第404話 【おしかけ弟子候補・3】


 二人の仲直りを見届けた後、俺達はそれぞれの部屋に入り休む事にした。

 そして翌日、今日は攻略に行く前に俺は、迷宮の外に出て俺はリーザの店へとやって来た。


「リーザ。予定通り来たけど、頼んでたものは出来たか?」


「勿論よ。頼まれていた工具は全部出来ているわ」


 受け取りに来たのは、少し前にリーザに頼んでおいた物作りに使う工具だ。

 最初は既製品を買おうと思っていたが、金も時間もあったから作ってもらう事にした。

 そして頼まれたリーザはかなり乗り気になって、良い素材を沢山使ったみたいだ。

 工具一つで上級冒険者の武器並みの価値のある物が出来たのだが、それ相応の能力があるみたいだ。


「久しぶりにこういうのを作ってみたけど、装備とは違った楽しさがあったわね。メンテナンスが必要な時はちゃんと来るのよ。息抜きにピッタリだったわ」


「分かってるよ。それにしても、偶にしか使わない物にこんな金掛けたのは初めてだな……」


「ジンって見た目に似らず、貯金するタイプだものね。逆にクロエは、かなり使ってるわよね?」


「まあ、クロエは買い物も一つの趣味みたいなものだからな、俺の場合は特に必要な物が無いから溜まっていく一方なんだよな。趣味とか、見つけた方がいいよって姉さんからも言われてるけど、特に思いつかなくてな……」


 リーザの言葉にそう答えると「それ、趣味じゃないの?」と、工具を指して言った。


「趣味って所までじゃないな、今の所は良くて候補の一つだな」


 そうリーザに言った後、リーザから「良い趣味が見つかると良いわね」と言われて、俺は店を出た。

 店を出た後、俺は久しぶりに王都の商店街を見て回る事にした。


「随分と人が増えたな、冒険者の数もそうだけど商人の数も増えたみたいだな……」


 少し歩くと店自体新しい所が出来ていたり、歩いてる冒険者の数も増えている。

 ゲーム時代には見た事無い店も出来ていて、完全に俺の知識外の事が起こってるんだなとこういう所を見ると実感する。


「まあ、それで言うと遊戯神の迷宮もそうか……」


 そう俺は思いながら商店街を歩き、出店で小腹を満たす為に串肉を購入して近くの公園に寄り、ベンチに座って食べる事にした。


「あれ、もしかしてジンお兄さま?」


「んっ? ……もしかして、イリスか?」


 串肉を食べていると、前を歩いていた少女は俺の顔を見ると驚いた顔をして、俺の名を呼んで近くに寄って来た。

 俺はその少女をよくみると、記憶上のとある少女の事を思い出して名前を口にした。

 すると、その少女はニコッと笑みを浮かべ「はい! お久しぶりです。ジンお兄さま!」と俺に抱き着いて来た。


「イリスちゃん、久しぶり! 元気にしてた?」


「イリスちゃん、おっきくなったね~」


「久しぶりだな、イリス。元気にしていたか?」


 イリスと再会した俺は、あの後直ぐに宿にイリスを連れて行きクロエ達と会わせた。

 クロエ達はイリスが居る事に驚き、そして嬉しそうに挨拶を交わした。


「お久しぶりです。クロエお姉さま、レイお姉さま、レンお兄様」


 イリスはクロエ達に礼儀正しくそう挨拶をすると、ニコリを笑みを浮かべその表情にレイは我慢出来ずにイリスに抱き着いた。

 イリス、彼女は俺よりも二つ歳が下の少女で、彼女と会ったのは俺達が旅を始めた最初の頃だ。


「イリス、大きくなったな」


「はい! ジンお兄さま達に教えて訓練方法を毎日欠かさずやって、好き嫌いもせずなんでも食べてたら大きくなりました」


 イリスと会った時、彼女は痩せていて同年代の子に比べて身長も低かった。

 その体系の理由として、一つは彼女が孤児だったというのが大きな理由だ。

 元々は普通の村娘だったのだが、俺達と出会う一年程前に両親を災害で亡くし孤独の身となっていた。

 頼りにする相手が居らず、かといって仕事の出来る力も無かったイリスは、偶に村に来る人物の案内役をして日銭を稼いでいた。

 そんな所に俺達がやってきて、案内役として雇い数日間村に滞在してる間に、俺達はイリスと仲良くなった。


「あの頃のイリスちゃんも可愛かったけど、大きくなったイリスちゃんも凄く可愛いね」


「ありがとうございます。レイお姉さま」


 そして滞在期間中にイリスと仲良くなった俺達は、次の街を決める際にイリスを連れて行くかで凄く悩んだ。

 この村に居てもイリスの未来は暗いままだろうと、だけど当時は俺達もそこまで絶大な力を持ってる訳では無かった。

 その為、ただの村娘だったイリスを危険な旅に連れて行くのは難しいと判断して、イリスに生きる全て訓練方法を伝えて別れる事にした。


「あれから凄く頑張ってみたいだな、もうイリスを見ても誰も孤児の様な生活をしていたなんて思わないだろうな」


「はい。これも全て、ジンお兄さま達の助力と知恵のおかげです」


「俺達はただ手を貸しただけだ。その力を手にしたのは、イリス自身だ」


 イリスの言葉に普段こういう話では、あまり口出しをしないレンがそう言った。

 レンにとってイリスは二人目の妹の様で、当時も短い期間だったが遅い時間まで勉強をみてやったりしていた。


「そう言えば、イリスは何で王都に居るんだ? 冒険者にでもなるつもりか?」


「冒険者にはもうなってますよ」


 そうイリスは言うと、俺達に自分のギルドカードを見せてくれた。


「へ~、もう鉄級なのか? かなり頑張ってるみたいだな」


「お兄さま達に早く追いつきたい一心で一人で依頼をこなしていたら、いつの間にかここまでなってました。お兄さま達の教え通り、最初からパートナー登録をしたおかげで、変な人に絡まれる事も無く冒険者生活を送れています」


 そうイリスは自分の今の状況を説明を終えると、今度は俺達がイリスに今までの旅の冒険譚をイリスに話す事にした。

 その内容はイリスの想像を超えていて、イリスの驚く顔を俺達は何度も見て、そのたびに笑ったりして楽しい時間を過ごした。

 そんな楽しい時間を過ごしながら俺はふと、イリスなら俺達の仲間としての候補にはピッタリかもなと薄っすらと思い浮かべた。


 勉強熱心で、皆とも仲が良く、一人で鉄級まで上がって来た実力も持ってる。

 そう俺は楽しそうに皆と話をしてるイリスを見ながら、そんな事を考えたが、直ぐにその考えを止めた。

 今はそんな事を考えてる場ではないな、今はイリスのとの再会を楽しもう。

 考えを改めた俺は、イリスを仲間にという考えは止めて、今はイリスとの再会を楽しむ事にした。

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