第18話
初々しさ
翌朝、舞は予定通りに退院することができた。母が車で向かいに来てくれた、久しぶりに
久しぶりに家に帰ってくると不思議な感覚に陥った。昔から住んでいる家なのに、あたかも親戚の家にお邪魔しているかのような感じがしてソワソワして落ち着かなかった。そんな気持ちを落ち着かせようとして、二階にある自分の部屋に向かった。自分の部屋に入ると先までとは打って変わって、本当に家に帰って来たのだと実感でき、これで、本当に夏祭りの日が終わったのだと実感できた。よく小学生の時に、先生が遠足は家に帰るまでが遠足だとよく言っていたが、高校生になってようやく理解できた気がした。遠足みたいに楽しい出来事ではなかったが。
舞の心がじんわりと暖かくなっていき、こわばっていた、肩や背筋が下がって、そして、瞼がどんどん暖かい水滴で湿っていく……本当に終わったのだと思うと恐怖が緩やかに溶けて消えていく気がした。
母親が自分を呼んでいた気がした。
「終わったんだな……ほんとに……」
ふと、十思のことが脳内で走馬灯に駆け巡っていき、どうしようもなく十思に会いたくなった。十思がいなければ、一生、あの病室で窓から外を見続けて、夏祭りを終えることが出来なかった……十思がいなければ私は死んでいたかもしれない……
「何で、そんなところに突っ立てるの?、速く支度しないと佐藤君来ちゃうよ」
母は不思議そうな声で、私の後ろ姿にはなしかけていた。私は泣いている姿を見せられなくて、振り向かずに返事をした。
母はそういうと、階段を下りてリビングの掃除をし始めていた。掃除機の音が家中に響き渡る。その音のおかげで私のしんみりとしていた感情が壊れて、泣き止むことができた。
涙を拭うと、支度を始めた。十思のことを意識すると、着ていく服装がなかなか決まらない。それにこんな顔で行くよりは化粧をしていた方がいいのではないかと思い始めてしまった。でも、普段、十思と会うときは、化粧はしないし、それなりのオシャレしかしていないので、普段しないことをするとおかしいと思われるかもしれないと思い、結局、普段通りで行くことにした。
チャイムが鳴った。
心臓が速く大きく波打つ、顔は妙に熱くなる。照れてしまってどんな顔をすればいいかわからない。十思は家に入って母親と喋っている。まだ、私は自分の部屋からは出れない。先よりも、鼓動が速く、大きく波打つ、まるで、自分を急かすように、もうどうにでもなれという気持ちで、十思がいるリビングへと向かった。
いつも上ったり下りたりしている階段が今日だけは、永遠とも感じる長さに感じる。階段を降りると十思の後ろ姿が見える。そして母親は台所でお茶を入れている。
「やっと降りてきた!佐藤君来てるのに何で、速く降りてこなかったのよ」
母は少しムッとしている。十思はそんな母をなだめてながら、困った顔して笑っていた。そんな姿を見て十思ももしかしたら私と同じような気持ちなのではないかと思ったけど、私の勘違いかもしれない。それを確かめようと私は十思と向き合ったところに座った。
十思は顔を合わせようとしない、そういう私もチラチラとしか顔を見れない、互いに体をモジモジとさせ、チラチラとしか顔を見ない、どうも初々しさが残ってしまう。
そんな二人を見かねて、母が首を傾げ、不思議そうに見ていた。
「二人ともどうしちゃったの?今日は全然喋らないわね、いつもなら学校の話やら、バイト先の話なんかして和気あいあいと話してるじゃない!それにどうしてそんなにモジモジしちゃってるのかしら、まるで初対面の人にでも会うみたい…」
「別にモジモジなんかしてないよ、いつもこんなかんじだよ。ねぇ、じゅっくん?」
アイコンタクトで十思に助けを求めた、十思もわかったみたいで、何度か頷いてくれた。
「そうですよ!奈美さんの気のせいかもですよ!いつも喋ってるみたいで、以外に黙ってる時間もあるんです」
母のおかげで少し空気が楽になった気がした。でも、父が帰って来るまで、まだ時間があるから、何か喋っていないとまた、母に疑われてしまう。
どうしようと考えていると、十思が母に言った。
「まだ、貴史さんが帰って来るまで時間があるので、舞さんと一緒に外に散歩して来ていいですか?」
「ええ、もちろんいいわよ!」
十思が妙に真剣な顔をしたので、母は少し驚いたようだった。
「ありがとうございます」
「じゃあ、舞行こ!」
母に向けたように、私にも真剣な眼差しをして言ってきたので、嫌だとは断れない、元から断るつもりはないが。
「う、うん」
私は言われるがまま十思について行くことにした。
外に出てしばらく歩くと十思が口を開いた。
「あのさ、手紙読んだ?」
顔は強ばっていて、緊張しているのが横から見ていてもわかった。
「うん……」
「返事聞いてもいい?」
「ご、ごめん。」
十思の表情がさらに強ばった……
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