第15話
守るもの
病院に着くと、舞がいる病室に向かった。いつもなら足取りは重く、罪悪感で憂鬱だったが、今日は違った。とても軽やかで、とても気分が良かった。
病室に着くと、舞は今日もいつものように、外を眺めていた。
十思は舞に挨拶をしたが、もちろん返事は返って来ない。でも、もう気にならなくなっていた。
「舞、朝ごはんまだだろ?」
「今日は、おむすびを握って来たんだよ」
「沢山あるから一緒に食べよう」
舞は何にも返事をしない、聞こえているのかもわからなかったが、アルミホイールで包んであるおむすびを取り出して舞の手元に置いた。
舞は手元にあるおむすびを持ち上げてゆっくりアルミホイールを剥いて一口食べた。十思は息を飲んで見守っていた。
「どうおいしい?」
「……凄く」
「凄く?」
喉仏が上下に動いた。
「不味い」
舞は、そう言いながらポロポロと涙をこぼしていた。
十思も一口食べてみたら、舞が言った通り、凄く不味い、塩を入れすぎたみたいで物凄くしょっぱいし、強く握ったせいで、白米の粒がつぶれてしまって、感触も物凄く固く不味かった。
でも、舞は、泣きながら勢い良く食べていた。そして、あっという間に完食した。
そして、遂に舞が笑った。
その笑顔は雨上がりに虹がかかった時のようだった。
「こんなに不味いおむすび始めて食べたよ、でも、心が凄くこもっているのが分かった……」
また、舞の目からは涙が流れていた。
「作ってくれてありがとう…」
以前の舞に戻った気がした。
十思の目からは涙が滝のように流れて、床には水溜りができるほどに泣いた。
「おかわりある?」
「まだ沢山あるんだ!だから、いっぱい食べて!」
十思は涙を腕で拭ったが、また直ぐに涙は流れる。
暫くして、昨日まで入院していた貴史さんと奈美さんが退院して、舞のお見舞いに来た。二人が病室に入ると、そこには、笑顔で十思と話している舞の姿があった。二人は笑顔になっている舞を見て驚いた顔をした。そして、舞のところまで駆け寄り、がっしりと抱き、暫く離さないでいた。
十思は家族水入らずでいさせるため静かに病室を出て家に帰った。
家には以前の暗さはもうなかった。無機質な舞を見て暗い気持ちで家に帰らなくて済むようになったのだと実感すると、とても嬉しかった。でも、問題が全て解決したわけではなかった。夏休みが開ければ、宇土が戻ってくる……宇土はきっと加藤みたいに仕返しをしてくるだろう、最悪、舞を殺すかもしれない……絶対にそうさせないためにも、もっと強くなって、舞を守らなければ……もう二度と傷つけさせるわけにはいかないんだ。
宇土から舞を守るためにももっと強くならなければ…
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