第14話
おむすび
貴史と話し終わり、病室に戻ると、奈美は帰ったようだった。
舞は起き上がって、窓から外を見ていた。
「花火見れなかったね…」
遠くを見つめて、寂しそうだった。
「ごめん…」
十思はそれ以上は何も言えなかった…
舞は、何も言わなかった。ただひたすらに遠くを見つめていた。窓から反射して見えた顔には、無機質な表情が写っていた。生きているよりも存在しているだけのようだった。
一週間ずっとそんな調子だったが顔の傷はみるみるうちに治っていった、でも、心の傷はまだ、ちっとも治っていない……
貴史さんも奈美さんも会うたびに酷く疲れた顔を浮かべていき、倒れて、今、入院中だ。だから、今は俺しか来ていない。
毎日、俺は、舞にしゃべりかけるが、窓をじっと見つめるだけで、返事をしてくれない…それでも、めげずに話しかけるが、また、外を見つめる。
そこで、ふと、舞は、いつも何を見ているのだろうかと思ったので、窓側に椅子を持っていき、一緒に外をじっと眺めた。窓には河川敷とそこで、遊ぶ子供たちや散歩をしている人達がいるだけで、何の変哲もない風景だった。
横にいる舞の視線を見たが、どこを見ているのかわからなかった。でも、風景を見ているようにはないようだった。どこか、ここではない違う風景を見ているようだった…
十思は面会時間ぎりぎりまで一緒に同じようにしていた。
舞の気持ちが分かってきた気がした。こうしてじっと風景を眺めている、嫌なことだけが、脳裏にフラッシュバックする…が、意識だけは遠くに飛ばせるような、感じになって、俯瞰しているような感じになる。
十思は病院から家に帰ってからも、どうしたら舞が元気になってくれるのかを考えていた。でも、ちっともいい案が思いつかなかった。どんなことをしても以前のように笑ってくれるような気がしなかったが、とにかく元気になってほしいと思っていることを伝えたかったので、自分が今できることについて考えた、今すぐにできるこては、一つしか思いつかなかった。
翌朝、十思は朝早く起きて、炊飯器に一合の白米を入れて、炊飯のボタンを押して、炊けるまでの約一時間で、舞に手紙を書いた。言葉では、言えないようなことを
十思は炊き立ての御飯でおむすびを握った。中身は元気という調味料を入れた。そして、願いを込めて強く握った。
「元気になれ、元気になれ」
そうつぶやきながら強く握った。
十思は思いが沢山こもったおむすびを沢山持って、病院に向かった。
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