第372話 【玉の力・3】


「ねえ、ジン君。本物を狙うなら、偽物の魔法玉がどんな効果を発揮するのか、使ってみたりはしないの?」


 メイから魔法玉の事を聞いた翌日、迷宮の中を移動してるとレイがそんな事を言った。


「う~ん、それ俺も考えたけど念の為にとっておこうと思う。もしかしたら、研究の材料として使えるかも知れないからな、レンが研究でそのまま残してたら他の所で使うのもありだと思うけど」


「俺としてはどっちでも構わないけど、手に入れた状態のままの方が研究はしやすいと思う。レイやクロエ達が使いたいなら、使っても俺は構わないよ」


 俺とレンがそう言うと、レイは少し考えて「それなら、残してていいよ」と言った。


「どうせ私、そんなに魔法は得意じゃないから使う事は無いだろうし」


「私も使わなくても大丈夫だよ。レン君の研究材料に残しておいて」


 レイ達がそう言ったので、偽物の魔法玉はそのまま残す事が決まった。

 それから俺達は探索はそこそこにして、下に降りる階段を見つけたら即座に降り、下へ下へと向かっていった。

 俺とクロエの位置が変わってる事で、それぞれに良い効果が出ていた。

 クロエは俺以上の探知能力を持ってる為、接敵する前から魔物が来ることを察知して、俺達は一方的に魔物に奇襲する事が出来ていた。

 そして俺が後方に下がってる事で、火力の上がった魔法で援護を行い、俺達は70層以前と変わらない動きをしていた。


「やっぱり、ジン君との差は経験だけじゃ埋まらないね。久しぶりにジン君が魔法メインで戦ってる姿見たけど、威力が全く違ったよ」


 昼食の為、一旦迷宮の家に戻ってきた俺達はご飯を食べていると、クロエがそんな事を言った。


「確かに、ジン君の魔法は威力が凄いよね~」


「聖国との戦いから、ジンの魔法の威力はかなり上がったよな。やっぱり、レベル100を超えてる上に魔力が数万って数値だからだろうな」


「それもあるけど、実際は制御するよりも威力でゴリ押しした方が楽ってのもあるんだよな」


 クロエの様に正確に狙って魔法を扱う事も出来るが、迷宮内で遭遇する魔物にそんな事をしてるのが面倒だなと思ってしまう。


「ジン君のその気持ち私分かるかも、私も迷宮内で遭遇する魔物相手に精確に狙うのが面倒だなって思って、途中から威力任せにしてる時あったから」


「長い戦いなら精確な魔法の方が良いけど、迷宮内で偶に遭遇する魔物相手にはごり押しの方が楽だよな」


「そうだな、油断という訳では無いけど面倒だからごり押しになるよな」


 同じ魔法使い同士、俺とクロエ、そしてレイはそこで意見が合ったように頷いた。


「へ~、そうなんだね。私は魔法使わないから分からないや、魔物との戦い楽しんでるから」


「レイはそのままでいいと思うよ」


 笑いながら言ったレイに対して俺はそう言い、昼食を食べ終えた俺達は再び攻略に向かった。

 攻略再開から一時間程が経った頃、本日初めての魔法玉持ちの魔物を見つけた。


「探さずとも出て来たな」


「そうだね。どうする? 一応、玉狙ってみる?」


「取れたらいいな程度に狙ってみるか」


 事前にそう話し合いをした俺達は、魔物達に奇襲を仕掛けた。

 今回、魔法玉を持ってるのは上位個体のスケルトンで見た目から魔法使いの様なローブを羽織っていた。

 これまで魔法玉を持っていた魔物は、接近武器を持っていて魔法を使うような奴等じゃなかったが、今回は違うようだ。


「魔法使いが魔法玉を持ってるか、気を付けた方が良いな」


 そう俺は皆に注意をすると、魔法使いのスケルトンは魔法玉を掲げながら魔法を放ってきた。

 その魔法はこれまでこの迷宮内で見て来た魔法を使う魔物とは、比べ物にならない魔法で驚いた。

 咄嗟にそれ以上の威力の魔法を使い相殺したが、スケルトンは更に魔法を放ってきた。

 更にそこに他の魔物達が勢いづき、奇襲を仕掛けた俺達だったがスケルトンの魔法に驚いて少し押されてしまった。


「ふぅ、ちょっと驚いたな……」


「うん。あんな凄い魔法をスケルトンがしてくるなんて、驚いたよ」


「少し前のドラゴンが使ってた魔法クラスの威力だったよね? あんな魔法を普通の階層で出てくるなんてこの迷宮やっぱり凄いね!」


 俺とクロエはスケルトンの魔法に驚き、レイは何故か嬉しそうにそう言った。

 正直、あのレベルの魔法を普通の魔物が使って来た事に俺は内心、凄く驚いていた。

 レイの言った通り、スケルトンの魔法はドラゴンが使っていた魔法クラスの威力だった。

 あれが、魔法玉の力なのか?


「魔法玉、偽物でも相当なアイテムという事が魔物のおかげで分かったな……」


「自分達の物を使わなくても、検証出来た事は嬉しいな……まあ、手に入らなかったけど」


 スケルトンの魔法に驚き、戦いが白熱した結果、偽物の魔法玉を手に入れる事は出来なかった。

 正直、研究材料としてあっても良かったから、とれなかったのは少し悔しい。


「でも、まだ90層までまだあるから、また出てくるかもしれないよね」


「そうだな、今回は魔法に驚いたけど次は驚かないだろうから、次見つけたら魔法玉をとれるように頑張るか」


 そう言って俺達は気持ちを切り替え、攻略を再開した。

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