第467話 【勝ち進む者達・3】


 距離が縮まりエリスさんは少し焦ったのか、魔法の軌道が少しズレてしまった。

 魔法はヨルドに向かう事無く、会場の壁に向かって放たれ。

 その隙をヨルドは見逃さず、エリスさんとの距離を一気に詰めて蹴りを入れた。


「うっ、痛そう……」


「あの攻撃、本当に痛いよ。エリスさん、大丈夫かな……」


 レイのヨルドの攻撃を見た感想に対し、クロエは実際に体験した身としてエリスさんの心配をした。

 そんなエリスさんはヨルドの攻撃で数m吹き飛ぶが、魔法を上手く使い蹴りの衝撃ダメージだけで済んだ。


「今の魔法の使い方上手いな……風魔法で自分の身を包んで衝撃を緩めながら着地するって、相当な技術が必要そうだ」


「流石、エリスさんだよね」


 俺とクロエはエリスさんの魔法の腕前に対して、改めて凄さを感じた。

 そうこうしていると、再びヨルドとエリスさんの激しい攻防となり、その戦いが激化していくと、ふとエリスさんが右手を上げ戦いか止まった。

 エリスさんは本気でヨルドと戦い、魔力を使い切ってしまったみたいだ。

 純粋な魔法使いであるエリスさんはこれ以上戦えないと判断し、審判に向かって降参を宣言した。


「引き際もちゃんとしてるな」


「あのまま戦っても、エリスさんとしては勝算が低かったもんね。魔力殆ど底ついてて、今も立ってるのがやっとって感じだもんね」


 ここからでも、エリスさんの状態が悪い事がわかる。

 そんなエリスさんに対し、対戦相手であるヨルドは近くにより手を差し出して二人は握手を交わした。

 先ほどまで激しい戦いを繰り広げていた二人のそんな光景に、観客たちは更に盛り上がり。

 楽しい戦いを見せてくれた二人に、俺達も含め戦いを見ていた者達は拍手を送った。


「ヨルドが上がって来たか……まあ、少しあいつが上がってくるかもなとは思ってたけど、エリスさんとの戦いを見ていると俺が想像している以上にあいつは強者な気がしてきたな」


「さっきの魔法もそうだけど、実際に攻撃として使うんじゃなくて、あくまで自分の戦いのサポートとして使い方は本当にうまかったよね」


「自分のタイプが接近戦だと理解してる中で魔法もある程度、実戦で自分の為に使えるように訓練してるのは本当に凄いと思う。……って、レイ? さっきから黙ってるけど」


 俺とクロエが話してる間、ずっと無言で会場で観客席にアピールしてるヨルドをジッと見つめていたレイに俺は声を掛けた。


「あの人の戦い方、私も参考にしないとなって……あの魔法の使い方、私の戦い方にも合ってると思うんだ」


「まあ、確かに同じ前衛タイプだし、ヨルドみたいな魔法の使い方は今のレイが覚えたらもっと戦い方の種類が増えそうではあるけど、今のでも十分じゃないのか?」


「ううん。今のは魔物相手には有効だけど、対人となってくると弱さが目立つんだよね。さっきの試合、ルークさんとの戦いでそれが思い知らされて、どうしようかなって悩んでたの」


 成程、それでヨルドとエリスさんの試合中も、いつにも増して真剣な表情で見ていたってわけか。

 同じ前衛タイプで、同じような戦い方をするヨルドに自分の今の戦い方と合わせて、変えられる部分を探っていたんだろう。


「レイの言いたい事も何となくわかるよ。それじゃ、この大会中に試すのか?」


「……そう考えてたけど、流石に今から直ぐに戦い方を変えたら無理そうだから、この大会は今までの自分の戦い方で行くつもりだよ。大会が終わって、迷宮に戻った後にまた色々と試そうかなって考えてる」


「そうか、レイがもっと強くなる為に俺も協力するよ」


「私も協力する。レイちゃん、もっと上目指そうね」


 そう俺とクロエが言うと、レイは「二人共、ありがとう」と笑みを浮かべてそう言った。

 その後、試合の準備が終わると、試合の選手が会場に出て来た。

 トップ4入りを掛けた第三試合目の選手は、素性を隠している勇者対俺達と同じ選抜選手の双剣使いだ。


「あの人、ヘレナさんに勝った選手だね。勇者さんとどこまで戦えるのかな?」


「そうだな。実力を隠した勇者とどこまで戦えるか見ものだな」


 この双剣使いは本選一戦目で姉さんの相手として出てきて、巧みな剣術で姉さんを追い詰め。

 試合時間を10分以内で試合を終わらせた事で、俺の中でも少し印象に残っている。

 そんな選手と実力を隠してる勇者の戦いは、この大会の中でもかなり興味を引いた組み合わせの戦いだ。


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