小燕ちゃんと董白ちゃん~おまけという名の第二部予告

 ここは、あの世の役所、冥府。


 今日も今日とて、小燕と董白は冥府の正門をせっせとほうきで掃き清めていた。


「あうあうあう~。まさか、死んじゃった後に男の子に胸を触られるというトキメキ事件が発生しちゃうなんて……」


「小燕ちゃん。さっきからため息ばかりついてどうしたんですか? あっ! 分かった! 食い過ぎで気持ち悪いんだ!」


 曹沖とのラブコメみたいな出会いを思い出し、小燕が顔を赤らめながらブツブツ呟いていると、董白がお子ちゃま丸出しな発言をした。


 キレたら相手を滅多蹴りにする魔王令嬢の董白だが、十代前半で恋を知らぬまま死んでしまったため、恋愛方面の話題には疎いようである。


 その点、小燕は噂好きで耳年増なところがあった少女なので、生前は素敵な恋に憧れていた。白馬に乗った若様と身分違いの恋に落ちたらどんな感じかなぁ~などと夜な夜な想像していたものだ。


 それがまさか、幽鬼の身になって、あんなキラキラした公子様と胸キュンな邂逅を果たすとは。


「でも……私、死んじゃってるんですよねぇ。しかも、あの御方は、いまを時めく曹家の御子息。死人しびとなうえに庶民の出の私なんて、曹沖様に相手されるはずがありません。いまごろ、すっかりさっぱり忘れられているはずです。私も、あの夜のことは忘れなきゃ……」


「??? よく分かりませんが、その曹沖っていう野郎が小燕ちゃんをいじめているんですね。よし! いまから現世に行ってそいつの皮を剥いでやりましょう!」


 物騒なことを言い出した董白が、箒を放り捨てて、猪のごとく走り出そうとする。小燕は「わーわーわー‼ 董白ちゃん、待ってください‼」と叫び、魔王令嬢を慌てて呼び止めた。


「私、誰にもいじめられていませんから!」


「いじめられていない? 本当ですか?」


「はい! だから暴力はダメ! 絶対!」


「でも……いじめていなくても、曹沖という男子が小燕ちゃんを悩ませているんですよね?」


「悩まされているというか、自分が勝手に悩んでいるだけというか……。色々と込み入った事情があるんです」


「なるほど。そういうことなら、迷わず皮を剥ぎましょう! そうすれば、曹沖とやらも小燕ちゃんに二度と近づかなくなるはずです! やはり暴力! 暴力が全てを解決する!」


「だーかーらー‼ 暴力はダメって言っているじゃないですか‼ 董白ちゃんもこの間、暴力的な人間は嫌いだって言ってたでしょ!?」


「ええ。他人が暴力を振るうのは嫌いです。でも、自分が暴力を振るうのはぜんぜん問題ありません。というわけで、レッツ皮剥ぎぃー♪」


「のわぁぁぁーーー‼ させませぇぇぇーーーん‼」


 目を輝かせ、嬉々として駆けて行く董白。小燕は猛ダッシュで追いつき、危険な友人を後ろから羽交い締めにした。


 董白は構わずに小燕を引きずっていこうとしたが、しょせんは生前に労働をいっさいしたことがない非力令嬢である。力勝負になると小燕にはかなわず、逆にズルズルと引っ張られた。


「大人しくお掃除の続きをしましょう、董白ちゃん!」


「やだやだやだ! 毎日、門の掃除なんて飽きた! たまには息抜きに人の皮を剥ぎたーい!」


「そんなの息抜きになりませんってば! ……あっ! そうだ! 『次回から始まる第二部の予告をするように』って泰山府君の命令書を受け取っていたんだった! 董白ちゃん、今日はもうお掃除やめにして予告のお仕事をしましょう。ね? ね?」


「むぅ~……。掃除をしなくていいのなら、やりますけど。でも、今度はどんなアホなことをやらされるんです?」


 ようやく大人しくなった董白がそうたずねると、小燕はふところから泰山府君の命令書を取り出して読み始めた。


「えっとぉ~……。今回は大事な第二部開幕の予告なので、いつもよりは真面目みたいですね。『第二部から登場予定の重要人物たちのごく一部を簡単に紹介しなさい』とのことです」


「ほほぉ~う。頓珍漢とんちんかんな命令ばかり出してくる冥府の神のわりには、意外とまともですね。では、やってみますか!」






            ~第二部「神殺し編」予告~



小燕「読者の皆様! お待たせしました! ついに『列異―occultic three kingdoms―』の第二部が始動します!」


董白「読んでくれなかったら、この董白ちゃんが鞭でしばきたおしちゃうぞ♪」


小燕「今回は特別に、第二部から登場予定の重要人物の皆さん(ごく一部)に一言ずつあいさつをしてもらいたいと思います!」


董白「冥界と現世をリモートでつないでいるそうですよ! 私たちの頭上にプカプカ浮かんでいる液晶モニターをご覧下さい!」


小燕「董白ちゃん。リモートって何ですか? それに、あのでっかい板みたいなのは……」


董白「泰山府君の神の力で、あの画面に人の顔が映るってことですよ! 細かいことは気にしない! では、まずは曹操陣営のキャラ紹介です!」






            ☆曹操陣営☆



【曹操 孟徳】

「……何だ、うぬらは。冥界からやって来た冥府TVのスタッフじゃと? 意味が分からぬ。持病の頭痛が酷くて、いま機嫌が悪いのだ。目障りだからあっちへ行けッ! さもなくば族滅ぞくめつするぞッ!」



【曹植 子建】

「あっ、すみません。いまちょうど二日酔いで寝てたんです。また後日にしてもらえます? ……ダメ? あ~子桓(曹丕のあざな)兄上と仲良しの曹植です! よろしく!」



【曹彰 子文】

「子建よりもオイラのほうが子桓兄上と仲良しだし! ていうか、なんで弟の子建が先に自己紹介してんの? オイラがバカだから? アホだから?」



【郭嘉 奉孝】

「うぃ~っぷ。酒は美味いなぁ~。あっ、どうも。曹操様の知恵袋、郭嘉です。いきなりだけどネタバレしていい? 私、次の第二部一章でさっそく死にます!」



【夏侯惇 元譲】

「すまねぇ……。重要人物に入れてもらって恐縮なんだが、第二部の俺の大きな出番って劉備軍に負けるところぐらいなんだわ。ほんとすまねぇ……」



【孔融 文挙】

「うおぉぉぉーーーい!!! 撮影スタッフぅぅぅーーー!!! なぜにわしを曹操陣営に含めるかぁぁぁーーー!!! ええい、許しがたい!!! 説教してやるからそこに座れぇぇぇい!!! 儂はそもそも孔子の末裔にして漢王朝の禄をはむ――あっ! こら! 映像を止めるな! バカモンガ!」



【楊修 徳祖】

「お初にお目にかかります。わたくし、姓は楊、名は修、字は徳祖と申しまする。『四世太尉』として有名な名門・弘農楊氏の出です。有り難くも曹操様に我が才を認めていただき、曹丕様、曹植様ら御子息たちとも親しくさせていただいております。以後、お見知りおきを」






小燕「以上、曹操陣営の皆さんでした。えっと……みなさん自己紹介する気ゼロでしたね」


董白「真面目に喋ってたの楊修っていう人だけでしたねぇ~。しかも、酔っ払いが二人もいるし。これだから悪役の曹操陣営は」


小燕「あっ、ちなみに、泰山府君からもらったメモによりますと、他にもまだまだ魅力的な人々が登場予定らしいですよ! えっとぉ~……曹沖様の数歳年上のお友達、周不疑しゅうふぎさん! それから、とっても優秀な武将の張遼将軍!」


董白「は? 張遼? あいつ、うちの祖父の部下だったことがあるから、生前に何回か会ったことがあるけれど、メチャクチャ真面目な面白くない奴でしたよ? この物語のノリについていけるんですかねぇ……」


作者「ちなみに、ここで紹介したのは現段階での人物たちです。予定が変更になり、出番がカットされる人物もいるかも知れません。悪しからずご了承ください」


董白「何か一瞬、変なアラフォー男が出て来て歯切れの悪い言いわけをしていったような……」


小燕「き……気にせずに、次は劉備陣営の皆さんをご紹介します!」


董白「VTRどうぞ!」






            ☆劉備陣営☆



【劉備 玄徳】

「………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………(ただ黙ったまま茫漠たる微笑を浮かべ、宇宙の深淵のごとく黒々とした瞳で読者あなたを見つめている)」



【関羽 雲長】

「我が義兄はちょっと寡黙なのです。気にしないでくだされ。……私は関雲長。義兄劉備、義弟張飛とともに天下万民を救う者。それだけを覚えてもらえれば結構」



【張飛 益徳】

「張飛だ! よろしくな! 三国志演義では翼徳って呼ばれているけど、史実の字は益徳なんだ。……でも、翼徳のほうがカッコイイんだよなぁ~。作者に無断で、物語の途中で字を変えちゃおうかなぁ~」



【諸葛亮 孔明】

(現在、劉備の三顧の礼イベントが発生中。本人は消息不明)



【黄夫人】

「孔明の妻ですー。うちの夫が行方不明ですみませーん。すぐに帰ると思うのでー。ところで、読者さん。私の発明品の被験者になってくれませんか? いつも実験に付き合ってくれている義弟の諸葛均くんが全治三か月の怪我をしちゃったもんでー……」






小燕「以上、劉備陣営の皆さんでした」


董白「肝心の孔明失踪してるじゃん! もったいぶらずに顔出ししろや! あと、劉備も何かしゃべれ!」


小燕「次は孫権陣営から孫権さんと周瑜さんを紹介――」


董白「もういい。お腹いっぱいです。孫権陣営はカットしましょう。どうせまともに自己紹介しないんだから」


小燕「え? いいんですか? この人たちも重要人物なんじゃ……」


董白「そもそもこの物語の主人公は曹丕と司馬懿ですよ? 二人は鄴で暮らしています。遠いとおい江東にいる孫権、周瑜と直接出会う機会なんてあるわけないじゃないですか」


小燕「あーたしかにそうですね! 全く別の場所にいる曹丕様や旦那様が孫権陣営の人たちと、なんやかんやでだなんてお話、有り得ないですもんね! よし、省略しましょう!」


董白「というわけで、読者の皆様。第二部『神殺し編』がいよいよ始まります。敵は第一部のラストで現れた謎の邪神・度朔君どさくくん! はたして曹丕と司馬懿は度朔君に勝てるのか⁉ 乞うご期待!」


小燕「第二部一章では、ついに乱世の奸雄・曹操が満を持して本格的登場! あと、度朔君とは別の神様が鄴城でひと騒動を起こすみたいですよ! 列異・第二部一章『女神襲来』をお楽しみにぃ~!」


董白「ところで小燕ちゃん」


小燕「はい?」


董白「やっぱり……皮、剥ぎにいかない?」


小燕「ダ メ で す ! ! !」

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