが、力加減をする機会ってなかなかなくてのぅ。そんでもって直々に稽古をするって事も今までなかった。なかったから、相変わらず苦手なままって事じゃ」
「なるほど――それじゃあ、どんな事をするんですか? 間接的に地獄を見せられるって、正直怖いんですが」
「それはのう、これを使う」
そう言った学園長はおもむろに空中に手を伸ばし何かを掴む動作をした。
すると、彼女の手の中には一枚の正方形をした板が収まっていた。
盤面は白と黒、モノクロが交互に並んでいる。
これは――
「チェス盤?」
「そう、チェス盤じゃ」
「……今からチェスをしろと?」
「いや、違う」
違うらしかった。
学園長はそのチェス盤を左右に揺らしながら「これは、『遊戯板』と呼ばれる霊装じゃ」
「霊装? 遊戯板?」
「ちなみに霊装とは魔力を用いずに何らかの手段でエネルギーを得、超常的な現象を引き起こす事の出来る物体の事じゃ。そしてこの『遊戯板」は」
中に一つの世界が形成されておるのじゃ。
学園長は言う。
「世界?」
「そう、世界じゃ――正確に言うと世界という表現はちと大げさな気もするが。まあ、そう言う認識をして貰ってくれて構わんぞ?」
「……もしかして、その世界に行け、と?」
「流石のお前もそれくらいは分かるか」
「それで、そこでどのような事をしてくればいいのですか? なにかを倒す、とか?」
「それは、その世界に行けば自ずと分かるじゃろう」
では、さっそく始めるぞぃ。
そう学園長が宣言した刹那、チェス盤が光を放ち始める。
眩い光。
そして謎の引力を感じた。
「え、は?」
引力はどんどん大きくなっていき、俺は立っている事すら儘ならなくなる。
否。
思い切り身体が持ち上がり、まるで吸い込まれるようにチェス盤の方へとすっ飛んでいく。
危ない――!
チェス盤にぶつかる!
そう思い衝撃を覚悟し目を閉じる。
しかしいつまでたっても衝撃がやって来ない。
俺は恐る恐る目を見開き――そして驚く事となった。
「……ここは」
目の前に広がっていたのは、どこか寂れた雰囲気をしている村だった。
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